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リュシィの誕生日 5

 見た目からの推測でしかないけれど、おそらく、年の頃はリュシィと同じか、少し下くらい。

 緊張したような面持ちで、伺いを立てるように、僕のことを見てくる。

 なので、僕は少し身を引いて。

 そんな僕の気配を察したのか、リュシィが一歩分だけ、彼らの側へと歩み寄る。


「なにか御用ですか?」


 さすがに、まったく無視するとか、欠片も興味を示さないということもなく、しかし、どこか他人行儀にもとれる感じだ。

 とはいえ、相手が名乗る前に声をかけたということは、リュシィとしても顔は知っているようで、多分だけれど、クラスメイトか、あるいは、同学年の子たちなのではないかと推測できる。


「あ、あの、本日は、お誕生日、おめでとうございますっ」


 言葉もつっかえつっかえで、後ろで見ていても微笑ましい。

 それに、たとえ緊張しているだけだとしても、自己アピールするばかりではなく、リュシィの反応を待っているところも好感が持てる。


「ありがとうございます」


 リュシィが穏やかな感じに微笑むと、彼らの顔に朱色が差す。

 反応が初々しいというか、僕から見てもリュシィは美少女というに躊躇いのない女の子だから、彼らが緊張する理由もよくわかる。

 よくいる大人ならば僕がいる必要もありそうだけれど、この場ではむしろ、邪魔になるかもしれないな。


「ごめん、リュシィ。急用の連絡が入ったみたいだから、少し席を外すね」


 疑っている、どころか完全に嘘だとばれているようにリュシィには軽く睨まれたけれど、それには気がつかないふりをして。


「僕のいない間、リュシィの相手を頼めるかな」


「は、はい」


「お任せください」


 隠し切れない喜色を浮かべ、力強く頷く彼らによろしくね、と言い残してその場を離れる。

 もちろん、連絡など入ってはいないので、会場の外に出て、廊下の壁に寄りかかるだけだ。


「ふぅ――」


 そして、ひと息つこうとしたところで、


「あの子たちは合格?」


 まるで狙っていたかのように声をかけられて、心臓が大きく跳ねる。


「……シエナ。驚かさないでよ」


「驚かしているつもりはないわよ。レクトールのほうに、驚かなくてはならなかった理由があったんじゃないかしら」


 それってどういう意味。


「それで、あの子たちは合格だったの?」


 僕が尋ねる前に、同じ質問が繰り返される。

 そのシエナの口調は少し怒っているようでもあって。


「合格って?」


「わかっていることを聞き返さないで」


 いつもより少し厳しかった。

 もちろん、問いたい意味はわかっている。リュシィのパートナーたり得るだろうかということだ。今ではなくとも将来的なことまで含めて。


「どうかな。僕は彼らが二言三言話している場で、後ろで話しを聞いていただけだし、判断は保留じゃないかな」


 ウァレンティンさんが僕に期待していらっしゃるのは、リュシィへの虫除けということであり、すべての交友機会を奪うことは望まれていないし、僕だってしたくはない。

 それに、リュシィに想う人ができるまで、という期限であるなら、そういう人のできる機会まで奪ってしまっては意味がないというか。

 

「レクトールさんはそれでいいんですか? リュシィがすこし可哀そうな気もしますけど」


 ユーリエが真剣な表情で問い詰めてくる。

 今の感じだと、僕は、リュシィに言い寄る異性の中で、純粋な好意と判断した場合には黙認しているようにもとられてしまうこともあるかもしれない。


「もちろん、僕にだって、嫉妬だとか、やきもちだとかって気持ちはあるよ。リュシィにこっちを見ていて欲しいという望みも。だけどそれは、そういう自分でありたいという望みだから」


 リュシィに認めて貰えるような人物でありたいという。


「それって、恋心とは、どう違うんですか?」


 恋心、うーん、どうなんだろう。どこからを恋心と定義するべきなのかな。

 好意の延長線上にあるという意味では、間違いなく、恋愛感情でもあるとは思うけれど、それよりは、むしろ、父性的な?


「勘違いさせたなら申し訳ないけれど、僕だって、リュシィのことは好きだし、大切な女の子だと想っているし、将来的に結婚してくれたら嬉しいなとは思っているよ」


 でもそれは、僕が努力する話であって、リュシィの感情というか、気持ちというか、うーん。


「人が人を想う気持ちには、愛しているとか、恋しているとか、それ以外にも、いろいろと種類があって、単純にそれだけでは括ったりできないんだよ」


 こんなこと、僕に言われるまでもなく、ユーリエやシエナにはわかっているとは思うけれど。

 

「とにかく、リュシィは、僕の今、一番大切な女の子だよ。それは事実だから」


 僕が責任をもって、守って――リュシィにはその必要はないと言われるかもしれないけれど――いこうと心に誓っている女の子。

 まあ、あんな目に遭わせないと誓っておきながら、何度かそういう目に遭わせてしまっているのは、本当に申し訳なく思っているけれど。


「そういうわけで、今はそれで納得してくれるかな」


 未来は白地図なので、僕にはどうなるかわからない。どうしたいとか、そういう希望ならばあるけれど。

 

「ふーん。まあ、レクトールにしては、合格ラインってところかしら」


 シエナが頬笑みを浮かべる。

 にしては、ってところにアクセントが置かれていたのには、少し気にならないでもないけれど、駄目出しではなかったというのは、大分大きい。


「えっと、それなら、私のほうを向いてくれるには、私も誘拐とかされたり、危なっかしいと思って貰えるように頑張ったらいいのでしょうか?」


「いや、ユーリエ。それはなにか、いや、大分違うと思うけれど」


 誘拐されるように頑張るってなに?

 

「そういう属性でリュシィと張っても勝ち目は薄いわ。それより、ユーリエはもっと別の、そうね、たとえば、胃袋から掴みにかかるって作戦でいったらいいんじゃないかしら」


「シエナはどうするの?」


「私? そうねえ」


 考える素振りを見せたシエナは、その実、最初からそうしようと決めていたのだろう。えいっ、とばかりに僕の腕に抱き着いて、柔らかいものを押し付けてくる。


「どう、レクトール。リュシィのものより、将来性があるでしょう?」


「いや、リュシィのは確かめたことがないから、比べられないというか……」


 不本意――とは、言い切れないのだけれど、それはおいておいて――ながら、いや、それ以外にも、夏季休暇に海に行った際なんかにもあったけれど、リュシィの胸に関しては何度か目にする機会に遭遇している。

 まったく無いわけではないけれど、シエナやユーリエと比べると、いまだ、成長期が来ていない感は否めないというか。

 まあ、重要なのは大きさではなくて――って、僕はなんで真面目に初等科生の女の子の胸の考察なんてしているんだろう。

 

「私の成長曲線は決まっているのでしょうか?」


 エナが自分の身体を見下ろして、胸の辺りをペタペタと触っている。


「いや、成長は最初から決まっているものじゃなくて、環境とか、食事事情とか、運動なんかによっても変わってくる、というより、そっちのほうが大きく影響するものだから」


 だから、エナだって、これからの成長にはどんな可能性だって存在している。

 

「それは、レクトールさんは胸の大きな女性のほうがお好きだということですか?」


「えっ、いや、それは――」


 それは、まあ、べつに嫌いということはないけれど、それが判断基準にはならないというか。

 

「あっ、ごめん。そろそろ、リュシィの話が終わりそうだから、僕は向こうに戻るから」


 とりあえず、その場は答えを濁して、リュシィの元へ向かう。



 

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