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5.VRMMOも可能な新サービスが告知された

 3時限目のオンライン授業は大人数なので講師が一人一人に目を配らないのを良いことに、カケルはスマホで別の小説の改稿に着手した。ミヨは3時限目の授業がないから、突貫工事で修正してVR化した『最弱勇者と禁呪使い』を楽しんでくれるだろうなと、カケルは(ほほ)()む。だが、喜んだのも(つか)()、彼の顔はみるみる青ざめた。


 ――あの女の子の入浴シーンをミヨに見られてしまう!


 読者に文字で読んでもらう分には、きわどいシーンは人それぞれの想像に任せるから良いが、VR化したもので見せるということは、作者が頭に描いていた場面がズバリこれであることを読者へ示すことになる。つまり、あの3人の裸体が薄い水蒸気で部分的に隠れている場面を思い描きながら物語を書いていたと白状することになるのだ。


 だが、もう遅い。カケルは、『後悔したよ』と間違って書き送ってしまったことは単なる誤変換と笑って済ませていたが、実は自分には未来予知の能力があるのではないかと思えてきた。


 ミヨの反応が気が気でない彼は、授業はもちろんのこと、小説の改訂も手がつかず、みるみるうちに赤面する。


 スマホからアップロードするアプリは、現時点のPV、VPV、今読んでいる・()ている人数などもチェック出来るので、起動して恐る恐る(のぞ)いてみると、もうPVは200を越えていてVPVも50に差し掛かろうとしている。今読んでいる人数は25人、VRで観ている――フルダイブしている人数は15人だ。


 ――えっ? あっちより全然読まれている!


 今まで投稿していたサイトで作品が空気扱いされていたのとはまるで違う。まだ公開して10分しか()っていないのにこの良い感触なので、カケルは興奮して震えがやって来た。公開した時間帯がたまたま良かったのか、『VR作家になろう』のサイトが物珍しくて集まっている人が多いからなのか。理由はともあれ、(さい)(さき)良いスタートに彼の心は躍り、授業がすっかり上の空になってしまった。


 しばらくすると、スマホがミヨからメッセージが届いたことを通知したので、カケルは肝が冷えた。あの入浴シーンをなんて言われるのか(こわ)(ごわ)しながら、メッセージをタップする。


『リアルじゃない!』


 それが入浴シーンへの感想に思えた彼は、なんて返そうかと悩んでいると、続けてメッセージが届いた。


『あそこは、あんななってるんだ!』


 これにはダブルパンチを食らった気分になる。女の子3人が風呂の中で裸で(たわむ)れているあの場面はカケルのイメージ通りだが、まさか正直に答えるわけにはいかず、返す言葉に(きゆう)すると、


『戦闘シーンが格好良い!』


 ――そっちか……。良かったぁ。


 どうやら彼女は、入浴シーンに関しては大人の対応をしてくれたようで、彼はホッとした。


『ありがとう。観てくれて』

『ストーリー展開は大きく変えていないと思ったから、先にフルダイブしちゃった!』

『キャラを動かすとよく分かるよ。足りないところとか、余計なところとか、違和感とか』


 実際は、じっくり読み直して情景を思い浮かべてもそれらには気付くのだが、百聞は一見にしかずの通り、見る方が早い。


『他のも観たーい!』


 ミヨの拝むポーズが目に浮かぶカケルは、すぐに承知した。


『時間が掛かるけれど待ってて』

『ガンガン行こうよ!』


 カケルは講師の話し声の音量を下げて、他作品の改稿を再開した。



 90分授業が終わるまでに何度か『VR作家になろう』でのデビュー作のアクセス状況をスマホで確認したが、初回ブーストだったようで、徐々に落ち着いてからはパタリとアクセスがなくなった。


 でも、PVが300以上、VPVが1000以上、ピーク時の今読んでいる人数は30人、VRで観ている人数は50人という数字はカケルの予想を(はる)かに超えた。一時期、彼は、このまま数値が駆け上がっていくのではないかと心臓の鼓動が()()まなかった。だが、アクセスの数字が変化しなくなると同時に彼も冷静になり始め、PVが一人平均10程度、VPVが平均20程度では、43ページの作品の真ん中まで読者がたどり着いていないことに気付く。


 ――VRの方は最後まで観て欲しかったなぁ……。あの戦闘シーンは作者の僕だって手に汗を握ったんだから。


 最初の1ページ、1カットで『期待外れ』と思われて離れていったのだとしたら、正直悲しい。カケルの指はキーボードから離れて、反省ばかりが脳裏をよぎる。


 だが、こうした落ち込みはミヨの言葉を思い出すことによって吹っ切れ、カケルは再び作業に取りかかる。



 その後、3日間は夢中で改訂版を作成し――ただし、『VR作家になろう』のサイトでは新作にしか見えないが――VR化して行った彼は、10作品を公開した。いずれも、既公開のサイトのアクセス数を遥かに超えていて、彼の微笑みは止まらない。


 しかし、感想は0。アクセスも初日のみで停滞する現実を前にして、そうそうは喜んでいられなかった。


 ――新作をアップした方が良いかな?


 新作も良いが、もっと読まれたり観られたりするコツがないだろうかと、他のクリエイターの公開作品を調べることにした。


 ランキングの上位作品を(あさ)っていると、最初のページからしてまるで違う。この先はどうなるのだろうと気になって読まされてしまうのだ。中には、こうした方が良いんじゃないかと、ランキングにも載らない底辺クリエイターが言うのもおこがましい提案をしたくなる部分もあるが、それが悔し紛れの粗探しに思えてくるほど作品の格が違う。



 カケルがネットで小説の投稿を始めたのは高校一年生の時。何度も挫折しかけたが、クラスメイトで自称『活字中毒者』のミヨが全作品を読んで喜んでくれるので、立ち直っては新作を彼女に(ささ)げた。


 同じ大学の経済学部に進学し、同じゼミに入っても、彼女が『腐れ縁』と笑う書き手とそのファンの関係が続いていて、作品数も90を越えた。この2年間は、月に短編を3作品書いている。


 全てがミヨへ捧げる作品だった。だから、どの作品もPVが100~200というアクセス数でもさほど気にしていなかった。



 ところが、『VR作家になろう』のサイトで、今までに経験したことがないPV数を得てしまった。急にもてはやされた気分になり、数値に対する欲が出てきた。


 自分のVR化された作品を観てしまうと、実写化やアニメ化されたと()(まが)うほどだ。それがAIが(こしら)えた世界であることは分かっているが、その世界に浸っていると、自分は(すご)い作品を作り上げる潜在能力があるのではないかと思えてくる。


 ならば、自己流ではなく、もっと基本から自分を鍛え直した方が良さそうだ。


 そう思い直したカケルは、ネットの情報から――今更だが――小説の書き方やアクセス数を増やすノウハウを漁り始めた。もっと多くの人に自分の作品を読んでもらいたいという欲求に目覚めたのである。



 『VR作家になろう』にデビューしてから1週間が経ったとき、サイトに新機能追加の告知が成された。今から1週間後に公開される新機能は「AIがプロットから構築した世界に読者が入り込むと、定められたルールとゴールを逸脱しない限り自由に行動できる」というものだ。プロットの書き方によっては、VRMMO風のゲームも出来るという。


 小説はストーリーが固定で、結末は読者の想像に任せる終わり方でない限り一つしかない。しかも、自分が書いてVR化した作品に他の読者が姿を現すことはない。


 これが出来るというのである。


 新サービスがどんなものと想像を(めぐ)らしていたカケルがふとスマホの画面を見ると、ミヨのメッセージが届いていることに気付いた。


『ねえ。凄い機能が出るみたいよ!』

『出ると言うより公開される、だけどね』

『早速チャレンジするよね?』


 ミヨの中では、カケルが新機能に果敢に挑戦するクリエイターに見えているようだ。彼女の期待を裏切りたくはない彼だが、正直言って、プロットからそんな事が出来るのか、皆目見当がつかなかった。


『ねえ、するよね?』


 これはOKを返さない限り、矢のように催促されそうだ。


『うん、頑張る』

『楽しみー!』

『さっきも1つアップしたよ』

『おー! ありがとう! 頑張って!』


 カケルは彼女の言葉に励まされ、気力を(じゆう)(てん)して改訂作業に取りかかった。


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