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人工魔法師 11

 すっかりあれにうっとりしている様子だったから後回しにしていたとはいえ、一応、拘束はしていたというのに。

 しかし、今、こうして逃げ出してなんになるというのだろう。

 探知魔法を使えば、すぐに彼女の居場所はわかった。まだ、この研究所の施設内だ。

 こうしてすぐに発見されてしまうことなど、わかり切っていることだろうに。 

 あるいは、それでも確認したいなにか――おそらくは研究成果だろうけれど――が、まだ残されているということだろうか。

 しかし。


「あれ?」


 突如、追っていたソシドラ・フィニークの反応が消失した。

 探知防御の魔法もあるけれど、彼女は魔法師ではなかったはずだ。


「どうした。なにか問題でもあったか?」


「それが、ガーフィールさん。ソシドラ・フィニークの反応が消失しまして」


 現状、彼女を探知魔法により探せるのは僕とシスさんだけだろう。

 もっと言えば、多分、エナは探せるだろうけれど、ここには来ていないし。

 シスさんにも確認してみたところ、やはりだめそうだった。


「いったい、どうして……」


「すでに、レクトールの探知魔法の及ぶ範囲外に逃げちゃったとか?」


 シスさんがもっともありそうに思える提案をしてくるけれど、急に探知魔法の範囲外に逃げられる方法なんて、存在するのだろうか。

 というか、そんな方法があるのなら、なぜ、最初から使わないのだろう。この場からいなくなった時点では探知魔法に引っかかっていたことへの解答にならない。

 顎に指をかけて考えていたウィーシュさんが、


「ここで彼女たちは人工魔法師の研究をしていたんだよね」


 いまさら確認するまでもなく、そのとおりだろう。

 僕が頷くと。


「研究、そして実験が最初からすべてうまくゆくはずもない。そして彼女自身は非魔法師。あるいは、ここで活動していた多くの人間が非魔法師だろう。仮に、実験が失敗した際、どうやって人工魔法師を止めるだろうか」


 重火器、拘束具、電磁柵、いろいろと考えられるけれど、魔法師――それもまだ生まれたての未熟な――を止めるために最も有効なのは。


「AMFがあったということですか?」


 続けられたウィーシュさんの推測を補足するように、仮説を口にする。

 ウィーシュさんは頷かれて。

 

「そう。レクトールの言うとおり、AMFの発生装置があったとしたなら、そしてそれが持ち運びできるくらいの大きさのものだったとしたら、逃走手段を用意していた場合、探知魔法の範囲外に出るくらいの時間は稼げるんじゃないか、と思うけどね。もちろん、仮説だけれど」


 たしかに、今は戦闘の直後で、そこまで高出力で探知魔法を使えていなかった。

 探知魔法は、対象が遠ざかるほど、精度や威力が落ちる。

 すでに、僕の魔法力より、距離とAMFの出力が上回っている、ということなのだろう。


「ソシドラ・フィニークはどこへ逃げたと思いますか?」


「おそらくは、別の研究施設だろう。彼女の様子を見ていれば瞭然だろうけれど、ああいう人種は、自身のやりたいこと――この場合は研究だな――それを止められない。今回の騒動で得られたデータも利用したいだろうからね」


 研究者の性というやつだろうか。

 だとしたら、問題となるのはその研究施設がどこにあるのかということだ。


「それは、ここの残っているデータにあるでしょうね」


 シスさんが建物を見上げる。

 避難先の情報をまったく残していない、というのも考えにくい。たしかに、痕跡くらいは残っているかもしれない。


「じゃあ、レクトールとシスの魔力が回復するまで、今日のところはそれを探すってことでいいかな」


「僕たちの魔力が回復するまで、ですか?」


 いや、その探知魔法が使えないから困っているという話では?


「機械である以上、無限に起動させられるはずはないよ。そのアジトに着くまでだって、ずっと使用しっぱなしというわけにもゆかないだろう。レクトールなら、発見できるよね?」


「だから、なんで僕なら――」


 たしかに、彼女との接触時間でいえば、僕は長いかもしれないけれど、それなら、シスさんだって同じことだと思うけれど。

 

「いえ。探索系の魔法なら、レクトールのほうが優れているわよ。だって、あんなに離れた距離にいたリュシィちゃんを、ちゃんと探し出した実績があるわけだし」 


 リュシィが誘拐された際、街中なんかではない、数十キロ以上離れている場所のリュシィの気配を探知したこともあった。

 加えて、その時、リュシィは僕たちが利用する手錠のような物を嵌められて、魔法を制限された状態でもあった。

 

「それとも、リュシィちゃんのことじゃないと、探し出せないかしら?」


 シスさんが楽しそうに笑う。

 

「いえ、そのようなことはありません」


「それって、リュシィちゃんじゃなくても、誰でもいいってこと?」


「あー。これは報告しなくちゃならないな」


 そっちから焚きつけてきたくせに、好きかって言ってくれるなあ。

 その論だと、どちらを答えても、僕に逃げ場がないのだけれど。


「でも、今はダメね。今日の件の報告書をあげないと。それから、報道関係の対策も」


 キュールさんがそうおっしゃって、一旦、僕たちは手分けして、建物内でのデータ等の捜索に従事した。

 詳しいことを知っていないと、説明責任も果たせない。まあ、それをするのは僕たちではなく、オンエム部長とか、上役の方の仕事なのだけれど。

 一応、シスさんが主要なデータは抜き出してくれているはずだけれど、資料やデータは多いほうがいいだろう。幸い、持ち手は足りているから。


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