表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/193

ご褒美デートの遊園地 6

 ◇ ◇ ◇



 迷路の攻略法の禁じ手といえば、垣根の外を大回りしてゴールへ向かう、空を飛んで一切の障害物を無視する、壁を壊して一直線に進む、あたりが挙げられる。

 そんなわけで、この遊園地にある、屋外の巨大迷路でも、飛行の魔法など、一部、アトラクションの意義そのものを否定するような魔法は禁止(あくまでも、推奨ということらしいけど)されていた。お化け屋敷での光を灯す魔法と同じようなものだ。あちらは完全に禁止だけど。

 まあ、わざわざ迷路に遊びに来る人間で、空を飛ぼうなんて考える人物はいないだろうけれど。

 

「せっかくだし、競争しましょう」


 アスレチックが各所に配置されている巨大迷路のスタート地点で、シエナがそんな提案をしてきた。

 三人とも、この遊園地に来るのは初めて、あるいは記憶にない昔ということで、一応、条件としては整っているようにも思える。ルートを知っていたんじゃ、迷路にならないから。当然、そうならない工夫もあるようだけど。


「全員初見の迷路なら、単純な運動能力だけの勝負にはならないでしょう?」


 迷路とは、その構造上、壁に沿って歩けば一直線にゴールまで辿りく。しかし、それではかなり距離を歩くことにもなるし、ときには思い切りとか、運の良さとかも重要になってくる。まあ、ここは迷路というにはいささか、外界との接触が多い、というより、外からはアスレチックの内容が丸見えなわけだけど。

 高さがあったり、遊具の種類によっては危険もあるかもしれないと思われているからかもしれないな。

 選択肢の多さによって惑わすというより、アスレチックの妨害によって到着を困難にすることに重きが置かれているようだ。迷路的なのは、お化け屋敷とか、他にもいろいろあるみたいだったから。

 ユーリエの運動神経がどれほどのものかはわからない……ダンスの練習からの推測くらいしかできないけれど、おそらくは、単純な運動能力ならば、リュシィやシエナのほうが上だろう。ふたりの運動能力がそれなりに高いということは知っている。

 ただし、アスレチック、障害物の相性によっては、それだけで勝負が決定づけられるとも限らない。


「勝負ってことは、勝ったらなにか景品があるの?」


 ユーリエは乗り気のようで、期待の込められた眼差しをシエナに向けている。


「そうね……」


 ちらりとシエナの視線が僕とセストを捉える。


「一着になったら、お兄様がなんでもひとつ、願いをかなえてくれるというのはどうかしら?」


「おい! なんで俺を巻き込むんだ! それならレクトールのほうが良いだろ!」


 あっさりと友人に売り飛ばされる僕。

 

「いや、なにを言っているのさ。シエナが――」


「まあ、レクトールでもいいわよ。商品の内容に変更はないわけだし」


 シエナが肩を竦め、僕とセストの視線がかち合い、互いに拳を振り上げる。


「じゃんけん!」


 差し出されたセストの手はグー、僕はチョキだった。

 

「そういうわけで、一着になったらレクトールが」


「常識的な範囲で」


 途中で口を挟めば、シエナがすこし面白くなさそうに唇を尖らせた。

 

「小さなことに拘るのね、レクトール」


「小さなことだと言うのなら、譲歩してくれてもいいんじゃないかな?」


 すくなくとも、その点に関して、僕は小さいこととは思っていない。たとえば、仮にその条件を呑んで、シエナが勝ったりした場合、なにをさせられることになるのか、想像するに恐ろしい。

 ユーリエやリュシィなら、ある程度、常識的な範囲で決めてくれるだろうというある種の安心感はあるけれど、このシエナという少女に限って言えば、もっとなにか、そう、混沌を巻き起こすようなことを言いだすかもしれない。

 

「心配いりません、レクトール。私が勝ちますから」


「私も頑張ります」


 その商品のおかげかどうかは不明だけど、すくなくとも、ほかのふたりのやる気は引き出したらしい。

 負けず嫌いというか、性格上、リュシィが賛成したのはわかるんだけど、ユーリエまで乗り気なのは意外だった。見た目と違って、結構――ここでも背伸びの件を持ち出すのはあれなんだけど――頑固なところもあるんだよな。

 もちろん、ふたりがやるなら、というところでもあるんだろうけれど。


「じゃあ、商品であるレクトールはゴール付近で待っていてね」


 アスレチックのマップを確認しながらシエナがルートを示し、そのゴール地点にいるようにと言いつけられ、商品らしい僕は大人しくそれに従うことにした。

 ただ、このアスレチック、大人でも若干手こずりそうなところはあり、そのままだと、長さ的にも、結構時間を消費してしまいそうにも思えたので、こういった迷路的なところでは禁じ手である、大外を大回りするように、迷路自体を迂回して、ゴール地点へと向かい。


「こっちは着いたよ」


 テレビ通話にて、準備ができたことを、スタート役のセストに報告する。

 

「おう、了解だ。それじゃあ、いいか、お嬢さんたち」


 セストの確認に、三人とも揃っていい返事をしたのが、端末越しに聞こえてくる。

 

「じゃあ、俺はスタートを宣言したらそのまま実況に入るから。レクトールにもこっちの状況を知らせてやったほうがいいだろうからな」


 セストの端末のカメラ部分が、子供たちに向けられて。


「それじゃあ、よーい」


 セストの高い指笛を合図に、三人が一斉にアスレチックへと向かって駆け出した。

 どうやら、最初は細い丸太の上を行くらしい。

 都合上、ひとりしか通れる幅はなさそうだけど。

 先頭はリュシィ、ほとんど遅れず、シエナ、ユーリエと、予想通りの順番だ。


「続いてはロープ上りって、これ、撮影しながらって、かなり難しくねえか?」


「体力差を考えればそのくらいのハンデはあったほうがいいんじゃない?」


 セストは勝負に参加しているわけじゃないけど、そうでないと、他三人と歩調を合わせるのは難しそうだし。


「――って、セスト! しっかり、前見て! てゆうか、正確には、画面見て!」


「悪い、レクトール、今、手が離せねえ」


 セストも同じようにロープを握って上っていて、手を離すのは危険だというのはわかっているけど。

 とりあえず、今のロケーションを確認しよう。

 初等科の三人組は、三人ともスカートスタイルだ。

 そして、セストは彼女たちを後ろから追いかけながら撮っている(さすがに、障害物をこなしながら後ろ向きにカメラを持って――表情を映しながらの撮影――は無理だろう)わけで。

 しかし、ここで大声を上げてしまえば、絶対、反射的に彼女たちは後ろ手に抑えようとして手を離し、結果、滑落しないとも限らない。

 決して本意ではなかったけれど、後で記憶ごと抹消することに決めて、僕は三人の後姿を画面越しに追う。

 次に一行が差し掛かるのは、最初と最後だけがロープでくくられている、揺れる丸太の一本橋。

 落ちたところで、下にはやわらかいネットとクッションなのか、トランポリン的なものかわからないけれど、衝撃を吸収するような素材が置かれているから、怪我をする心配はなさそうだとはいえ、時間的にロスになるのは間違いない。また丸太の最初に戻らないとコースに戻れないような仕組みになっているからな。あるいは、リタイアするか。

 うん。今思ったけど、これ、ひとりづつにしてタイム勝負にしたほうが効率的だったんじゃ。競争とは言ったけど、決して、時間的に押しているわけでもないし。

 

「セスト。悪いんだけど、どうにか正面に回ってくれないかな。こっちから皆の表情が見えなくて寂しいんだけど」


 あと、さっきみたいな事故を防ぐためにも。


「なるほどな。ちょっと待ってろ」


 セストは、魔法省では実験・開発局に勤めてはいるけれど、決して、体力がないとか、運動神経が悪いとか、そんなことはない。僕たち、軍事局ほどとまではゆかずとも、成人男性の平均程度には優れている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ