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レクトールの誕生日 4

 実際、料理はどれもおいしくて、用意してくれた皆――作ったのは別の人かもしれないけれど――には感謝しかない。

 

「本当においしいよ。いっそ、このままこのビルに入っているようなレストランに並べてもおかしくないくらいだと思うよ」


 そう告げれば。


「それは良かったわ。用意した甲斐があるというものね」


 にこりと得意そうなシエナと、その隣で照れたような笑顔を浮かべるユーリエ、そして若干眉を寄せるリュシィの様子から。


「もしかして、この料理、シエナたちが用意してくれたの?」


「ええそうよ。余計においしく感じられるでしょう?」


 いったい、ここの飾りつけとかも含めて、本当にいつから準備してくれていたのだろう。

 言われてみても、まったくわからないくらい――まあ、僕にはそんな高級な舌はないから、そもそも判別とか無理だったけど――並べられた料理はおいしいものだった。

 ユーリエにはお弁当を貰ったことがあるけど、たしかに、すこし味付けが似ているかも、と思わないでもないけれど、本当にその程度だ。

 これは、気付けなかった僕が悪いのか、それとも、そのくらい一生懸命に、時間と手間をかけてくれたことを喜ぶべきなのか。


「ユーリエの料理の腕が凄いのは知っていたけれど、リュシィとシエナも料理なんてできたんだね」


 前に、料理は食べるものでしょ、なんて言っていた気もするけれど。

 

「そうでしょう。もっと褒めていいのよ」


 と催促されて褒めようとすれば。


「シエナ、あなたは味見役をしていただけでしょう。ほとんど、ユーリエが準備したようなものです」


「あら、味見だって立派な役割よ。それに、余計なことをしないようにって頼んできたのはそっちじゃない」


 どうやら、シエナはあんまり料理を得意ではないらしい。

 味見役はたしかに大切ではあるだろうけれど。

 

「それに、盛り付けだって、手伝いましょうかとは言ったわ」


「あなたの盛り付けは常識的ではなかったからです。そんなものを実際に並べるわけにはゆきませんから」


 どのような攻防があったのだろう。

 きっと、かなり斬新な、前衛的な盛り付け方だったんだろうな。ちょっと、見てみたかったような気も――


「そうかしら? でも、外国じゃあ、女体盛りと呼ばれる、普通の文化だって――」


「どう考えても普通ではなかったでしょう。あなたはいったい、なにを参考にしようとしているんですか」


 見ずに済んで良かった。

 リュシィがいてくれて本当に助かった。そんなことが実行されていたら、というか、エストレイア家の教育はどうなっているんだ。あまりにも、自由過ぎる。シエナも、セストも、どちらも。

 それに、それって、ある種、プレゼントは私というのにも通じるところがある。それならば、シエナは通常運転だったということか。その通常が僕たちのものとは離れているだけで。


「けれど、シエナの言うとおり、男性はそれで喜ばれるみたいだったのですけれど、シエナの言う通り、そうしたほうがレクトールさんも喜ばれたのでしょうか?」


「いや、お願いだからそんなことしないで」


 ユーリエまで、いったいなにを言い出すんだろう。

 そんなことをされたら、僕は一発で倒れる自信がある。

 そういうところは、シエナに影響されないで欲しいんだけど。


「ユーリエ。シエナに影響され過ぎです。正気を保ってください」


 リュシィが止めてくれて、ユーリエも「それは流石に恥ずかしかったからよかった」と言っていたので、こちらも――いや、こちらこそ、よかったとひと息つきたいところだった。

 それにしても、リュシィには本当に助けられているな。

 僕に心配されることじゃないといわれてしまうかもしれないけれど、いつか、それこそ胃に穴でも開いてしまうのではないかと、今から心配になる。まだ、初等科生だというのに。

 

「リュシィ。迷惑、というか、面倒をかけている僕から言うのは違うかもしれないけど、大丈夫?」


 僕ひとりでは対処に困ると思って助けてくれているのだろう。

 それは本当にありがたいけれど、もっと、自分のことも気遣って欲しい。


「……いえ。レクトールのため、というより、私がそんなカオスな空間に巻き込まれたくないからしていることですから、レクトールが気にする必要はありません」


「あら、素直じゃないわね、リュシィ。まあ、それはいつものことかしら。本妻として、そんなことをされてレクトールを誘惑されたら困るからだって、素直に言えばいいのに」


 もっとも、シエナが一緒にいるので、そんなに簡単には休まれないのだけれど。

 

「いいじゃない、誘惑くらい。そのくらい魅力的な相手ということでしょう? まったく魅力がないと言われるような相手より、魅力ある素敵な相手だと言われるほうが、リュシィだって嬉しいでしょう?」


「そうなんですか? だったら、もっとレクトールさんのこと、誘惑? したら良いのでしょうか?」


 シエナの口車――謎理論に説得されかけ、ユーリエまでおかしなことを口走る。

 そういうのは、積極的にするものじゃないというか、ユーリエが好きな相手、気になる相手のためにとっておいたほうがいいというか。


「だったら、レクトールさんでも問題ないですよね? 私もレクトールさんのこと、好きですから」


 そんな風に可愛らしく首を傾げられても困る。

 

「あ、でも、リュシィもシエナもレクトールさんのことを好きみたいですから、三人でやったほうが、より、喜んでもらえるんでしょうか?」


 多分ユーリエが考えていることは違う。

 大筋ではずれていないのかもしれないけれど、考え方自体がすれ違っている。


「そうね。リュシィも黙らせられるし、いっそのこと、三人でしましょうか?」


 いっそのこと、三人でしましょうか、じゃないよ。

 ユーリエは違うだろうけれど、シエナはあきらかにわかってて言っているよね? てゆうか、セストも、面白がって笑ってるだけじゃなくて、きみの妹の暴走を止めてくれ。


「あら、暴走なんて失礼ね。前にも――いつも言っているけれど、私、いつだって本気よ?」


「なお悪いよ!」


「あ、でも、自分に盛り付けると、分けたりできないから、それだと皆では楽しめないから、こういうところには向かないんじゃないかな、シエナ」


 ようやくフォローしてくれたらしいユーリエだけれど、フォローの方向はずれていた。というか、これは本当にフォローだったのか?

 

「大丈夫よ、ユーリエ。ひとりづつ、順番に回せば」


 全然大丈夫じゃない。

 というより、いつまでこの話題続けるつもり? もしかして、それで僕の精神をねじ切るつもりじゃないよね?


「ふたりともいつまで馬鹿なことを言っているのですか。レクトールを放っておくというのは、今日の趣旨に反するでしょう」


 机の上の料理と、後から運ばれてきたケーキを皆で分けて食べ終えて、さすがにお腹もいっぱいになった。

 五人でゲームやレクリエーションも楽しんだし、まあ、ハプニングというか、演出だったのか、そんな事態もあったけれど、控えめに言って、最高に贅沢な時間を過ごさせて貰えたと思う。


「待って、レクトール。最後に、私たち三人、それぞれ、特別なプレゼントがあるのよ」


 プレゼントなら、最初に貰って今もまだ置かせて貰っているけれど。

 三人は顔を見合わせて。

 初めに近づいてきたのはユーリエで、なにか恥ずかしがるようにもじもじとしているみたいだったので。


「どうしたの?」


 と屈んでみれば、頬に柔らかいものを押し付けられた。


「お誕生日、おめでとうございます、レクトールさん。こうしてお会いできて、本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いしますね」


「こちらこそ、ユーリエ」


 はにかんだような笑顔を向けてくれるユーリエに、僕も微笑んで返し。


「レクトール。今年も楽しませてくれるわよね? ふふっ、ユーリエも加わって、一層、楽しくなりそうね」


「お手柔らかに頼むよ、シエナ」


 やっぱり頬にキスをしてくれた、含みのありそうな笑顔のシエナに、そんな願いを込めて。


「ほら、早くしないと、締まらないわよ、リュシィ」


 最後に進んできたリュシィは難しい顔をしていて。

 

「結局はすることに決めたんじゃない。まあ、私もユーリエもしたけれど、リュシィがしないというのなら、それはそれでいいけれど」


 シエナに急かされ、意を決したように、リュシィの顔が近付いてくる。

 そんなに決意をする必要があることなのか。

 

「レクトール。あなたにはこれからも迷惑をかけるかもしれませんが――」


「リュシィに関することで、迷惑なんて思ったことはないよ。むしろこっちのほうから関わらせて欲しいってお願いしたいくらいだよ」


 困ったような顔をしたリュシィは、ちらりとシエナたちを振り向いてから、そっと触れるだけの口づけを僕のくちびるに落とし、シエナたちがあげているらしい、嬉しそうな悲鳴が聞こえてきた。


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