2.クリエイター登録をしてみた
カケルがジャンプした先は、上下左右ともバナー広告が縁取りのように多数並んでいるページだった。無料で運営しているサイトだから企業広告の収入が頼りなのでこうなっているのは致し方なく、きっと小説の各ページでも読者の嗜好を想定してそれにマッチする広告を見せられるのだろうと容易に想像がつく。
広告以外のスペースには、検索欄、新着作品タイトル30件、人気急上昇作品5件の他に、ランキング、運営会社の紹介、ヘルプ、問い合わせ先などのメニューがある。近日公開の新機能もあるようで「Coming soon...」の文字が揺れている。登録された作品の一覧を検索で見てみると、このサイトは昨日公開したばかりなのにもう100作品以上も登録されている。ザッと数えた感じでは、投稿した作者の数は70~80人いる。こういうのを見てしまうと書き手の血が騒ぐのか、一覧をスクロールするカケルの目が真剣味を帯びてきた。
この新しい投稿サイトがどれだけ読者を集めるのか、昨日の今日では測りかねないが、僕も乗り遅れまいと思ったカケルは、ヘルプに目を通し概要を把握した。
まずは、読者に関する主なものは以下の通り。
投稿された作品を読む前に、本のページをめくる形式か電子書籍リーダーで閲覧する形式か、さらに横書きか縦書きかを選ぶ。平面ではなく立体的に読めるらしい。ただし、作者――このサイトではクリエイター――がそれらの設定を固定にしている場合は、もちろん選択不可。
作品の各ページの右上に「VR」ボタンがあるので、それを押すと作品に描かれた世界にフルダイブできて、そのページの頭からストーリーが展開する。これをVRモードと言う。
VRモードは一時停止が出来る。この停止中に、いろいろな角度から風景や登場人物を見たり、空を飛んで俯瞰したりすることも可能。ただし、物や人物に触れることは出来ない。
VRモードから通常モードに戻ると、停止した位置に最も近い位置の文章が青い文字列になり、ここまで進んだことを示してくれる。
読者は作品の感想を書き込むことが出来る。ただし、1日1作品につき1回まで。誰でも何でも書けるかというとそうでもなく、「クリエイターのみ可能」とか「感想受付しない」とかクリエイター側で制限されていればダメで、文章に誹謗中傷が含まれると投稿が自動で弾かれる。
作品の5段階評価を1日1回出来るが、VRの評価も5段階で出来て、別々の評価としてカウントされる。クリエイターは作品をVR化しない設定も出来るので、その場合はVR評価は常に0となる。
閲覧されたページはPV――Page View――としてカウントされるが、もしVRモードで閲覧された場合は、VPV――Virtual Page View――としてカウントされる。これも評価と同じく、別カウントになる。
閲覧した読者数の一日単位のカウント――ユニーク数――も閲覧ページの場合と同じく、通常モードとVRモードで別カウントになる。
以上のカウントが累計値として加算・集計され、そのランキングが1日単位で更新される。これは、後で週間単位、月間単位、年間単位になるようだ。
次に、クリエイターに関する主なものは以下の通り。
クリエイター登録は、必要最低限の個人情報とプロフィールとスマホの電話番号の登録でOK。個人を特定するマイナンバーは不要。これで11桁のアカウント番号が払い出されるが、一人で複数のアカウント番号を取得できない。
クリエイター登録をすると、ポータルの画面が変化し、クリエイターにしか見えないメニューが現れる。それが小説のVR化等の小説管理メニューだ。
小説のアップロードの仕方は、スマホ経由となる。クリエイター登録の時点で、そのスマホにショートメッセージが届いている。いったんVRヘッドセットを外して、メッセージに従ってアプリをダウンロードしインストールすると、以後そのスマホ上で小説のアップロード、プレビュー、文字修正、ページ削除、小説削除等、投稿と編集が出来るようになる。もちろん、この時にVRヘッドセットは不要。
アップロードした小説をVR化したいときは、VRヘッドセットを装着して小説管理メニューから対象の小説を選択する。ただし、文章が8000文字以上ないとダメで、R-18指定の内容は不可。
VR化は、AIが小説の内容から今のトレンド等を加味して自動で実施する。しかし、これはあくまでAIの提案であって、クリエイターはそこから登場人物や情景を調整する。
登場人物の調整は、顔、体型、髪型、声、服装等を音声入力でAIへ指示する。ただし、小説に書かれている内容と矛盾する場合は、当然拒否される。
情景の調整は、実際に自分の小説がVR化された世界へフルダイブして、音声入力でAIへ指示する。調度品を替えたり、通行人の数を増減したり、森の木の密集度合いを変えたり、風の強さを変えたりと、小説と矛盾しない範囲で変更が可能である。
調整が終わったら、一般に公開する。公開後は、VRでの閲覧者がいると調整が出来ないので、やりたければVRを非公開扱いにする。なお、文章の修正はVRでの閲覧者がいても可能だが、小説の内容とVR化された世界が不一致になるので、早々にVR非公開にして再構築と調整が必要だ。
一通り理解したカケルは目を輝かせ、自分の作品がVRでどう表現されるのかが知りたくて、早速クリエイター登録を開始した。
――まずは、最新作の勇者の物語で試してみよう!
こうしてカケルは『VR作家になろう』の88人目のクリエイターとして登録された。