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恋? は盲目というけれど、ストーカーは犯罪です。 15

 多分、当日にもなにかしらの準備やらはあるだろうと思っていたけれど、正解だったみたいだ。

 お祝い会の当日、自分の車は爆発四散した直後で、もちろん買い替えるような暇もなく、シスさんが迎えに来てくださった。

 

「すみません、シスさん。お手数をおかけしてしまい」


 シスさんの車であるため、運転されているのももちろんシスさんだ。それも今は自動運転ではなく手動だった。


「問題ないわ。それに、正式に任も受けているし、わざわざということでもないわよ」


 さすがに魔法省での爆発は、上層部の人たちも無視することはできなかったらしい。

 もともとウァレンティンさんには、直接間接問わず、報告もしてあったのだけれど、今回、正式にうちの課に指令が下された。

 警察が動いたりするのではなく、諜報課に直接指令が届けられたのは、誰が原因か――つまり、僕だけれど――はっきりしているからということだろう。

 

「昨夜の警備の方の報告では、少なくとも巡回の時点では、不審物、および不審者などは見られなかったということです。監視カメラの映像にもそれらしい影はなかったということです」


 警備――この場合は学院の――体制は万全を期している。

 

「監視カメラは、駐車場での件もあるし、あまり精度は期待できないでしょうね。引き続き警戒にあたります、と伝えておいて」


「わかりました。それからシスさん。僕はそろそろ」


 会場の警備の任についているのは、そのとおりなのだけれど、どちらかというと、僕が今日ここにいるのはユーリエとシエナに招待状を貰ったからという理由のほうが、つまり、パーティーの出席者だというのがメインだ。

 

「あー、はいはい。私達に任せて、レクトールはしっかり自分の務めのほうを果たしてきてね」


 シスさんに、どうぞどうぞといった具合に肩を竦められる。

 シスさんは僕とローツヴァイ家との約束を御存知であるはずがないので、この場合の務めというのは、パーティーに招かれているお客としての、という意味だろう。


「あんまり夢中になり過ぎて、リュシィちゃんに刺されないようにね」


 シスさんが忠告をくださるけれど、刺されるって……リュシィがそんな暴力という手段に出る理由もわからない。 

 もっとも女性の心理の話なので、僕などより、シスさんのほうが何倍もお詳しいことは事実であり、そう簡単に笑い飛ばすこともできないのだろうけれど。

 それに、多分、僕のことを心配してくださっているのだろうし。

 

「そりゃあね。心配くらいするわよ。ただでさえ、うちは人手不足なのに」


 いいから行った行った、と背中を押されて追いやられるような形で、僕はパーティーの出席者として、会場である講堂のほうへ向かう。

 まさか忘れていないよね? と、朝寮を出る前にも確認した招待状を、今一度、確認しておく。 

 うん。問題なく、ポケットに入っているな。二枚分。


「いらっしゃい、レクトール。その様子だと、まだ件の人物は捉えることはできていないようね」


「もう、シエナ。いきなりなに聞いているの。おはようございます、レクトールさん。お越しくださって、とても嬉しいです」


 正面に回り、入り口付近で探していると、すぐに向こうのほうから僕のことを見つけてきてくれた。

 

「こちらこそ、招待してくれてありがとう。シエナ、ユーリエ」


 家族枠ではない僕は、招待状が貰えなければ、参加はできなかったわけだし、感謝してもしきれない。

 

「じゃあ、私は兄さんが来るまでもう少し待っているから、ユーリエはレクトールの案内をお願いね」


 セストはまだ来ていないのか。

 でも。


「レクトールさん、リュシィをお探しですか?」


 僕がきょろきょろとしていたからだろう、ユーリエにそんな風に尋ねられる。 

 あまりにもわかりやすかっただろうか。

 

「リュシィなら、少し前にいらしたターリアさんを案内して、もう会場のほうに入っていますから、ここにはいないはずです」

 

 すこし前から学院に入って調査を開始していたにも関わらず、今日はまだ、挨拶をさせていただけていない。

 僕たちも朝早く、調査を始めているという認識はしていたけれど、それより早いなんて驚きだ。

 実の娘の晴れ舞台、ということでもないだろうけれど、楽しみにされていたのだろうな。リュシィから招待状を受け取ったときのターリアさんの様子が、ありありと思い浮かべられる。さぞ、感激していらしたことだろう。

 

「そういえば、ユーリエも料理を準備するって言っていたよね。今日は早かったの?」


「はい。始発で登校しました。ですけど、昨日は帰宅してすぐにお風呂と食事を済ませてベッドに入ったので、大丈夫です。目はぱっちりしています」


 一応、招待状は見せたほうが良いのかなとも思たけれど、生徒である、主催者のユーリエに手を引かれている状態ではその必要もなかったらしく、受付をしていた、やはり学生の子たちに軽く挨拶をしてから、会場に入る。

 天井には色とりどりのロープやら布やらが渡されていたり、くす玉が設置されていたりする。

 すでに、催しでもないということだけれど、会としては始められているようで、舞台の上ではバンドの子たちの演奏も響いている。

 お祝いの会なので、卒業式などのように綺麗に椅子が並べられていたり、などということもない。

 たしかに、綺麗なクロスのかけられた丸テーブルは準備されて、料理なんかが並べられていたりもしているのだけれど、立食パーティーみたいな感じといったほうが、印象としては近い。

 そして、会場に入ってすぐ、目当ての人物は見つかった。というより、目に飛び込んできたというほうが正しいか。

 あえて探すまでもなく、まだ人数が少ない――大人がという意味で――ということもあったけれど。


「あら、レクトールさん。おはようございます。やっぱり、いらしたんですね」


「おはようございます、ターリアさん」


 リュシィの御母上であるターリアさんは、長い綺麗な金の髪を優雅に翻らせられた。


「レクトールさんはシエナちゃんとユーリエちゃんから招待状を受け取られたんですってね」


 一瞬身構えてしまったけれど、ターリアさんは微笑まれたまま。


「それで、リュシィったら、意地になって自分では渡せなかったのでしょう。すみません。きっと、レクトールさんはリュシィからも受け取りたかったと思っていましたけれど、違いましたか?」


 どうやら、そのことを咎められるというより、むしろ、リュシィのほうに対して、思うところがおありな様子だ。

 しかし、ユーリエ(それからシエナ)から招待状を受け取ったことが嬉しかったことも事実。もちろん、リュシィからのものを期待しなかったかといえば、それは当然なのだけれど。


「そうですね。たしかに、リュシィから受け取りたくなかったかといえば嘘になりますが、僕はこうしてユーリエから渡してもらうことができましたから」


 まあ、順番的には、こちらが先だったのだけれど、まあ、それはいいだろう。

 僕はターリアさんの隣にいるリュシィに顔を向け。


「おはよう、リュシィ」


「おはようございます、レクトール」


 そのリュシィは、なんだか難しそうな顔をしていた。

 ターリアさんのおっしゃるとおり、素直になれなったことを後悔しているのか。それだったら、嬉しくも思うけれど。

 そうこうしている間にも、続々と参加者は集まってきているようで。


「あの、すみません、レクトールさん。私たち、他にも今日はやることがあって」


 ユーリエが申し訳なさそうに、あるいは残念そうにそう言ってくる。


「僕なら大丈夫だよ。楽しみに待っているから」


「はい。楽しみにしていてください」


 ユーリエはターリアさんにもぺこりと頭を下げた後、なにか言いたげな顔をしていたリュシィの手を引いて離れてゆく。

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