7.VRMMOのゲームを自作してみた
カケルが考えたアイデアの概要は、以下の通り。
プレイヤーは10階層あるダンジョンに潜って、1~9階層の中ボスを1つずつ倒して行き、10階層目のラスボスを倒せばゲームクリア。
ボスは部屋の中にいて、プレイヤー達と戦闘状態になる時は部屋の扉が閉まり、後から別のプレイヤーが入ることは出来ない。
ボスには必殺技があり、プレイヤーに大きなダメージを与えることが出来る。一方で、プレイヤーは、あるレベルに達すると必殺技を習得できる。
戦闘に勝利すると次の階層へ移動できるようになるが、階層の間は、階段で下りる、坂で滑り降りるなど、全て違うパターンを用意する。
戦闘に敗北すると、部屋の中にいたプレイヤー達は扉の外へ強制退去となる。
プレイヤー達がボスの部屋からいなくなると、扉が開いて、外で待っていたプレイヤー達が入れるようになる。この時、ボスが倒されていてもHP等は初期値で復活する。
階層ごとにボスの属性に似た魔物を3種類用意する。出現のタイミング、魔物の数、出現場所はAI任せ。
ドロップアイテムを30種類用意し、魔物を倒すとランダムに出現するようにする。これは戦闘で使用したり、店で換金も出来たりする。
武器は20種類、防具は15種類用意する。これらは、店で買える。なお、店では武器や防具の買い取りが可能。
魔法アイテムは10種類、回復アイテムは5種類用意する。店で買えるがドロップアイテムとしても現れる。これらも店で買い取りが可能。
以上をテキストに書き起こしたカケルは、ちょっと多すぎたなとは思ったが、プレイヤーから『しょぼい』と思われないようにこのまま盛りだくさんの内容で行くことにした。
舞台となるダンジョンの光景や、魔物、必殺技、武器、防具、各種アイテムは、特徴を書いておけば、AIが自動で作成してくれる。調整で変更を加えるのは、小説の場合と同じく音声入力で出来る。なお、自作のイラストを読み込ませ、2Dから3Dへ変換させて作ることも可能だが、カケルは絵心がないので断念した。
調整が終わるのに半日以上かかって疲労困憊のカケルは、休憩後、早速テスト機能で自分の作ったダンジョンの第1階層へフルダイブした。
実際にプレイしてみると、魔物の迫力のある動きに息を飲み、不格好ながらも剣を振るって何とか退治し、レベルアップすると達成感が得られた。
3回ほどゲームオーバーになったが、ようやくの思いで中ボスの部屋にたどり着くと、まるで歯が立たないのですごすごと退散する。元々、複数人が共同で戦わないと倒せないほどボスのレベルを上げているので、ソロプレイでは無理なのは仕方ないのだが。
でも、こんなに簡単に自分がVRゲームを作れるのだと思うと、感慨もひとしお。
カケルはその後、主にレベル調整を何度か行い、雑魚の魔物も追加してレベルアップしやすいように配慮した。一方で、ラスボスは鬼のように思いっきりレベルを上げて、それまでの階層で相当レベルを上げておかないと即ゲームオーバーになるようにした。
さて、2日かけて作ったゲームのタイトルは『フォレ・ドゥ・シャ・ノワール』。フランス語で『黒猫の森』だ。
ゲーム開始時に、初めてプレイする人はアバターを選択し、街に繰り出す。そこに唯一あるギルドへ行くと、マスターから『黒猫が棲む深い森があり、そこにダンジョンの入り口がある。一番奥に財宝が隠されているので、それを取ってきて欲しい』という依頼を受ける。店で武器と防具を揃えて装備し、ギルドへ戻ると、ダンジョンの入り口へ転移魔法で瞬間移動する。後は、ダンジョンに潜ってゲームを進める。
――ちょっと安易なスタートかな?
カケルは、公開前に少々心配になった。だが、ダンジョン攻略が目的なので、そこに至るまでのエピソードはダラダラ続かない方が良いと思って、このまま公開を決意した。
公開前に登録されている新作ゲームの一覧を見ると、すでに20ものゲームが名前を連ねている。2日前は2つしかなかったのに10倍になるとは、クリエイター達がこの機能に注目し、こぞってアップしたようだ。
カケルは公開してすぐ、ミヨへ電話をかけた。今は20時。寝ているはずはないから2、3コールで出るだろうと思ったが、彼女はいつまでも電話に出なかった。
心配になった彼は、いったん電話を切り、もう一度かけようとするとミヨの方からかかってきたので安堵する。
「もしもし」
『ごめん。お風呂に入っていたから出られなかった。何?』
「ゲームをアップしたよ」
『おー! 早速プレイするね。頭乾かしてからだけど』
「タイトルは、フォレ・ドゥ・シャ・ノワール」
『は?』
「黒猫の森、のフランス語」
『アハハッ! シャンパンか何かの名前かと思った!』
ミヨがカラカラと笑うので、カケルは不安に駆られた。
「変えた方が良かったかな?」
『いいっていいって。横文字のゲーム名は他にもたくさんあるし。ほとんど英語だけど』
「やっぱり、分かりにくいかな?」
『お洒落でいいじゃん』
「わかった。今のままにする」
『ねえ』
ミヨがそう呼びかけてから無言になった。次の言葉を待つカケルは、なかなか彼女が言わないので心配になってきた。
「どうしたの?」
『ごめん。ドライヤーを探してた』
「そっか」
『ねえ。友達呼んでいい?』
「……いいけど」
微妙な間合いを作ったカケルは、後悔したが遅かった。
『何? 二人きりでプレイしたかったとか?』
否定はしたくないが、肯定は恥ずかしいので、返す言葉がない。
「…………」
『せっかくだから、みんなで楽しもうよ』
「わかった。誰を呼ぶの?」
『シノとマユとアキ』
3人とも同じ学部の女の子だ。どうやら5人パーティーを組むらしいが、4人とも女の子というハーレムになりそうだ。カケルは赤面しながら答える。
「いいよ」
『じゃあ、1時間後に』
電話を切ったカケルは、心臓の鼓動が早まるのを感じていた。
――いきなり知り合い4人と自作のゲームをするなんて……。
嬉し恥ずかしで落ち着かないカケルは、部屋の中を歩き回った。