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恋? は盲目というけれど、ストーカーは犯罪です。 12

 爆発四散した場合、保険は降りるのだろうか。

 いくら中古で、安く買えたからとはいえ、入省のお祝いに両親に貰った大切なものだったのに。


「良かったじゃない。身体のほうがバラバラになったわけじゃなくて。車なら、まだ、どうにかしようもあるわよ。とくに、今回のは事故じゃなさそうだし、相手に請求すればいいじゃない」


「……そうかもしれません」


 とはいえ、へこむものはへこむ。

 僕は一度、大きくため息をつき。

 よし、いや、よしで済むものでもないけれど、すでに事は起こってしまっているわけで、沈んでいても車が戻ってくるわけではない。切り替えなくては。

 絶対に請求してやる。


「僕個人を狙ったものでしょうか。それとも、魔法省に所属する人間を無差別に?」


 そうは言ったものの、無差別に狙らったのなら、もっと多くの車が置いてある場所を選んだとも思えるので、やはり、狙いは僕個人ということになりそうではある。


「おそらく、レクトールを個人的に狙ったんでしょうね。なにか心当たりは?」


「直近ではひとつだけかと」


 もちろん、職業上、逮捕した相手、あるいはその関係者には恨まれていそうではある。

 しかし、普段から表立って警察の仕事をしているわけではないし、恨まれてなんぼとはいえ、僕個人をというのであれば、魔法省関係ではなさそうだ。

 しかし、実家はごく一般で、もし狙われているのだとすれば、僕がリュシィの婚約者であるというところだろう。そこだけが、一般からは逸脱している。


「まあ、そうよね。そうすると、犯人の目星――というより、おそらく個人で特定できるわよね」


「はい。後ほど、駐車場の監視カメラを確認すれば、証拠は残っているかと思われます」


 さすがにさっきは確認している暇などなかったため、確実に残っているとは言えないけれど。


「ジルバート・エングリッドねえ。惚れた女の子を手に入れるために、その相手を爆死させようとするなんて、リュシィちゃんも大分愛されているじゃない」


「笑い事ではありませんよ」


 たしかに、僕よりずっとリュシィを大事に愛している人になら、あるいは、リュシィが本気で好きになった人になら、立場を譲ることもやぶさかではないと考えてもいた。それでリュシィが幸せになるのなら。

 しかし、今回の相手に婚約者の座を譲ったところで、リュシィが幸せになれるとは思えない。

 なにせ、その座を手に入れるために(だろう)今の相手を爆死させようとするような人物だ。もちろん、ここには最新の医療センターも入っているし、すぐにそこに運ばれるか、近くに居合わせたかもしれない相手が治癒魔法を使うことを見越していたのかもしれないけれど、それにしても、あまりに危険な方法だ。

 こんな手段をとる相手に、リュシィを幸せにできるとは思えない。いや、僕なら幸せにできるかと言われれば、どうだろうかと首をひねらざるを得ないけれど。

 むしろ、リュシィは誘拐されたりなどの事件に巻き込まれることが多くなっているような気さえするけれども。

 そんなことを話したところ、シスさんには盛大に溜息をつかれた。


「レクトール。それ、本気で言っているの?」


「一部は」


 一部が本音というのは本当だ。

 ただし、僕はリュシィの婚約者という立場を、そう簡単に譲りたくはないとも考えている。もちろん、僕よりリュシィを幸せにできるという男性が(あるいは女性が)現れても、できる限り、争い……努力するつもりではいる。

 

「あんまりそんなことばかり言っていると、本当にリュシィちゃんを盗られちゃうわよ」


 シスさんにそう忠告される。

 そう言われても、僕のエゴにリュシィを付き合わせてしまうのは、それはリュシィの未来を奪ってしまうということになるのではないだろうか。

 もちろん、僕だってそれなりに努力はしてきたつもりだ。

 しかし――。


「ああ、もう。いったい、なにをそんなに悩むことがあるのかしら、レクトールは。どうしてそんなに自己評価が低いの」


「意図して低く評価しているつもりはありませんけれど……」


 リュシィに付き添ってパーティーやらなにやらに出席した際の周囲からの評価を総合した結果だ。

 もちろん、その評価自体、僕がそう感じたという部分は大きいのだけれど、いくつかは――そんなに少なくもなく、僕がリュシィの隣に立つことを疑問視する声も聞こえてきてはいる。


「大丈夫よ、レクトール。あなたの――働きは、今年入ったのにもかかわらず、私たち以上だったと確信しているわ」


「それはどういう面でのことでしょうか?」


「単純に言うのであれば、出勤日数と、処理した仕事の件数ね」


 あなた、全然通常の休みを消化しないでしょう、と指摘されてしまう。

 それはそのとおりで、たしかに、僕は通常の休みを通常どおりには消化してはいない。

 いつ、突発的な用事が入れられても構わないよう、かなり連続で勤務している。

 それでも身体のほうがなんとかなっているのは、若さというやつだろうか。歳を経るごとに、改善していかなくてはならないかもしれない。


「かもしれない、じゃなくて、改善しなさい。あなたに倒れられて困るのは、私たちと、それから多分、あの子たちなのよ」


「すみません。気をつけます」


 一応、半休とかも入れると、休んでいるとはいえる――いや、まあ、それなりに無理をしている自覚もあるからな。

 休暇は別だし、それが目的ではあるのだけれど、いくら働いたところで、僕たちの給料は一定だし。


「休みを取ったほうが仕事効率も上がるのよ。なんて、わざわざ私が言わなくても、わかっているわよね」


「はい……いえ。心に停めておきます」


 先輩からのありがたい忠告をいただいたのだ。

 実行しなければならないだろう。まあ、それも前々からでもあるのだけれど。


「そんなに気になるのなら、直接聞いてみましょう」


「突然話が飛びましたね。なんのことですか?」


「もちろん、リュシィちゃんの気持ちのことよ」


 まさか、逃げるわけはないわよね? と圧をかけられ。

 そりゃあ、気にならないと言えば嘘になるけれど。


「大丈夫よ、レクトール。女の子はまったく気のない相手にキスしたりしないから。もちろん、仕事とかの場合は別よ?」


 それは、前にも言われたような。シエナにだったかな。


「――というか、なんで、シスさんが御存知なんですか?」


 リュシィにキスされたのは、誕生日会でのことで、その場にシスさんはいらっしゃらなかったと思うけれど。

 いや、それとも――。


「あら。本当にキスしてたのね」


 カマをかけられただけだったのか。

 まあ、隠すことでもないけれど。


「――言っておきますけれど、僕のほうから手を出したりはしていませんから」


「そんな心配していないわよ」


 まったく説明――言い訳――するまでもなく、両断されてしまう。

 それは、僕を信頼してくださっているためか、それとも手も出せない臆病者だと呆れていらっしゃるだけなのか。

 今までのシエナたち、あるいはシスさんたちの反応を見るに、後者なのだけれど。

 

「試しにしてみたら? 大丈夫、好きな相手にキスしてもらうのは、女の子にとっては嬉しいことのはずよ」


「――好きではない場合は?」


 そこで黙らないで欲しいのですけれど。 

 

「さっさと告白でもなんでもして、気持ちを確かめてしまえばいいじゃない。そうすれば、気にする必要もないでしょう。それとも、告白する勇気もないとか、そんなことは言わないわよね」


「今、この場でそれを提案されるということは、シスさんがその場面を見ていたいから、なんて、そんな理由ではありませんよね」


「もちろんよ」


 それはどちらの意味だろう。

 なんにせよ、今回の相手と対決する前には、自分自身のために、気持ちをはっきりさせておいたほうがいいだろうな。


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