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恋? は盲目というけれど、ストーカーは犯罪です。 14

 ◇ ◇ ◇



 僕の車への被害はともかく、一歩なにかが間違っていたら、多くの無関係な人を巻き込んでいた可能性のある、むしろ、誰も巻き込まれなかったのが不思議なくらいの大事故だ。

 ストーカー行為を許せるとは言わない。しかし、それとは、もはやレベルが違う。厳重注意どころではなく、逮捕しなくてはならない案件になった。

 下手をすれば、魔法省の建物自体が崩壊、言葉で語りつくせないほどの犠牲が出ていたかもしれないのだから。

 かなり諦め悪く、自分たちも魔法省に向かい、映像を検証すると言い出したリュシィたちを強引に家に帰らせて戻ってきた僕たちは、さっそく管制室へ向かった。

 監視カメラ自体は爆発に巻き込まれる形で破壊されてしまったけれど、記録の映像は即時アーカイブされているため、確認できる。

 

「さすがに誰なのかまではわかりませんね」


 犯人らしき人物こそ映ってはいるものの、やはりというか、さすがにというべきか、頭までフードで覆っているため、個人認証は不可能だった。当然、映像からでは、筆跡やら、遺伝子やらでの鑑定はできない。

 現場に残されていただろう靴跡なんかも、爆発の影響で判別は不可能だ。


「一応、今日の入館者リストは貰って来たけれど、意味はないわよね」


 魔法省の利用者は、入館時に記帳――言うまでもなく、コンソールに認識させるものであり、用紙にペンで記入するなどということではない――することになっている。

 とはいえ、それはすべての利用者が記録させるものであって、当然、朝だろうが、午後からだろうが、一般の利用者だけではなく、出勤してきた際には、僕たちも記録させている。

 そういうわけで、一日の魔法省の利用者が数万人を下らない以上、調べるだけ無駄というものだろう。シスさんが肩を竦められたのも、仕方のないことだ。


「それよりは周辺の街路カメラの確認をしたほうがいいんじゃないかしら」


 犯人は犯行現場に戻るという言葉もある。

 実際は、戻ったりしないほうがいいに決まっているけれど、今回のように時間差がある場合、どうしても、自分の目で確認したいという欲求はあるはずだ。たとえ、翌日、あるいは臨時のニュースになるとしても。

 だから、キュールさんの言うことも、まったくの的外れということはない。

 ただし。


「普通、街路カメラのほうが映っている人は多いんじゃねえか?」


 ガーフィールさんがおっしゃるとおり、魔法省の建物があるのはこの国の中心、最も人が集まる場所だ。

 時間的には帰宅ラッシュの少し前くらいではあったものの、人の多さは建物内部とは比べるべくもない。

 とはいえ、無差別殺人の可能性は低いと結論付けたわけだし、この場合犯人――捜査線上の最前線にあげられるのは、件のジルバート・エングリッドということになっても、まあ、仕方がないだろう。

 もちろん、内部だけでの話であり、実際に証拠が見つかるまでは、あるいは現行犯でない限り、逮捕するのは不可能だけれど。

 それにしても、ユラ・ウォンウォートのほうが、まだましだと思えるような人物に狙われるとは、リュシィが本当に気の毒に思える。

 ユラ・ウォンウォートは、誘拐という、直接手を下す方法を選んだわけだけれど、今回の相手は――まあ、この場合は誰と個人を仮定する必要はない――ストーカーだったり、爆発物の設置だったり、迂遠とも取れるやり方での嫌がらせ(にしては度が過ぎているけれど)に徹している。

 もちろん、今後はどうなってゆくのかわからないけれど。

 こんな風に狙われるのなら、パーティーやらで大人数に詰めかけられるほうがまだましだと言えるのではないだろうか。もちろん、誘拐だとか、殺傷目的だとか、こんな方法を採るような人物が少数派だというのは(そうだろう。そうあって欲しい)わかっている。

 もちろん、メリット――そう呼んでいいのかははなはだ疑問ではあるけれど――もある。

 直接的な危害を――しかも爆弾まで持ち出して――加えようとしてきたため、見つければ、面倒な手続きを踏むことなく、即座に逮捕できるという点だ。

 正直に言って、今からジルバート・エングリッドのところへ乗り込むという手段も、ないわけではない。

 ただし、あくまで事情を知っている僕たちが見た場合、この映像に映っている彼である可能性が高いとしているだけで、実際にはまったくの関係ない別人である可能性も高いけれど。


「やっぱり、当日の警備を増員しよう」


 しばらく映像の確認などを行った結果、ウィーシュさんがそう口にされた。

 

「有事に備えるべきという意見が出るのはわかっている、しかし、それらは軍や警察でどうにかしてくれるだろう。実際、すでに起こってしまったことに対する実行力はあちらのほうが上だ。しかし、未来に起こるかもしれない事故、事件の未然調査という面では、僕たちに勝るものはない。そうだろう、皆」


 それに、どうせ当日、僕は会場にいるのだ。

 そこに新たに、別の所属の人が増員されるというよりは、僕の知り合い――より正確に言うのであれば、リュシィやシエナ、ユーリエの知り合いということになるのだけれど――が増えたというほうが、学院、生徒的にもいいだろうし。


「そうね。もともと、こうやってちまちま調べるのは性に合わないと思っていたのよ」


「キュール。仮にも諜報課として、その発言はどうなの?」


「いいじゃない、シス。結論は同じなんだし」


 その好意は本当にありがたく思う。

 しかし。


「あの、さすがに全員は多いと思うのですが。オンエム部長ひとりだけでは他に有事の際、後れを取ることにもなりかねます」


 僕たちだって、そんなに何人もいなければ平和緒維持機構としての役割が果たせないほど、無能の集まりというわけでもない。


「なにかあった場合に、そこから呼ぶということで。基本的に現場にいるのは僕と、それから女性――キュールさんかシスさん、どちらかに来ていただけると、とても助かりますが」


 結局、当日は僕とシスさん――今回のこともあるわけだし――が会場、あるいは、近辺に身を潜めるということになった。

 


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