人工魔法師 27
これまでのことから考えるに、多分、彼女の相手は僕がしたほうがいいだろう。
てっきり、彼女自身では戦闘はしないと思っていたのだけれど、これだと作戦を変更する必要が出てきた。
ソシドラ・フィニークの手札が不明である以上――魔法を使わないことはわかっているけれど――リュシィたちに相手をさせるのは危険に思える。
だからといって、僕がそちらだけにかかりきりになってしまうのも、できる限り短期決着を目指しはするけれど、心配ではある。
幸いなのか、AMFを展開するつもりはなさそうなので、探知防御を心配する必要もなく、いずれ先輩たちが追い付いてくるだろうとは思うけれど。そもそも、あれだけ目立っているし。
「ソシドラ・フィニークは僕が相手をするから。皆はエナと一緒に」
迷いは一瞬。
時間稼ぎとは別の意味で、時間を取られるのは避けたい。ここは戦場なのだから、迷いは命取りだ。
「わかりました、レクトールさん」
「こちらは私たちが責任をもって食い止めます」
「任せなさい。ふふっ、楽しくなってきたわね」
若干一名、少々不安な返事があったけれど、逆に、いつもどおりだと安心する。
「あら、いいのかしら。あんな子供たちにあの子の相手を任せて。前回、あなたたちでも苦戦していたように見えていたけれど?」
「苦戦? なんのことでしょう。たしかに、僕とシスさんだけでは多少手詰まり感もありましたが、人数が揃ってからは問題はまったくありませんでしたよ」
これは学院のテストなんかではないのだから、ひとりですべてをこなさなければならないという理由はない。
もちろん心配はするけれど、皆なら大丈夫だろうという、信頼もある。
「それに、すぐにあなたを逮捕して、僕も加わりますので。いずれ他の人も追いついてきますし」
たしかに、初等科生たちだけに彼女と戦わせるという危険を、この場での保護者代理としては、あまり認めたくはない。それは、保護者代理としてだけではなく、一魔法省の人間としても、僕自身としても同じことだ。
しかし、ふたりの相手を同時にするのが危険である以上、どちらかは放置せざるを得ない。
「ふぅ。まったく、舐められたものね」
ソシドラ・フィニークは鬱陶しそうに前髪を搔き上げる。
「いいえ。あなたを侮るつもりはありません」
侮ってはいない。
ただ、そうしなければならないと、強く自身に誓っているだけ、そして、冷静に彼我の戦力差を分析した結果だ。
「ですが、大人しく投降してくださると助かります。こちらとしても、無駄に時間をかけたくはありませんから」
そして、相手の意志の確認も、一応、しておかなければならないし。
「あなたはただの実験とおっしゃるようですが、前回の被害状況を考えれば、ただの実験だと言い切ること――言い切らせることはできません。あれが市街地――人の住んでいるところに向けられなかったのはただの偶然だと、あなたも理解していらっしゃるでしょう?」
大量破壊魔法の実験など、到底、認可できることではない。
僕たちの使命は、この国に暮らす人たちの安全と安心を守ること。あのような脅威が再び出現することは、絶対に避けなければならない。
「それは大層、ご立派な使命感ねっ」
そう言いながら、懐から引き抜かれ、こちらへ向かって投擲された注射器らしき物体を躱す。
ソシドラ・フィニークの肉体能力はそこまで高くはない。
懐から引き抜き、構え、ためをつくり、狙いを定めて、投擲する。それだけのモーションがあれば、視線や身体の向きなどからの予測射線上から避けることは可能だ。
僕が障壁を使えることはわかっているだろう彼女が、そんなわかりきっている結果の対策をしていないはずはないだろうと思ってのことだ。たとえば、実はAMFを作り出す装置を隠し持っているとか。
それに、単純に肉体能力のみで躱したほうが、彼女に与える衝撃も大きいだろうと考えてのことでもある。
魔法で防がれたのなら、まあ仕方ない、と思うかもしれないけれど、こんな風に躱されたのなら、おそらくは衝撃のほうが大きくなるだろうと予想して。
そして、すかさず、拘束魔法で彼女の動きを封じさせてもらう。
普通の錠もあるけれど、彼女の手札を開けさせることが目的だ。無いなら無いで、むしろ、それはありがたいことでもあるわけだし。
彼女がそれを破る様子は見せないので、僕は近付いて、しゃがみ込み――
「油断――」
「油断なんてしていませんよ」
やはり所持していたAMFの発生装置により、拘束魔法が解かれる。
先程までの戦闘で使用しなかった理由は不明――効果範囲を考えれば、向こうの戦闘の邪魔にはならないだろうに――だけれど、持っていないと考えてもいなかった、というより、むしろ所持していると考えていた。
ここまで逃げ続けていたということは、僕たちの探知魔法から隠れ続けていたということでもあるのだから。
「あなたこそ、前回の実験? から観測していたのではないのですか?」
なにも僕たちは、魔法の実力だけで諜報部に所属しているわけではない。
近接格闘も、武器術も、その他にも、ひと通りの訓練は受けている。
突き出された腕を躱し、逆に捕まえて、そのまま、相手が次の行動に移る前に、地面に向かって投げ落とす。
相手は、肉体的な意味では鍛えていない素人だけれど、まあ、死にはしないだろう。
地面に伸びたソシドラ・フィニークの脈をとれば。
「よし、まだ動いているな」
本人は痙攣して地面に伸びてはいるけれど。
さすがに泡までは吹いていない。
「こちら、レクトール。ソシドラ・フィニークは確保しました」
持っていた錠をかけて拘束。
前回のことがあるため、それだけでは油断はできず、僕はその場から動くことはできないけれど。
「了解したよ。こちらはすでにエナちゃんたちに合流しているから、心配はしないで」
ウィーシュさんからそんな返事をもらう。
結構時間も経っていたし、予想どおりと言えば予想どおりだ。
探知魔法によって、リュシィたちの反応を探れば、四人とも、すくなくとも生存してはいる。心配はするけれど、さっきのウィーシュさんとの連絡でほかになにも言われなかったということは、皆、無事でいるのだろう。
まさか、僕には黙っていてくれ、なんて言うはずもないだろうし。なにより、こちらの戦闘は終了していると報告しているのだから、心配は掛けまいと、こちらに報告しない理由もないはずだ。
「了解しました。これより、合流に向かいます」
女性に対して失礼かとも思ったけれど、用心するに越したことはない。
僕はソシドラ・フィニークの身体を浮かせ、そのまま自身も飛び上がり、皆の反応がする、そして光や音の激しい場所へと向かう。
戦闘している最中は気にしてもいられなかったけれど、いつの間にやら、皆と離れてしまっていたらしい。まあ、数百メートル程度ではあるけれど。
「レクトール。こっちよ」
わざわざシスさんが空中にまで浮かび上がってきて、僕を呼ばれる。
なぜ? と思っていると。
「ああ。もうすぐ終わるのだけれど、今、あの子たちが真剣勝負の真っ最中だから。きっとレクトールのことだから、皆が戦っているのを見たら、そのまま一直線に降りて行ったでしょう?」
シスさん達が到着した直後、当然、戦闘に介入しようとされたらしいけれど、邪魔しないで、と言われたらしい。
まあ、それで本当に邪魔をしていないわけだから、そこまでの危険なことはなかったのだろう。
「え、ええ、まあ、そうね」
なんとなく歯切れが悪く、視線を彷徨わせるシスさんに。
「なにかあったんですね?」
「だ、大丈夫! そこまでひどいことはないから」
心配になりながらも、僕はシスさんについて、ゆっくり地上へと向かう。もちろん、ソシドラ・フィニークの拘束は緩めたりしないまま。




