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ユーリエの特訓 5

「まず、結果から述べることにしましょう」


 ひと通りの項目を終え、会場で席に着いた僕たちの前に、ユーリエの淹れたお茶が並べられる。

 今回のパーティーにおけるユーリエの完成度を確認するため、エストレイア夫妻にはチェックシートを事前にお渡ししていた。

 仕草や身だしなみ、会話への受け答えなど、項目は多岐にわたるけれど、一緒に参加していた僕から見た感じでは、特に失敗はなく、及第点を取っていたと思える。

 

「問題ないでしょう。これならば、どこへ出ても、まず、咎められることはありません」


 はたして、レイジュさんも微笑んで結果を告げられ、僕はほっと胸をなでおろした。もちろん、仕草に出したりはせず、心の中で、だけど。


「ただ、幾度か会話に詰まる場面もあったようだし、その点だけは気をつけたほうが良いかもしれないね」


 レイジュさんは口調と表情を崩し、普段通りの調子で対応されるけれど、そこに身内――娘の友人だからという理由での手心が加えられていないことは、よくわかった。


「ところで、シエナからは、そちらのユーリエさんの挽回のチャンスを設けるための場を、とも頼まれているのだけれど、この調子なら、おそらく明日にでも本番を迎えられるだろうね。それで、相談、というより確認なんだけど、日程はいつ頃にしたらいいかな?」


 僕は明日でも大丈夫だよ、とレイジュさんから提案を受け。

 

「……そうですね。では、来週ということでお願いできますか?」


 リュシィが日程を告げると、ユーリエから慌てたように。


「ら、来週? それは、ちょっと早すぎるような。私もまだ心の準備が」


「一週間もあれば大丈夫でしょう。それに、こちらから仕掛けたい理由もあります」


 リュシィの話によれば、どうやら、学院でのユーリエの様子から、前回のパーティーでの攻撃はそれほど意味がなかったと悟ったのか、どうやら、向こうさんも新たな手を準備してきているところだということのようだ。

 

「相手の場で戦うより、自分の場で戦うほうが、ユーリエにとっては安心できるでしょう。もちろん、相手の懐に乗り込もうという気概があるというのなら、私も反対はしませんが」


 本当は、もう何度かこんな練習をこなしたかったと、僕としては思うけれど、リュシィはスパルタだから。

 明日と言わず、来週にしたところにも、多少の温情――といっていいのか微妙だけど――を感じられる。

 まあ、明日だと、招待状のこととか、急なお誘いということで、こちらの不利な点をさらけ出すことにもなるからな。


「それに、招待したほうが向こうもあからさまな攻撃をしづらくなるだろうという考えもあります。招かれた場であるか、招いた側であるかというのは、社交界での立場的にも――まあ、それをいうなら、あのような行動に出ること自体、品位を疑われる行動であるとも言えますが――重要ですから」


 どうですか、と、一見選択肢を与えているようでありながらも、実際は有無を言わさないような圧力をかけられ、ユーリエはわずかにびくびくとしながらも「わ、わかったよ」と頷いた。

 あれ? リュシィ、本当に少しだけど、本気で怒ってる?

 それはつまり、リュシィがユーリエをどう思っているのかということの証左でもあって。

 

「なんですか、レクトール」


 そんな感情を顔に浮かべたつもりはなかったけれど、即座にリュシィには見咎められる。

 僕は、なんでもないよ、という風に首を振ったけれど、どこまでリュシィに通じたかどうかは不明だ。

 先日も同じような気持ちになって見ていたら、リュシィに呆れられてしまったので、今回はこっちが誤魔化せたということにしておいてもらえると嬉しいんだけど。レイジュさんとメノアさんもいることだし。


「レクトールは、リュシィがユーリエを友人だと思っているところが嬉しかったのよね」


 しかし、そんな僕のささやかな願いというか、気持ちをばらさないで欲しいという祈りは、シエナには全く通じなかった。

 良い意味でも、悪い意味でも、あまり空気を読もうとしないからな。読めないわけじゃなくて、むしろそういうことには敏感なはずなのに。

 しかし、ばらされてしまったのならと、僕は開き直って。


「そうだね。三人が仲良くなれたみたいで、嬉しいよ」


 ささやかに反撃を試みもするけど、シエナは全く気にする様子もなく、むしろ余裕の態度で微笑んでいるだけだった。

 まあ、いいか。

 肝心の、というより、誤魔化したかった相手であるリュシィはすでに興味をなくしたようだから。いつもの雑談だとでも思ってくれたのだろう。

 

「シエナ。あまり、レクトールさんとリュシィ様をからかってはいけませんよ」


 メノアさんにそう呼ばれ、リュシィは、あるかないかくらいに、目を細める。

 

「リュシィくんも、今日は見たことのないような表情を見られて安心したよ。そんな風に感情を表すようになったんだね」


「あの、皆さんは以前からのお知り合いなんですか? あ、いえ、リュシィとシエナさんが友達同士だったということは知ってはいるのですけど、家族ぐるみで親しい付き合いがあるようにも思えて」


 レイジュさんの言葉を受けて、僕たちの様子を伺っていたユーリエがそう疑問を口にすると、エストレイア夫妻は瞳を数度瞬かせ。


「あれ? ああ、そうか、話していないのか。それなのに」


 レイジュさんはなにか言いたげに、僕とリュシィ、そして、ユーリエを見比べている。

 なんだろう。まずいところがあったのだろうか?


「これは、リュシィくんも苦労するね」


 そうして苦笑を浮かべられたけれど、僕にはさっぱり意味がわからなかった。しかし、リュシィにはわかったようで、もう慣れました、なんて口にしている。

 いったい、なんの話だろうか?

 とにかく、そんな感じに、ユーリエの予行演習というか、テストとしては、上々の成果をあげられたので、もちろん、本番が終わるまでは油断なんてできないけれど、とりあえず、会はお開きとなった。

 

「終わったら打ち上げでお泊り会もしましょう」


 そう楽し気に提案するシエナとエストレイア夫妻と別れ、僕たち四人は車に乗り込む。

 セストも一緒なのは、この後魔法省に寄って仕事が残っているからだ。おそらく、今日も居残りになるだろう。


「じゃあ、レクトールさんたちが今日はお泊り会なんですね」


「あー、うん、まあそうかな。そんなに楽し気なものじゃないけどね」


 言い訳にする気はないけれど、ここ最近、ユーリエについていることが多かったからな。もっと、リュシィやシエナもいたんだから、ふたりに任せていても良かったかもしれない。

 先に、ユーリエを家まで送り届け。


「本当にありがとうございました、レクトールさん。それから、セストさんと、リュシィも。今度のパーティーでは、きっと成果をあげてみせますね」


「ユーリエ。張り切るのが悪いとは言いませんが、気負い過ぎはよくありません。自然体でいることが重要だと、教えたはずですが」


「うん。ありがとう、リュシィ」


「いえ。では、また明日学院で」


 シエナの家から近かったのはリュシィの家のほうだけれど、リュシィがここまでついてきたのは、多分、心配だったからだろう。

 そんなこと口に出すはずもないし、聞いても答えてはくれないに決まっているけれど。


「リュシィ。そんなに心配しなくても、ユーリエなら大丈夫だよ。リュシィたちの教えもあるんだから」


「そんな心配はしていません」


 何故かリュシィにはジトっとした視線を向けられ、隣のセストは、くっく、と意味ありげに笑みを漏らしている。

 なんなんだ、いったい。

 まあ、いいか。リュシィが心配ないというのだから、ユーリエ個人は大丈夫だろう。

 あとは、当日の向こうの動きだけだな。

 そんなことを考えていた僕のことを見てか、リュシィがため息を漏らしていた。

 

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