『白い粉』 6
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せめて受付で止めてくれないか、と期待していたのだけれど、普通に四人で利用できてしまった。
まあ、フロントで僕がきちんと身分証を提示して、利用の目的をはっきり告げたからだとは思うけれど。そういうことにしておいて欲しい。
まあ、男と一緒に張り込みをするよりは億倍マシだ(むしろ、そのくらいしかマシなところもない)。
そもそも、そうしなければ、利用中の部屋を途中で調べることができない――普通のホテルと違って、一度ドアを閉めると途中で入ることができない――ので、必要な処置だったのだけれど。
「凄いです。このベッド、回るんですね。なんでなんでしょうか?」
「浴室も、扉以外はガラス張りね。部屋の側から丸見えじゃない」
「そもそも、部屋の中が二階建てになっている理由がわかりません。同じ階層で造ったほうがコスト的にも良いのでは?」
とりあえず、現在のところ利用者はおらず、予約も入っていないので、待たせて貰うためにも一室借りた。もともとは、借りるつもりなどなかったのだけれど。
部屋に入った初等科生三人組は、大分はしゃいでいる様子だった。
理由は、まあ、考えるまでもないけれど、一応、これは張り込みだってことを忘れないで欲しいのだけれど。
いや、忘れてくれていたほうがいいのか。
この部屋の中ならば安全? だろうし、部屋の中のことに夢中になっていてくれたほうが、僕もひとりで動けるということだから。
しかし、なにも、真面目に利用しようという人たちの邪魔をしようというつもりはない。
フロントの裏あたりのスペースを貸して貰って、そこで来た人をチェックさせて貰えれば。
しかし、この三人を放置していくこともできないしな。
どうか、こんなところで取引しようなどとは思わないでください。
「三人とも、聞いて」
目的は真逆と言ってもいいかもしれないけれど、内装だけ見れば、遊園地みたいにも見えないこともないところだ。
しばらくは、三人の興味も尽きないだろう。
「僕は別のホテルにも話をつけてこなくちゃいけないから、大人しく、ここで待っていてね」
この周辺にあるラブホテルはこの一軒だけではない。
むしろ、そこかしこに建っている。いわゆる、歓楽街だ。
「本当は、帰っちゃってくれるのが一番なんだけれど、そんなつもりはないんでしょう?」
そして、説得にとられている時間もない。
「えー。つまらないわね」
「つまらないとか言わないで。言っておくけれど、これは仕事なんだからね? 本来なら、きみたちは即刻帰らせるべきなんだから」
うちの部長の頭がおかしいせいで、なぜだか、ついて来られてしまったけれど。
唇を尖らせたシエナに、くれぐれも、と言い聞かせる。
これは、僕の頭が固いのではないだろう。うちの部署の他の人の頭のネジのほうがどうかしているのだ。まあ、九割以上、僕をからかって楽しんでいるのだろうけれど。
「それから、万が一、なにかあってもこの部屋から出たりしないで、まず、僕に連絡して。これだけは、絶対、約束して」
「はい、レクトールさん」
「わかっているわよ」
「シエナのことは私がしっかり監視しておくので、心配には及びません」
まったく安心できない(実力とかそれ以前に、この場所の問題として)けれど、ここに至っては仕方ない。
下手に動かれるより、こうして、なにかしていると思ってもらうことで、それ以上、なにかをしようと思わないでいてくれるのなら、ある程度、許してしまうほうが、精神的にも良いだろう。
本当に不安ではあるけれど、僕はフロントに連絡して、鍵を空けて貰おうとしたところで。
「先ほどのお話しの件で」
と、電話越しに切りだされた。
嫌な予感はしつつも、聞かないわけにはゆかないだろう。すでに、巻き込んでしまったのだから。
「なんでしょうか?」
「はい。今、お客様がいらっしゃいました。それで、男性はともかく、女性が、あきらかに、未成年なのですが」
僕の身分的には、広義的には、警察と言ってもいいだろう。
一般からの通報の場合には、さほど、違いがあるわけでもない。
「一応、未成年ではない、とのことでしたが、こういう場所で働いていますと、多少はわかるようになりますので」
それでも、いろいろとすり抜ける方法はあるのだろう。
そうでなければ、このような注意はすぐになくなるはずだ。
「ありがとうございます」
感謝を告げ、通話を終える。
来て欲しくないと思うと、来るんだよなあ。来て欲しいと思うときには、まったく来ないのに。
「本当に来たのね」
通話口のこちらの僕の言葉だけで推察したのだろう。
シエナが面白そうに目を細める。
「言っておくけれど、彼女が未成年でここを利用したからって、きみたちがここを利用しているということが、許されるわけではないんだからね?」
このことは、今日中にご家族に伝えなくてはならない。もちろん、三人ともだ。
「それで、どうするの? 早速乗り込む?」
「待って、シエナ。それだと、普通に捕まえるまでしかできない」
一応、今利用している人たちが、ただの未成年を連れ込んだ客だという可能性も残っている。
もちろん、それはそれで犯罪だから、最低でも事情聴取はしないといけないのだけれど、そうしている間に本命が現れたりしたら、対応が遅れることにもなりかねない。
というか、待っていてって言ったよね? なんで、一緒にくるみたいな言い方をするの。
「まずは、内部の様子を監視する必要があるだろうね。本当に、ただ利用しているだけだとしても、未成年者をここに連れ込んで、情事に及んだとなれば、結局、それはそれで捕まえなくてはならないし」
どちらにしても、内部の監視はする必要がある。
「念のため、言っておくけれど、きみたちは絶対、映像を見たらだめだからね。というか、見せないし、見たとしたら、本当に連行するからね」
脅しではない。
彼女たちだって、立派に、という表現はおかしいけれど、未成年なのだから。
とりあえず、すぐに部屋には乗り込まず、受付奥のモニターで部屋の中を監視する。
しばらくして。
「本当にそんな酩酊感を味わえるの?」
「ああ。なんでも、魔法みたいだって触れ込みの薬だからさ」
「でもお金が……」
「大丈夫。最初のこれだけはサービスしといてあげるよ。俺が買ったのだけど、可愛いから特別にね」
「それ、皆に言ってるんじゃない?」
そんな会話が聞こえて来た直後。
「あの部屋の鍵、一分後に開けてください」
僕はフロントの人に頼んだ。
扉を壊したりしたら、費用も掛かるし、面倒だから。
幸い、彼らは今、シーツだけで、他にはなにも身に纏っていない、逃げるにしても、それなりに時間はかかるだろう。多分。
僕は階段を駆け上がる。
皆に連絡するのは後回しにして、とりあえず、現場を押さえる。
「軍事局です。ここに未成年と思しき少女が連れ込まれたとの連絡がありました。中をあらためさせていただきます」
すでにロックの外されている扉は、抵抗なく開いた。
当然、あれだけの時間で服を着る時間などあるはずもなく、ふたりとも、正確には、辛うじて女性――少女でも通じるだろう――がシーツを身体に引き寄せているというだけだった。
「軍事局、だと?」
困惑している様子の男性を無視して、女性に近寄り。
「身分証の提示をお願いします」
確認してみれば、やはり、高等科の生徒。
未成年者を連れ込むことは、法律により禁じられている。
「つ、連れ込んだんじゃない! 同意の上だったんだ!」
「そうですか。ですが、実際のところ、それは関係ありません」
困惑の窮まったような表情を晒す両者を取り残し、僕は男性のほうが呈している薬の入っていると思しき包みを取り上げて。
「これについて、お話しをうかがいたいのですが、構いませんよね?」




