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6.挫折しかけたが救われた

 カケルはその後、旧作の改稿とそのVR化を実施して次々とアップする作業を熱に浮かされたように続けていたが、累計で15作品になった時点で手が止まってしまった。


 なぜなら、()(しゆつ)の作品がどの程度読まれているのかを見てみると、PVもVPVも公開したその日のみワーッと増えるが、24時間()つとまるでリンク切れにでもなったかのようにアクセスのゼロ行進が続いたからだ。


 そのうちに誰かがアクセスするだろうと思っていたが、毎日0のオンパレード。これが14作品もあるものだから、完全にモチベーションがダウンしてしまったのである。15番目も初日だけで、他と全く同じ展開になった。


 頭を抱えた彼はこの原因分析を始めたが、腕組みをしても何も浮かばない。


 そこで、今まで活動していた大手投稿小説サイトでは、0続きの後、たまに全ページ数と同じPVがどの作品にもある理由が何かを考えた。


 ――もしかして、あっちは検索エンジンが(さら)っているだけなのだろうか? いや、誰かが1作品を丸ごと読み込むアプリを使って拾っている可能性もある。


 それにしても、PVが増えるのは数週間に1回あるかないか。と言うことは、本当は自分の作品が読まれるのは新着情報に載った最初だけで、その後は(まれ)に誰かが拾ってくれることがあるものの、膨大な作品群に埋没しているというのが実態だ。


 カケルは机に両肘を突き、手に(あご)を乗せた。そうして、なぜ公開後も長く読まれないのかを、読者の気持ちを想像してあれこれと考える。


 自分が読者だったら1ページ目でブラウザバックする理由は簡単に思いつく。でも、そのどれが今の自分の作品に当てはまるのかが(わか)らない。


 組んだ両腕を机に載せて()()したカケルは、深く嘆息する。


 今までミヨを念頭に置いて投稿し、彼女が喜ぶのが(うれ)しくて続けてきたが、この『VR作家になろう』ではミヨ以外の読者のアクセス数を増やそうと考えた。だが、アクセス数の伸び悩みで簡単に打ちのめされてしまった。


 ――どうしよう……。このままじゃ、昔に逆戻りだ。


 誰も読んでくれないなら(いさぎよ)く全部捨ててしまえ、と削除ボタンを押しそうになったのを思い出す。


 そんな自暴自棄に陥ったカケルを救ってくれたのは、「読んだよ!」と言ってくれて、感想を述べて良いところも悪いところも指摘してくれたミヨだった。


 カケルがそうやって挫折から立ち直った高校時代を思い出していると、スマホの着信メロディーが回想に割り込んできた。


 ミヨからの電話だ。こういうときは、何かを()かすときだ。それが何かを分かっているカケルは、(ため)()いがちにスマホを手に取った。


「もしもし」

『ねえ、いつやるの?』

「ああ、アップしたよ」

『それはもう読んだし、()たし。そうじゃなく』


 ここで言葉を切ったミヨは鼻息を聞かせ、無言で圧力を掛けてくる。


「プロットからVRMMOを作るってやつ?」

『そう。いきなり大人数でなくても、ソロプレイが出来るやつでも』

「…………」

『頑張るって言ったじゃん? 楽しみにしているのに』


 彼女が楽しみにしているということで引き上げられる彼のモチベーションだが、今回はかなり深く沈んでいたため、その程度では復活しない。


「ごめん。複雑なので、時間が掛かるんだ」


 言い訳しか出来ない自分がもどかしいカケルだが、これしか答えが浮かばなかった。


 言葉のニュアンスに敏感なミヨは、それが(うそ)であることを聞き分けていたが、まずは明るく応じる。


『そっか』


 そうして、無言のカケルに優しく言葉をかける。


『もし、頑張れって言うのがプレッシャーだったらごめん』

「ああ、そっちは大丈夫」

『複雑なんだ』

「うん」


 それはいかにも調べたかのようだが、実はほとんど何も調べていないので、嘘である。


()()()()()()()かと思って新機能に誘ったんだけど……』


 ミヨの言葉がカケルの心に響いた。


 ――気分転換か……。


 彼女が誘った新機能は、AIがプロットから構築した世界に読者が入り込むと、定められたルールとゴールを逸脱しない限り自由に行動できるという斬新的なもの。


 読者が最初から決まっているストーリー展開を目で追うのではなく、読者自身がプレイヤーとなってVRの世界を自由に行動できるということは、もうカイテネヨンデネではなく、カイテネアソンデネだ。


 VRMMOはソフト会社が開発に人物金を惜しげもなくつぎ込んで作り上げるものだが、それが一クリエイターのプロットで出来てしまうと言うのだ。


 今まで使ってきた機能から想像するに、登場するキャラのレベルとか属性とか得意技とかを決めてやれば、後は細かいグラフィックの指定等をAIに任せれば良いはず。詳しくは、ヘルプを参考にしよう。


 出来そうな気がしてきたカケルは、目の前に光明が差してきて、モチベーションも引き上がる。


 その間、ミヨがずっと電話を切らないで待ってくれていることに気付いた彼は、腹を決めて(ほほ)()んだ。


「うん、チャレンジするよ」

『ホント!?』

「時間は掛かるけど。待たせるようでごめん」

『ううん、待ってる!』


 自作の改訂をいったん棚上げにしたカケルは、新機能のヘルプを読み始めた。

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