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恋? は盲目というけれど、ストーカーは犯罪です。 17

 すぐに僕の端末に連絡が入る。シスさんからだ。


「グラウンドのほうで爆発よ。こっちは私が見てくるから、レクトールは会場のほうをお願い」


「わかりました」


 会場内では、不安やら好奇心やらが渦巻いている。


「レクトール」


 すぐにこちらに駆け寄ってきたのはセストだ。

 シスさんもそうだし、部署は違えど、セストも含め、魔法省の人間が少なくとも三人はいるというのは心強い。


「僕はステージのほうに上がるから、セストは出入り口をお願い」


「了解だ」


 今のところ、この会場自体には被害は出ていないけれど、どこでなにが起こるのか不明な以上、ばらばらになられるのはまずい。

 僕は人垣を抜け、ステージに上ると。


「皆さん、落ち着いてください」


 ハウリングを起こすほどの大音声で、ステージ上のマイクに向かって叫んだ。

 つんざくような音の後、会場内にいる全員――生徒も教師も招待客も――の顔がこちらへ向けられる。

 静まり返ったのを確認した後。


「魔法省軍事局、レクトール・ジークリンドです。ここへは、招待客として訪れていたのですが、たまたま、同僚も来ていますし、今、状況を確認しておりますので、どうぞ、冷静な対応をお願いいたします」


 異常事態に冷静でいるのは難しい。

 それも、整った集団ではなく、個人の集まりだ。

 だからこそ、真っ先にリーダーシップを発揮すること、責任者になる(あるいは立てる)ことが重要になる。

 僕はまだ新人で、他の保護者の方たちからすれば子供かもしれないけれど、魔法省軍事局(諜報課)という肩書は役に立つ。


「この件につきましては、私共のほうで対処いたしますので、皆様は何事もなかったように――というのも難しいこととは存じますが――会を続けていただけると助かります。それが、相手の狙いを潰すことにもなりますから」


 少なくとも、相手の狙いの一つは、この会を中止させる、あるいは台無しにすることだろう。

 それを考えれば、僕たちがここへ来たのは幸いともいえる。


「真っ先にここを狙わなかったということは、相手の狙いはこちらへ危害を加えることではない可能性が高いです。ですので、安心してください。皆さんのことは、私たちもできる限りお守りいたします」


 誰かの殺傷という目的だと考えると、会場であるここに爆発物を仕掛けなかったのはおかしい。

 今日はここに一番人が集まることは、この学院の関係者(広義的に)であれば誰でも知っていることだろうし、被害を大きくしたいなら、ここに仕掛けるのがもっとも効率的であるはずだ。

 もちろん、警戒が厳しく、ここには仕掛けられなかったという可能性も、なくはない。 

 しかし、学院の敷地内に爆発物を持ち込めている時点で、そうしなかったということは、そこに意味があるからなのだろう。

 爆発などがあれば、即座の中止も、あるいは混乱からのお客、そして生徒たちの避難が行われてしまうことは、想像に難くない。それでは効率が悪いと判断したのだろう。

 もちろん、まだ爆発させていない、あるいはしていないだけ、という可能性も残ってはいるけれど。

 

「それでは、私はこれより事態の確認に参りますが、ここには同僚――所属は違いますが――であるセスト・エストレイア、ここの生徒であるシエナ嬢の、続柄上は兄にあたります、彼が残ってくれますので、私のいない間、なにかあれば彼にご相談ください」


「おい、ちょっ、レクトール」


 矢面に立たされることになったセストから抗議の視線を受け取るけれど、それには笑顔だけで返し、舞台を降りると、すぐに会場の外へ向かう。

 シスさんが向かってくれるというけれど、僕だって心配なことは心配だ。せっかくのリュシィたちのお祝いの席なのだから。

 

「……一応、ここも確認しておくかな」


 とりあえず、周囲を飛び回り、講堂の外壁には爆弾などは仕掛けられていないことを確認する。

 守衛さんがいらっしゃって開かれている校門とは違い、講堂には鍵がかけられている。内部に爆発物がある可能性は、搬入などを除いて、考えられないだろう。

 

「しかし、なんでここなんだろう?」


 ルナリア学院にはリュシィやシエナが通っていて、ローツヴァイ家やエストレイア家を敵に回すというのはかなり分が悪い気がする。爆発物を仕掛けている時点で関係ないともいえるけれど。

 それに、魔法師は数が少ないため、その育成に力を入れているこの学院は、そういう意味でも重宝されている。

 そのため、他所の学校、学院より、ルナリア学院の警備は厚いはずだ。

 そこまでしてでも果たしたい思いがあるということなのだろうか。あるいは、その両家が対象なのか。

 まあ、動機、しかもその大小なんて人それぞれ、今考えても仕方ない。捕まえてから、犯人に直接問い質せばいい。今考えるべきなのは、犯人は誰で、残りいくつ仕掛けてあるか、爆発物だけなのか、といったことだ。

 相手はここの様子を伺っているに違いない。爆発物を仕掛けたというのなら、その結果が気にならないはずはないからだ。

 煙の立っている方向を確認して、そちらへ走っていると、まさにその方向から守衛さんが走っていらっしゃるのが確認できた。


「すみません。お急ぎのところ悪いのですが、詳細をお話しくださいますか?」


 僕は魔法省の身分証を提示すると、守衛さんは驚いたように目を見開かれた。


「レクトール・ジークリンドさん。失礼ですが、ご本人ですか?」


「このとおりです」


 身分証には当然、顔写真もついている。

 

「実は、爆発があり、私どもが様子を見に行ったところ、近くに置かれていた端末に連絡が入り、レクトール・ジークリンドという人物を出せと言われたので、これから住所録を調べに行こうとしていたところだったのですが、これは運が良かったということなのでしょうか?」


「私が来たからこそ、あるいは、来ることがわかったからこそ、爆発物が仕掛けられたのだとしたら、私こそが元凶ということになりますけれど。それで、その端末はどちらに?」


 もうひとりの守衛さんが現場で預かっているということで、彼の案内ついて、現場へ走る。

 

「これがその端末ですね」


 履歴を調べてみたけれど、当然、非通知。元の画面に戻ると、ロックがかけられてしまい、それ以上、調べることができなくなる。

 端末の製造元から割り出そうにも、ここで無理に壊そうとすると、唯一の手掛かりともいえるこの端末を失くしてしまうことにもなりかねない。専門家を呼んでいるような時間はないだろう。

 諜報課の、つまり魔法省まで戻れば、購入者や、非通知ではあっても、連絡してきた相手を調べるくらいはわけもないのだけれど。

 そう考えていると、再び、と言っていいのか、非通知での連絡があった。

 このタイミングでの連絡、しかも非通知。おそらくは同一人物とみて間違いないだろう。


「もしもし」


 出ない、という選択肢はない。

 相手の情報を得られる可能性は、今のところ、これしかないのだから。

 なにより、相手は僕を御指名だ。


「レクトール・ジークリンドだな」


 すぐに僕の名前を呼んできた。

 つまり、まあ、呼び出されそうになっていた時点で察するけれど、僕に関係のある人物であるようだ。

 まあ、諜報官なんてやっていれば、恨まれることはあるだろう。心当たりも、ひとつやふたつではない。

 その中でも、直近で予想できるのは――。

 などと考えながらも、会話は続ける。


「そういうあなたはいったい、どこのどなたですか? 今、僕はかなり大事な用事が――」


「パーティーに参加しているのだろう? リュシィ・ローツヴァイの相手役として」


 僕が出席しているのは、リュシィの相手役としてではなかったけれど、あえて訂正するまでもない。

 そのほうが相手の口が軽くなるというのなら、そういうことにしておいても構わないだろう。実際、大差はない。

 それに、相手が話してくれているうちに、確認したいこともある。


「そうです。婚約者ですから」


 役、というところに引っかかったわけでもないし、相手がこちらの事情を察している可能性は限りなく低いはずだ。

 とはいえ、そこははっきりと言っておかなくてはならない。



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