パーティーリベンジ 5
◇ ◇ ◇
「本当に人騒がせでした」
パーティーを終えて、お客様がお帰りになり、後片付けをしながら、リュシィは大きく息を吐きだした。
あの後、ユーリエと一緒に戻ってきたマグリア嬢および、その友人たちの顔を見たリュシィは、即座になにがあったのかを悟った。
「リュシィ。あの、私は大丈夫だから。なにか問題があったわけでもないし、その、怒らないで」
そうユーリエが間に入っていなければ、まず間違いなく、問題が起こっていたことだろう。
「そうはいっても、ユーリエ。あなたの問題なのですよ? 甘い顔を見せれば、この先も同じような目に合わないとも限らないではありませんか」
「うん。私の問題だから。リュシイが私のことを思ってくれるのは伝わってきて、それはとても嬉しいけれど、もう私たちは仲直りして、友達になれたから」
なおも険しい表情のリュシィの肩にシエナが手をかけ。
「ユーリエ本人がこう言っているんだから、任せて大丈夫じゃないかしら。ユーリエの友人関係にまで私たちが口出しをすることじゃないわ」
「シエナ……あなた」
「リュシィ。僕も」
納得していない様子なので、その場に居合わせた人間として、僕も意見を言わせて貰う。
「ユーリエたちは大丈夫だと思う。彼女たちも、ただリュシィたちとも仲良くしたかったというだけのことなんだから。それとも、信じられない?」
微笑んでいるユーリエと、赤い顔で俯いているマグリア嬢とその友人たちと、それから僕とを順番に見比べると、リュシィは小さく息を吐きだし。
「……わかりました。今回の件は、たしかにあなたたちの気持ちに気が付くことのできなかった私にも非がないとは言い切ません。ユーリエがそれでいいというのなら、これ以上、私もこの件についての口出しするのは控えましょう」
「ありがとう、リュシィ」
「……何故、あなたが礼を言うのですか」
ユーリエがそう言ってリュシィの手を取って微笑みを浮かべれば、リュシィはすこし顔を紅くして、眉を顰めた。
「それよりも、ユーリエ。まだパーティーは終わっていませんよ。最後まで気を抜かないでください」
誤魔化すようにユーリエの制服の襟元とリボンを直したリュシィは、くるりと踵を返す。
「行きましょう。あっちの料理が絶品なのよ」
ユーリエの手を取り、マグリア嬢たちに微笑みかけたシエナは、はしたなく見えないように走ってリュシィに追いつくと、その腕に自らの腕を絡ませる。
それから、ユーリエの準備した料理のところへも連れて行ったり、そのユーリエが照れたような笑顔を浮かべながらも嬉しそうにしている横顔を見ていると、もう大丈夫だろうなと安心できた。
「レクトールさーん」
「もてもてだねえ」
楽しそうに手を振るユーリエに応えて手を振り返したりしていると、いつの間にやら隣に来ていたセストがにやにやとした笑みを浮かべていた。
「もう挨拶は済んだの?」
「とっくだ、とっく。あとは親父殿に任せるさ」
とはいっても、今日は他に女の子が来ているわけじゃねえからな、などと嘯く友人は、すこしだけ真面目な表情を作り。
「そんなに心配しなくても、大丈夫だろ。仲良さそうにしてるじゃねえか」
「そんなに心配しているように見えてた?」
気にしていなかったわけじゃないというか、実際、気にしてはいたんだけど、あとはユーリエたち本人同士に任せていて大丈夫だろうと思ってもいたんだけどな。
「ああ。とっても気にしているように見えてたぜ」
これからが楽しくなりそうなくらいに、などと、セストがよくわからないことを口にする。
「これからって、それは僕にはあまり関係ないことじゃないかな」
この先の彼女たちの関係に干渉するつもりはない。頼られない限りは。
「てゆうか、それにしたって、楽しそうってどういうこと? ユーリエは真面目に悩んでいたんだけど。それに、あの子たちも」
セストだって、今までの話というか、状態のことは知っているよね?
ユーリエの危機に、楽しそうだなんて。はっきり言って、あまりいい趣味とは言えない。むしろ、悪趣味だ。
セストはそんなことを考えるような人間ではなかったはずだけど。
「なんか誤解してるみたいだな、レクトール。俺は別に、今までのユーリエたちの状態、いや、関係か? について、面白がってたって趣旨の発言じゃないぜ? これからのことだよ」
これからって、まあ、たしかに。
ユーリエは友達になった。これからは、嫌がらせ目的とかじゃなくて、隣にいることにもなるかもしれない。
それは、リュシィにしても、シエナにしてもあまり友達が多いほうじゃないのだし、そういう妹のことを思っての発言でもあったのだろう。
「お前ならそう言うだろうと思ってたぜ、レクトール」
なにがおかしいのか、セストは、くっく、と笑みを漏らし。
なんだろう。もしかして、馬鹿にされてる?
「セスト」
「シエナもあんまり仲いい奴が多いわけじゃねえ、つうか、少ないからな。そっちも多少は解決できそうだしよ」
尋ねようとすれば、セストはなんとなく話を逸らしたようだった。
「そうなの? リュシィはそうだと思ってたけど」
シエナも友人は少なかったのか。
僕の婚約者が仲良くしている女友達は――友人という意味では――シエナくらいだと思っていたけれど、シエナもそうだったなんて。
むしろ、仲の良い相手は多そうだと思っていた。
まあ、どちらかといえば、一緒になって群れるより、すこし離れてそれを眺めているのが楽しそうだと思うような性格だとは感じていたけれど。
でも、ユーリエとはすぐに仲を詰めていたし。
「それは、お前とも仲良くしていると知っていたからだろ。あいつはさ」
「兄さん? 私のいないところで楽しそうなお話しをなさっているのね?」
「うおっ、シエナ」
黒い髪に金の瞳のお嬢様は、まるで妖精のように、突然、僕たちの前に現れて、良い笑顔を浮かべている。
「なにか、私の名前が聞こえたような気したのですけど」
「地獄耳かよ……いや、なんでもねえよ。お前にも仲良い友達ができてよかったなって話だ」
その続きをセストは話そうとしていたみたいだったけど、口に出してはいなかったからな。
「そうなんですか? てっきり、私のいないところで、人の話をして盛り上がるような、悪趣味を持っていらっしゃるのかと思ってしまいましたわ」
「実の兄に向って、よく堂々と言えるな……」
シエナは、ふふっ、と小悪魔めいた笑みを浮かべ。
「冗談ですわ。本当は、兄さんがレクトールを独占しているので、嫉妬に燃えたリュシィから、兄さんを引き離してくれと頼まれたの」
「そんな頼みをした覚えはありません」
冷ややかな声が後ろから突き刺さるけど、シエナはなにも慌てた様子もなく。
「あら、リュシィ。いたのね」
「いたのね、じゃありません。シエナ、人の言動を勝手に捏造するのはやめてください」
「勝手じゃなければいいのかしら?」
リュシィは、その紫の瞳でじとっとシエナを見つめ、シエナはといえば、けろっとした、なにも堪えていない様子で、微笑む口元に人差し指を立てる。
「といかく、行きますよ、シエナ」
「いやん。強引ね。嫌いじゃないけど」
リュシィに手を引かれ、シエナは楽しそうについて行く。
いったい、なんだったんだ。
「レクトール。今日は素敵だったわよ」
振り返りそう声をかけてくるシエナに、僕はすこしだけ驚いた。
あの場にシエナはいなかったはずだけど。
いや、まあ、シエナがあんな風に軽口というか、声掛けをしてくるのはいつものことだから、特に気にする必要もないけれど。というより、知られて困るようなことはなにもないし。
「やっぱりモテモテじゃねえか、レクトール」
セストが軽く肩を叩いてきて、僕はわずかに細めた視線でセストを睨んだ。




