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ご褒美デートの遊園地 4

 ◇ ◇ ◇



 時間帯的にはお昼の時間を少し過ぎていた。とはいえ、食事をとるのには遅すぎるということもないくらいではあったのだけれど。

 なにが食べたいのかなんて希望を聞いても、園内にある食事は限られているし、目当てのものが必ず見つかるわけでもない。

 僕たちは、お化け屋敷の近くのレストランを探して入った。入ったといっても、建物の中にあるのではなく、外のテーブルにパラソルが差してあるタイプのところだったけど。

 生憎空席はなかったけれど、他のところを探してもどこも同じようなものだと思えたし、数分待っていただけで、食事を終えた四人グループが席を立ったので、隣の使っていない椅子を一脚拝借して、五人で同じテーブルに着いた。

 家族連れや、友達同士のグループ、カップルなんかも結構見られたけれど、家族でもない年齢の違う僕たちのようなグループはちょっと珍しいようで、他には見られなかった。

 そうして席を確保してから、机に設置してある簡易パネルで注文する。こういうところは、アミューズメントパーク的な施設でも、街中でもあまり変わらないんだな。

 キャラクターのプレートやらは、好奇心よりも抵抗が勝り、無難にカレーを注文した。

 セストは僕と同じだったけれど、女の子たちは、揃ってキャラクターのプレートを頼んだらしい。ここにしかないものだからな、多分。珍しかったんだろう。リュシィまでそれだったのは、少し意外だったけれど。

 数分で準備ができたと知らせがあり、席の番をセストに任せて、自分の分を(僕はセストの分も)取りに行く。

 

「今日ここに来て正解だったわね。リュシィの可愛い姿が見られて」


 シエナはさっきのお化け屋敷を出てから非常にご機嫌で、反対にリュシィは一言も話さず、もくもくとフォークとスプーンを動かしている。


「できれば写真に残しておきたかったけど、中は撮影禁止だったのよねえ」


 撮影自体は許可されていても、さすがにフラッシュは不許可だっただろうし、結局、意味はなかっただろうけれど。

 それに、シエナが言っているのは、多分、リュシィの醜態(僕自身は可愛かったと思っているけど、リュシィ本人にとっては恥以外のなんでもなかったことだろう)のことだと思うので、残してくれなくて残念……一安心といったところだ。今後、ずっとそれで弄られるリュシィを見るのは忍びない。


「あっちにのエリアには、身長制限のないジェットコースターがあるみたいよ。見た限りじゃ、ずぶ濡れになりそうだけど」


 初等科生三人組は、アトラクションの案内を見ながら次に行く場所を選定している。

 シエナがそう提案したのは、ユーリエが午前中のジェットコースターでのことを気にしているだろうと考えてのことだろう。もちろん、純粋に自分がスリルを楽しみたいという気持ちも多分に含まれてはいるだろうけれど。


「食事のすぐ後にそれはちょっと……」


 大丈夫かな? という感じで提案してみる。

 提案してきたからには平気なのだろうけれど、ひとつふたつ、別のアトラクションを挟んでからのほうが良いようにも思える。


「距離があって、歩きながら消化できるから大丈夫よ」


 ただし、それは人気のアトラクションでもあり、待ち時間がかなりある場合もある。

 

「どうかしらね」


 シエナは、レストランの机に設置してあるパネルを操作して、現在の混み具合調べているらしい。

 どうやら、このパネル、パーク内の地図や、アトラクションの混み具合、パークからのお知らせなんかも表示させることができるようになっている仕組みのようで、どう回ったら効率が良いのか、リアルタイムで知ることができるようになっている。

 効率だけで回るのが良いとは言い切れないけれど、指標にはなる。


「今はそんなに混んでないわね。皆、お昼ということかしら」


 パネルを見てみれば、混雑具合が激しいと示されているのは、どこもレストラン的な、あるいは飲食を取り扱うところであるようだ。

 ただし、僕たちがそうであるように、数分もしないうちに、またどこも混み始めるのは確実だろう。


「急ぎましょう」


「ちょっと待って、シエナ」


 シエナが席を立つので、僕は慌ててその手を掴んで引き留める。

 

「なにかしら、レクトール。皆、食事は済んでいるわよね?」


 たしかに、僕やセストはもちろん、ユーリエにリュシィも食器は空になっていて、すでに下げ終わっているけれど。


「もしかして、魔法を使うつもりじゃないよね?」


 僕たちの暮らすこのリシティアでは、緊急時以外、街中での魔法の使用は禁止されている。それはもちろん、このパーク内でもそうだ。

 魔法師と非魔法師が共に過ごしている以上、それはあるべきルールといえた。


「すこし早く走るだけよ」


 ニコリと笑顔を浮かべるシエナの言葉の後には、僕たちが黙っていれば、という言葉が隠されているのがわかる。


「シエナは僕の職業をわかっているよね?」


 魔法省内で僕の勤めている部署は、軍事局の諜報部。たしかに、取り締まりをするのは警察のほうだけど、まさか身内だからと見逃すわけにもゆかない。

 

「普通に走るのなら、周りの人の迷惑にならない程度なら、咎めるつもりはないけれど」


 シエナが肩を竦める。

 頑固ねえとか、融通を利かせてくれてもとか、そんな感じだろうか。

 ちなみに、魔法が使用されたかどうかは、各所に設置されているセンサーに察知されることになっている。センサーに気付かれない程度に上手く使う技量があるのなら話は別だけれど、引っかかったら、いろいろと面倒なことになる。

 結局、僕たちは小走りで向かい、直前の番には間に合わなかったものの、次の番の先頭には並ぶことができた。

 ちなみに、このジェットコースター。各所で水の中を進む(とはいっても潜るのではなく、シャワーや噴水のように吹き出るということだったけれど)ということもあり、乗り場でレインコートのようなものも借りることはできた。

 つまり、それだけずぶ濡れになる可能性があるということだろう。


「やるわよね?」


「私でも乗れるのなら」


「避ける理由がありません」


 だからといって、引く気はなさそうだったけれど。

 こちらは身長制限にひっかからず――さっきのところよりも、若干、緩かったため――三人とも、もちろん、僕たちも一緒に楽しめそうだ。

 全員、簡易のレインコート的なものを借り、先頭付近に固まって乗る。 

 先頭にはシエナとユーリエ、その後ろに僕とリュシィが並んで座り、そのひとつ後ろの席にセストという具合に案内された。

 こういうところでは、悲鳴に近い声を上げることがお約束なのか、動き出し、ぐるぐると回転したり、坂になっているところを上ったり、そこからの急降下があるたび、楽しそうともとれるような叫び声が前後から聞こえる。

 もっとも、お化け屋敷での醜態を返上するつもりなのか、隣をちらりと見てみれば、リュシィは特に変わらない、声を出してもいない、普段通りの表情だったけれど。高いところ(それから高速で動く乗り物もだけど)は平気だというのは、強がりではなかったらしい。

 舌を噛むかもしれないから、声は掛けられなかったけれど、わりと自由な手で、隣り合うリュシィの手を上から握れば、一瞬、驚いたような顔を向けられたけど、振り払われるようなことはなかった。シエナ(とユーリエ)が前の席にいて、後ろの僕たちの様子が見えていないからだろうな。

 とはいえ、普段はあまり繋いでくれないので――恥ずかしいからなのか、関係に納得していないからなのかはわからなかったけれど――僕としては、嬉しいことではあったけれど。

 


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