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ご褒美デートの遊園地 2

 週末の午前中、天気は晴れ、絶好の行楽日和に恵まれて、道が混まないはずもなかった。

 渋滞、というほどでもないけれど、それなりに道は混んでいて、窓の外をすれ違う車は皆、同じ方向へ向かっている。冷静に考えればそんなわけはないとすぐにわかるだろうけれど、こういう光景を見ていると、すれ違う誰もが同じ場所へ向かっているのではないかという、不安――とまではゆかないけれど、焦る気持ちも少し湧く。

 休日に行楽地が混むのは当然だけれど、やはり空いていて欲しいという希望はある。

 

「この人たち、皆、同じところに行くわけじゃないよね?」


 同じことを思ったのか、ユーリエがそんなことを口にする。

 

「そんな偶然はないんじゃないかしら。まあ、それなりには混んでいるでしょうけど」


 シエナは、混雑具合を気にはしていないのか、楽観的な口調だ。

 それとも、もしかしたら、遊園地に行ったことがなくて、休日のそういうところの込み具合を知らないのかもしれないけど……さすがにそんなことはないよね? まあ、知っていたからって、渋滞なのは誰のせいでもないし、僕にどうこうできる話じゃないんだけど。

 もしかしたら、ローツヴァイ家やエストレイア家なら、まるまる貸し切りにするとか――さすがに自宅に遊園地があるとは聞いていないけれど――やらないこともないかもしれないけど、たとえド混みの行列に直面しても、本当にそんなことをしたりはしないだろう。



 幸い、ユーリエの懸念は懸念に終わり、前を行く車たちはところどころで離れてゆき、最終的には混雑はそれほどしなかった。

 時間が早かった――行楽に行くのならそれくらいが普通だという意見あるけれど――ということもあり、ほとんど並ばず、開園とほぼ同時に入場できた。

 今日ここへ来ることはわかっていたので、チケットなんかは、全員、すでに当日フリーパスの前売りのものを取得済みだったため、端末の画面を表示させてコードを読み込ませるだけで、そこに時間を取られたりはしない。

 中に入ればそこに広がっているのは、同じ言語で、同じ地上、同じ国の領土内ではあっても、どこでもない、別の世界だ。


「じゃあ、ユーリエはどこから周りたい?」


 皆で遊びに来てはいるけれど、これはもともと、ユーリエへの御褒美というか、慰労なんかを兼ねてのことだ。本人の希望でもあるのだし、まずは希望を聞くべきだろう。


「えっと、私はどこでも。皆が良いと思うところで」


 希望がないというよりは、どこでも楽しみだということなんだろう。

 一応、身長制限とかがある場所もあるけれど、初等科六年にもなっている子供たちには――もちろん僕とセストにとっても――どこへ行っても、お断りされるということは、パンフレットを見る限りではなさそうだ。


「近場から回るのが良さそうですが」


 そう提案したのはリュシィ。実に合理的な考え方だ。


「じゃあ、あれね」


 シエナが指さしたのは、入場ゲートを潜ってすぐの、メリーゴーランドだ。


「行きましょう、レクトールさん」


 僕は外から手でも振って見ているから皆行っておいで、と告げる前に、ユーリエに手を引かれる。

 年齢的に恥ずかしさがないわけじゃないけれど、ここはそういう世界なのだし、楽しんだもの勝ちであることには違いない。

 

「仲の良いご兄妹ですね」


 係のお姉さんに言われ、否定することもなく、というより、なんでそう勘違いされたのかわからないままでいる間に、ユーリエと同じ馬のところへ進んできてしまっていた。ひとり乗り用とか、馬車の籠の部分みたいになっているものもあったけれど、僕たちが乗るのは、白馬の鞍の上だ。

 僕とユーリエが兄妹に間違われたのは、多分、髪色からとかそんな感じでの判断だったのだろうけれど、まあ、そこまで気にするほどでもない。


「兄妹……」


 しかし、ユーリエのほうは、なにか引っかかったようにわずかに眉を寄せている。

 僕と兄妹に間違われるのはごめんということだろうか。


「気にすることはないよ、ユーリエ。ユーリエは僕とは似てなくて、ずっとかわいいから」


 肩にかかる程度で広がるふわふわの髪、澄んだ青い瞳の美少女であるユーリエと、しがない庶民の僕とでは、まるっきり似ていない。

 だから、ユーリエもそれほど気にすることはないのに。


「えっと、その、ありがとうございます」


 頬をほんのり赤く染めながらはにかむユーリエは、やはり素敵な女の子にしか見えない。

 こんな子をエスコートしていれば、たとえメルヘンチックなアトラクションでも、僕が奇異の視線に晒されることもないだろう。ないと思いたい。

 リュシィとシエナはすぐ後ろの馬に乗り、セストは、俺は勘弁、とばかりに、外の、すぐ近くのベンチから手を振ってるから、と言っていた。

 まあ、男一人で乗るのには、さすがに勇気がいるかもしれない。誰も気にしないだろうとはいえ。

 それから、妖精の館と呼ばれる、妖精の人形が飛び出してくるメルヘンチックな仕掛け小屋をみて回ったり、鏡張りだったり、アスレチックが配置されていたりする迷路を相談しながら進んだり、ジェットコースターに乗ろうとしたユーリエが、身長制限で乗れなかったり。


「私のことは気にしないで、楽しんできて」


「いや、たしかに言い出したのは私だけど、ユーリエを置いていけるわけないじゃない」


 シエナが呆れたように肩を竦める。

 僕とセストは言うに及ばず、同年代の中でも比較的背の高いほうであるリュシィとシエナは問題なかったけれど、ユーリエは、本当に若干、数センチだけ規定身長に達していなかった。

 だからといって、まあ、保護者として僕かセストのどちらかが残るとしても、残りのメンバーだけで、とはいかないだろう。


「それに、リュシィは高いところが苦手だったし」


 シエナがそんな風に悪戯っ子の笑みを浮かべる。


「私は高いところを苦手としてはいません。飛行の魔法のテストでも、あなたより結果は良かったはずですが」


 そもそも、苦手なことなどありませんし、とリュシィはやや早口でそう告げる。


「ふーん。じゃあ、あそこに行きましょう。あれなら身長制限なんてないはずよね」


 シエナは楽しそうに歩いて行く。

 先にあるのは、おどろおどろしい雰囲気に包まれた館だ。

 

「ホラーハウスだね」


 ユーリエが看板を見ながらいえば、リュシィの身体が一瞬こわばる。

 

「ゆ、幽霊など、作り物に決まっています。亡くなった方の魂は、安らかに天界へと送られるか、あるいは地獄へ落されるかのどちらかで、現世に居残るなどありえませんから」


 まあ、これはテーマパークのアトラクションだし、作り物には違いないのだけれど。

 そういったリュシイはといえば、僕の肘の辺りをぎゅっと強く握りしめ、密着してくる。


「えっと、リュシィ。あの、怖――調子が優れないなら、僕たちが出て来るまで外で待っていてくれても」


 僕は一応、そうフォローしたのだけれど。


「そうよ、リュシィ。私たちが出てくるまで、この建物の前で、ひとりで待っていてくれてもいいのよ」


 シエナのほうは、完全に煽りに、あるいは怖がらせ――脅しにきている。

 さらには、そう言いつつも、自分はちゃっかりと兄の腕を捕まえる。

 ただし、リュシィとは違い、シエナのそれは、セストにここから逃げる(リュシィの元に居させる)という選択肢を与えないためだろう。


「リュシィ。もしかして、苦手だった?」


「いえ、そんなことはありません」


 ユーリエの問いかけに対するリュシィの返答は即座だった。

 横ではシエナがとても楽しそうに笑顔を浮かべているけれど、それに突っ込む余裕もないらしい。


「私がなにを恐れているというのですか。所詮は人の手によって作り出されたものです」


 行きますよ、と強く握られた僕の手を引いて、リュシィが先頭をきって入口へ向かう。




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