打ち上げとご褒美の約束
「それじゃあ、お疲れ様」
週明け。
このひと月あまりの間ですっかりいつもの光景として扱われるようになってしまったため、特に疑問ももたれずに魔法省の諜報部の部屋へと顔を出したユーリエたち三人と、なぜかいるセストを含めて、先日のリベンジパーティーの打ち上げが行われていた。
僕は仕事の――書類処理の途中だったんだけど、シエナに誘われた先輩たちに強引に引っ張られ、同席することになってしまった。
いや、緊急の用件はなかったから良いんだけども。
「いいんですか? 部屋をこんな私用に使用してしまって」
「構わん、構わん。この部屋だって、俺たちみたいなのより、お嬢さんたちのような華やかな少女に使われたほうが喜ぶだろう」
僕の所属する軍事局諜報部の部長である、オンエム・フォッセルンさんは、茶色の髪をかき上げながら、楽しそうに頬を緩ませた。
この部屋の主の許可が出ているのなら仕方ない。
てゆうか、その部長本人が先頭を切って打ち上げに参加しているというのは、どういうことなんだろう。
まあ、今回は招待状の件で、すこしとはいえ、お世話になったことも事実なので、あのときは助かりました、と再度頭を下げておいた。
「気にすんな。調べごとは俺たちの本職だしな。それに、結局対処できなかったんじゃ、なにもできなかったのと同じだからよ。むしろ、済まなかったな」
「いえ。対処できなかったのは、あの場にいた僕の問題ですから。むしろ、先輩がたには警告もいただいていたというのに、自分の未熟を恥じるばかりです」
ユーリエの名誉挽回は、今回のパーティーでできたと思う。
しかし、そもそもそんな状況に、しかも事前に怪しんでいたにもかかわらず、追い込んでしまったというのは、僕の失態だ。
「仕事の結果を求めるのに、就いてからの期間は関係ないともよく言うが、おまえは今回のが実質初めての現場みたいなところがあっただろ。今回の反省は次に活かされればいいさ」
これからも期待してるぞ、と強めに肩を叩かれて、そのままオンエム部長は、上司がいたんじゃ楽しめないだろ、と部屋を出て行ってしまう。
「おまえら、ほどほどにしとけよ。お嬢さんたちをあんまり遅くまで引き止めんじゃねえぞ」
その場合は、また僕がリュシィとユーリエを送る係を言い渡されることだろう。シエナに関しては、今日はセストも一緒だから、心配はない。
「どうだった、ユーリエ。今回は、楽しめたかな?」
前回のパーティーが、ユーリエの中でのイメージとして固まってしまうと、今後、そういった催しにユーリエが参加することがあった場合に、トラウマとしてだったり、あるいは、暗い経験として乗り気になれないことが多くなるかもしれない。
だから、ユーリエにとって、パーティーというのは、楽しいものでもあるのだという体験を持ってもらいたかったのだけれど。
「はい。どれも、レクトールさんたちのおかげです。本当に、ありがとうございます」
自分で作った(作ってきてくれた)クッキーをさらに乗せたユーリエは、はにかむような笑顔を浮かべた。
この場にマグリア嬢たちはいないけれど、その後の学院での様子も、仲良くできているということだ。
「この前も言ったけど、ユーリエが自分で頑張ったからだよ。ひと月ほどで形になるくらいにできたのは、間違いなく、ユーリエ自身が頑張った成果なんだから、もっと胸を張ってもいいと思うよ」
本当に、僕なんて何にもしていない。
頑張ったのは、ユーリエ自身と、先生役だったリュシィとシエナだ。
ないかできたら良かったなとはとは思うけど、ユーリエたちが自分たち自身で問題を解決し、成果を得たということは、間違いなく、誇っていいことだと思う。
「あ、ありがとうございます……」
照れたように顔を紅くするユーリエに。
「お祝いにってことでもないけど、無事に、それに見事に果たしたユーリエに、なにか御褒美でも、プレゼントするよ」
なにがいい? と尋ねれば、ユーリエは綺麗な青い瞳を瞬かせて。
「御褒美ですか?」
「うん。まあ、僕にできることなんて限られているけど、なんでも言ってみてくれて構わないよ」
達成感以外にも、たしかな技術として、今回の事はユーリエの中にしっかり残っているはずだ。
しかし、慣れないだろうことを、ユーリエがどれほど一生懸命に取り組んでいたのかは、僕自身、この目で確認してもいる。
「なんでもですか?」
僕にできることならと断りは入れてあるけどね。
うーん、と考え込むユーリエの肩に手がかけられ。
「ユーリエばかりずるいわ。レクトール。私も頑張ったのよ?」
シエナが得意げな顔で、見上げてきて。
「うん。シエナにも、もちろん感謝しているよ。僕にできることなら」
ユーリエの先生役を買って出てくれたのは、リュシィもシエナも一緒だ。
「あの、私、レクトールさんとお出かけしたいです」
お出かけ……買い物に付き合って欲しいってことかな?
この魔法省の近くには大型のショッピングモールもあるし、そのくらいなら、案内もできるとは思うけど。いや、案内なんて必要ないか。女の子の買い物なんだから、ユーリエたちのほうがよほど詳しいことだろう。
それに、そのくらいなら、別にリュシィもなにかを言ってきたりはしないだろう。
「じゃあ、今度一緒に――」
おずおずとユーリエが提案してきたのは、すこし離れた年にある遊園地だった。
そういうところには興味のなかった僕でも知っているくらいに有名なテーマパークで、公式キャラのグッズが販売されていたり、アニメ映画になっていたりもする。
「わかったよ。予定は開けておくことにするから」
この魔法省でも、週に一度は休みを貰えている。残業はあるけれど、そのあたりの福利厚生はしっかりとしていた。
まあ、国の機関だしな。
もちろん、僕たちの部署はその仕事内容だけに、全員が全員、同じ日に非番というわけにはゆかないのだけれど。
「ありがとうございます」
ユーリエが嬉しそうに微笑み、僕もつられて笑みを浮かべていると。
「ふたりでデートの約束かしら」
悪戯っぽい笑みを浮かべてユーリエに後ろから抱き着いてきたのはシエナだ。
「シ、シエナ。デ、デートって……」
真っ赤になったユーリエが口ごもる。
「ねえ、レクトール。今回のパーティー、私も功労者よね?」
「もちろん。シエナにもとても感謝しているよ」
ユーリエの練習に付き合ってくれたり、場所を提供してくれたり、ユーリエも感謝しているとは思うけれど、僕も、最初のユーリエの現場に居合わせたものとして、それから特訓に付き合ってくれたお礼をと思っていた。
「じゃあ、私たちも一緒に行って構わないかしら?」
たち? と少し疑問に思ったけど、ああ、リュシィのことか。
「うん。シエナとリュシィとも一緒に遊べるなんて、嬉しいな」
ユーリエが笑顔を浮かべ、それを受けてシエナも微笑んで。
「ねえ。リュシィも行くわよね?」
「なぜ確定事項のように言うのですか」
リュシィがため息をつく。
「あら、リュシィは行かないの? じゃあ、当日は私とユーリエ、それにレクトールだけで遊びましょう」
サラッと省かれるセスト。
兄への扱いがぞんざいじゃない? セストも功労者だよね?
「行かないとは言っていません」
「そうよね。ユーリエとふたりきりにはさせたくないわよね」
なにやら意味深な視線を交わすふたりの少女。
やり玉にあげられた当人は首を傾げているけれど。
「……行きます」
「決まりね」
結局、というより、最初から決めていたような気もするけれど、僕は初等科生三人の保護者として、お出掛けに付き添う(いや、付き合うかな?)ことになった。




