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恋? は盲目というけれど、ストーカーは犯罪です。 7

 ◇ ◇ ◇



「やっぱり、掲載されなかったか……」


 翌日。

 自分のデスクでニュースサイトをチェックして、昨夜の件が掲載されていなことを確認した。

 そこの会社の人たちなのかまではわからない――確認しなかったので、複数のサイトで確認したのだけれど、どこのサイトにも掲載されてはいなかった。

 時間的にはもう昼で、新鮮さが大切だろう情報が、この時間まで欠片も見られないことを考えると、やはり昨日の彼らは、自分たちがマスコミの関係者であるということも、マスコミに昨日のネタを持っていくこともしなかったのだとわかる。

 それはつまり、彼らが個人ではなく、誰かからの依頼で僕たちのことを調べていたということ。個人で動いていたのなら、ネタを持ち込まないはずがない。つまり、上から待ったがかけられたということなのだろう。

 いずれにせよ、これ以上問題にしても仕方がないだろう。彼らの上のほう、もしくは、依頼者が、しびれを切らして直接出てくるまでは。

 どちらの結果も予想していたけれど、より厄介なほうになってしまった――というより、厄介なほうだった、といったほうがこの場合正しいのかもしれない。


「どうかしたの、レクトール。なにか、よくない記事でも見つけた?」


「いえ。なにも見つけはしなかったと言いますか、あえて掲載しないことにしたためかと」


 シスさんが温かい紅茶を持ってきてくださる。

 本来なら、そういう雑務は後輩である僕の仕事だと思うけれど。


「気にしなくていいわよ。それより、なにかあったの? やっぱりとか、掲載されていなかった、とか」


 上からの指示であるのなら、よりいいネタを仕入れるように言われる可能性も、ないわけではない、か。


「個人的な問題ですので、大した内容では――」


 べつにシスさん――それから、しっかり聞き耳を立てていらっしゃる皆さん――に聞いてもらうほどのことではないし、とは思うのだけれど、仕事柄、どんな小さな情報でも耳に入れておきたいのかもしれない。身内のことなら特に。

 まあ、面白そうだから、という理由のほうが大きそうだけれど。


「実は――」


 結局、話すことにした。 

 聞き出すまで引きさがられないだろうという確信もあったし、元をたどれば、ユーリエからこの諜報課に持ち込まれた案件でもあるともいえる、かもしれない。

 それに対して気にしていらした様子の皆さんには、一応、説明しておくのも筋というものだろう。

 ひとまずの僕の説明を聞き終えられて。


「ふーん。どこの誰が依頼したのか調べる?」


「いえ。大丈夫だと思います」


 キュールさんに確認されたけれど、僕は首を横に振った。

 まだ、確実に敵だ、と断定できるわけでもないし、本当に正義感――あるいは余計なお世話ともいう――から忠告していたのだという線も、ありえなくはない。

 

「そうだね。下手にこちらから調べたという証拠も握らせないほうがいいだろうしね」


 ウィーシュさんも同意される。

 下手に手を回せば、せっかくこうやってなんでもないことだと思わせることに成功しているというのに、やっぱり、後ろめたいことがあるのだ、だから、元を辿るなんてことをしでかすのだ、そんな風に思われて、調査を継続されても厄介だ。調査される内容がということではなく、付きまとわれること自体が、という意味で。

 大元の依頼者がどこの誰なのかはわからない――ある程度の予想しか立てられないし、それも膨大だ――けれど、おそらくは相手のほうから、なんらかのアクションがあることだろう。今度はより、直接的な。


「言ってくれれば、いつでも協力するぜ。お嬢さんたちの護衛でもなんでもな」


「ありがとうございます、ガーフィールさん。もしものときは、よろしくお願いします」


 僕のほうをつけ回してくる程度であるなら、今のところ、そこまで脅威ではない。

 しかし、リュシィのほう、あるいはシエナやユーリエを巻き込もうというのなら、それは問題になるし、ユーリエたちにも迷惑なことだろうから、早急な対処が必要にもなるだろうけれど。

 まあ、マスコミのほうは問題ないだろう。

 懐は探られるかもしれないけれど、そっちは別に痛くもなんともない。

 むしろ、問題になるのは、依頼者――情報の提供者のほうだ。

 わざわざマスコミにまで情報をリークしたというのにも関わらず、結果が掲載もされず、僕たちも――表面上――普通に付き合いを続けているとなると、提供者側からしてみれば、面白くない事態だろう。

 そんなつもりはないけれど、挑発はし過ぎないほうが良いのかもしれないな。下手に思い切られでもしたら、面倒だし。

 べつに、僕としてはこれっぽちも挑発しているつもりではなくて、単に、僕がリュシィと一緒にいたいという、個人的な願望なのだけれど。

 サラサラの長い銀の髪、綺麗な神秘的な紫の瞳、容姿が整っているのはもちろんのこと、お嬢様然とした態度、仕草、真面目で、しっかり者で、たまに見せる素直じゃないところ(いや、たまに見せるのは素直なところかな?)とか、可愛いところもたくさんあって……こほん、とにかく、可愛い女の子だ。 

 一応、婚約者役として、虫除けくらいの役には立っているとは思うけれど、それでも、彼女に近づきたいとか、独占したいとか、奪い去りたいとか、そんな風に考える輩が出てきても不思議ではない。

 まあ、そこまでではなくても、面白く思っていない相手がいることは事実だろう。

 皆さんが生暖かい感じの視線を向けてこられるけれど、なにかあったのだろうか。

 

「街路カメラの照会でもするかな。相手のことを調べていけば、コンタクトを取った奴もわかるだろうし」


「そんなことするくらいなら、直接乗り込んだほうが早いわよ。まあ、レクトールが向かうと角が立つでしょうし、その場合、私が行くけれど」


「それなら僕は見回りに行ってこようかな。もしかしたら、今日も張り込んでいるかもしれないからね」


「私もお供します、ウィーシュさん」


 もしかして、皆さん、お暇なのだろうか。

 たしかに、エナの一件が片をつけて以降、とくに、即刻の対処をしなければまずいような、大きな問題は起こっていないようではあるけれど。

 というか、今日分の書類仕事は、まだ残っているのですが。午後の分も増えているし。

 しかし、すでに別のことにやる気になっていらっしゃる皆さんに僕のまとも――だと思う――声は届きそうもない。

 仕方ないかと僕はため息を堪えつつ、他の人の分まで、書類に目を通す仕事を再開する。

 それとも、一応、娘のことだし、ウァレンティンさんに報告を入れておいたほうがいいのだろうか。

 この程度のことも解決できないと思われる――ウァレンティンさんもターリアさんもそんなことはおっしゃらないだろうけれど――可能性はあるけれど、お耳に入れておいたほうがいいような気もするし、どうせ、リュシィが自分で報告していることはないだろうしな。余計な心配をさせたくないという思いはあるのかもしれないけれど、やはり、情報とは、知っているほうが、知らないでいるよりもずっといい。

 いや、そういう口実を作っておけば、リュシィのところに出向く口実にはなるのでは?

 まあ、一応、仮ではあるけれど、婚約者であることは事実なのだし、なにか口実がなければ訪ねてはいけないということもないのだけれど。

 昨日あんなことになったのに、と相手を挑発しているともとられてしまうかもしれないけれど、動いてくれたほうが、ありがたいということもあるし。

 そのためにもさっさと仕事を終わらせてしまおう。

 


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