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恋? は盲目というけれど、ストーカーは犯罪です。 4

「もちろんよ。任せておきなさい」


 諜報課の部屋に戻って事の次第を説明するなり、打てば響くように、キュールさんから了承をいただいた。

 

「ストーカーなんて最低よね。怖かったでしょう。心配しないで、私たちがついているから」


 シスさんも頷いてくださり、おふたりがいれば、ユーリエに関しては問題ないだろう。

 ありがとうございますと下げるユーリエの頭を、シスさんとキュールさんが可愛がるように、撫でまわす。

 

「それで、ユーリエちゃんのほうはわかったけれど、ふたりのほうは大丈夫なの? まあ、余計な心配かもしれないけれど」


 キュールさんのおっしゃるとおり、ローツヴァイ家も、エストレイア家も、毎日、ふたりの護衛をするくらいならば問題はないだろう。

 ただし、あんまりがちがちに黒服の方たちで周りを固めてしまうと、そもそも近付いてこない可能性もあり、判断するのが難しくなる。それに、リュシィもシエナも、さすがに毎日それでは窮屈だろう。

 まあ、リュシィは実際に誘拐された実績――というのも変だけれど――があるので、心配するのもわからなくはないけれど。


「私は兄様と一緒にいるようにするから問題ないわ」


 シエナの兄であるセストは、同じ魔法省の別部署である、実験・開発局に勤めている。

 軟派明朗、気取らず大雑把な性格だけれど、どこか憎めない性格で、昔――といっても数年前までの話だけれど――僕と一緒に道場にも通ったりしていた。実力については保証できるし、なにより、自分の妹のことだ。

 学院が冬季休暇である今、シエナが朝からセストと一緒にいることは、それほど難しいことではないだろう。むしろ、とても簡単ことだ。通勤するのに一緒についてくればいい。

 プライべ―トな用事もあるだろうけれど、その辺は、セスト、それにエストレイア家に任せるほかない。

 そして、リュシィに関しては言うまでもなく。


「リュシィとは僕が一緒にいます。狙われているかもしれないとわかっていて、二度と、あんな事を起こさせるわけにはゆきませんから」


 二度目、というより、三度目になってしまうけれど。

 あのときのことは、本当に反省している。

 狙われていることがわかっていながら、不用心すぎた。

 ローツヴァイ家の方たちもいらっしゃるだろうけれど、僕個人としても、リュシィとはなるべく一緒にいるようにしたい、と思う。

 僕は真面目にそう宣言したつもりだったのだけれど。


「それって、片時もリュシィと離れないってこと? お手洗いも、お風呂も、寝るのも一緒に?」


 シエナが楽しそうに僕たちを見比べる。

 いや、そんなわけないでしょう。いくらなんでも、ローツヴァイ家の御屋敷の中まで、誘拐を警戒する必要はないと思うけれど。さすがにそこまでは入り込めない、だろう。僕だってまさか、リュシィのところに泊めて貰う訳にも――ターリアさんは歓迎してくださりそうだけれど――ゆかないし。

 というより、リュシィをきちんと家まで送り届けて、ウァレンティンさんかターリアさん、いらっしゃらなければ使用人の方たちにお渡ししたなら、あるいは、冬季休暇以降まで延びてしまうようなら、学院とかまで送り届けてから、僕はすぐに魔法省まで戻ってくるから。

 もちろん、そんなに長引かせるつもりはなく、早急に解決するつもりではあるけれど。


「もちろん、他に用事とか、友達とかとの付き合いがあるというのなら、それを邪魔するつもりはないよ。絶対邪魔にならないよう、終わるまで、陰に徹するつもりだから」


 お稽古事をたくさんこなしているリュシィに、寄り道するなというのは不可能な話だ。

 護衛するなどと言いながら、リュシィの自由を奪うことになってしまっては、意味がない。


「それだと、レクトールが大変ではありませんか?」


「べつにそんなことはないよ。手がけている途中の案件も、そのストーカーの件以外、今は特にないし」


 たしかに、エナの件に片が付く前だったなら、大変に思ったかもしれない。というより、身体がひとつしかない僕には無理だったことだろう。

 

「それに、リュシィの安全より大切な仕事は僕にはないから」


 いや、仕事というわけでもないな。僕がやりたくてやっていることだから。役目といったほが近いのか? 役得、うーん……まあ、言葉なんてどうでもいいか。

 そもそも、魔法省に勤めているのも、リュシィの安全を守るためという理由でもあるわけだし。 

 

「そ、そうですか……」


 珍しく、リュシィが気恥ずかしそうに、視線を逸らす。

 あれ? どうしたんだろう。いつもなら、そうですか、とだけクールに言ってくれるのに。これはこれで可愛いけれど。

 そう不思議に思っていたら、周りの人たちが、なんだかにやにやとした笑顔を浮かべていて。


「あら、レクトール。ご馳走様」


「さっきお昼は済ませたばかりなんだけれど」


 なるほど。周りに人がたくさんいたからか。それも、頻繁に顔を合わせる人たちばかり。

 こうなってくると、もう少し、そんなリュシィの表情を見ていたい……という欲望にはかられるものの、さすがにそんなことはしない。他の人にまで見せるのは、もったいないし、そんな趣味もない。


「レクトールは本当、リュシィのことになるとダメダメね」


 シエナが呆れたように肩を竦める。 

 そうだろうか。

 個人的には、結構気を遣っているつもりなんだけれどな、と思ったけれど、今回はそうではないようで。


「全部顔に出ているのは、諜報員として失格ではないかしら」


 そんなにわかりやすい表情をしていたのだろうか。

 確かめるために顔をあげて周りを見れば、皆、一様に頷いていた。そんなにわかりやすい表情を……していたんだろうな。


「まあ、いいんじゃない? 仕事や任務に影響がなければ、そういうのも素敵だと思うわよ」


 シスさんがそうおっしゃって、確認されるように、リュシィのほうを向かれる。


「ねえ。リュシィちゃんもそっちのほうが嬉しいわよね」


 そっちって、僕の感情がわかりやすいほうがということだろうか。

 そんなこと、リュシィは気にしないと思うけれど。

 しかし、僕が予想したのとは違って、リュシィは頬をほんのりと赤く染めながら、照れているかのように、顔を逸らした。

 あれ? そういう反応?


「どうしたの、リュシィ。なにかよくないものでも食べた?」


 いつもとは違う反応に、逆に、僕のほうが狼狽えさせられる。いや、狼狽えるとは違うか。戸惑うといったほうが近いかもしれない。

 リュシィが、いまさら、こんな程度で照れるような、そんな感情を持ってはいないと思っていたけれど。

 それとも、僕の思い違いだった? 僕が女心に疎いのは、そのとおりだろうし、これまでの間に変化しているという自覚もなく、いつもどおりに察せていなかっただけなのだろうか。

 もしくは、心境の変化? リュシィも年頃の女の子だし。

 もちろん、今回のそれは、僕としては嬉しい変化であるような気はするけれど。

 とはいえ、さすがにそれをこの場で直接確かめるのが、デリカシーに欠けるというのは僕でもわかるので、したりはしないけれど。


「……いつまで見ているんですか、早く、仕事でもなんでも、終わらせてください」


 照れ隠しのように(今の状況ではそう判断されても仕方がないだろう)リュシィに追いやられ、振り返りたい衝動にかられつつも、僕は途中だった仕事に、そして追加の仕事に取り掛かる。

 学院は冬休みでも、僕たちにはないから。

 正確にはとることはできるのだけれど、僕はいつもどおり繰り越して、正規の日程では申請していないから。

 あんまり消化していないと、問題にもなったりするらしいけれど、そのあたりは上手く調整してくださっているらしい。



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