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ルナリア学院学院祭 7

 とはいえ、闘技場での闘技会へ行くというのは賛成だ。

 もちろん、出てみたいということではなく、観客に売り歩くのは、これらを売り捌くうえで、かなり正解に近いはずだから。

 

「じゃあ、レクトールと兄様は客席のほうでお願いね」


「え? どういうこと?」


 なんとなく嫌な予感がしつつも、聞き返した問いにシエナはただ微笑むだけで、ユーリエの手を引いてさっさと歩いて行ってしまった。受付のほうに。

 

「ここは初等科生でも参加できるのよね?」


「え、ええ。おふたりとも参加されるのですか?」


 戸惑っている様子の受付係に、


「いいえ、私だけよ。見てのとおり、こっちのユーリエは宣伝係なの」


 さくさくと署名し、同意の承認をしたシエナは、当然、制服の上にエプロンをつけたままの、クラスの出し物の衣装で参加するらしい。

 

「承りました。では、控室のモニターのマッチングリストに御自身の名前が表示されるまで、しばらくお待ちください」


 参加がフリーということは、当然、対戦相手も考慮されないということだ。

 一応、多少の介入はされていて、初等科の女の子が、いきなり高等科の男子生徒とあたる、なんてことはないみたいだけれど。そtれでも初等科生と中等科生、中等科生と高等科生くらいなら、普通に組まれるようだ。

 当然、武器も、魔法の使用も認められている。素手で参加する強者もいるみたいだけれど。


「そりゃあ、男なら誰だって素手で挑みたくなるだろ。こういう催しならな」


 セストの意見は、わからなくもない。僕だって、仮に、参加することになれば、素手で参加してみたいと思うだろうから。

 魔法師であっても、そのあたりは変わらない、男のロマンみたいなものなのかもしれないな。まあ、参加しているのは男子だけではないけれど。

 見に来ている生徒はそれなりに多く、魔法師、非魔法師に関係なく、盛り上がっている。


「さあ、続きましての挑戦者は、ああっと、これは驚きです! シエナ・エストレイア、つい先日十二歳になったばかりの、初等科、初等科の女の子です!」


 実況の声に続いて、シエナと、それからセコンドかなにかのように付き添うユーリエが場内に姿を見せると、観客の興奮はより一層高まったように感じられた。

 まあ、人目を惹くからな、ふたりとも。

 心優しく、純真、前向き、一生懸命という内面こそ、ユーリエの最大の魅力ではあるものの、肩のあたりでふわりと広がる金の髪に青く輝く大きな瞳、ころころと変わる表情が、見ている人を惹きつけないはずもない。

 加えて、隣に並んで歩いているのはシエナだ。

 腰のあたりまでまっすぐに伸びた黒い髪、妖しげに微笑んだ表情から滲み出ている自信と余裕、ユーリエよりも発育の良いプロポーション、リュシィとは少し違った種類の、人目を惹きつける、抗い難い魅力を放っている。

 手を振りながらシエナがステージに上がれば、屋外すり鉢状の闘技場の熱はさらに高まる。まさに、天井など知らぬがごとく。

 司会者役の生徒は対戦相手の名前を読み上げていたけれど、マイクを使って増幅されたその声も、聞こえた観客は――耳には届いていたかもしれないけれど――ほとんどいなかったことだろう。

 闘技場へのふたつある入口の座席のさらにその上にある大型のスクリーンに映し出される顔写真、簡易プロフィールがなければ、一部、マイクにほど近い客席にいた観客(それからもちろん元々知っている生徒)以外は、これから戦おうとしている美少女二人の、名前もわからなかったに違いない。

 いや、シエナのほうは知られていた可能性も高いけれど。

 会場が熱気に包まれる中、審判を務める先生方により、開始の合図が高らかに鳴らされる。 

 対戦相手――着ている制服から判断するに、同じルナリア学院の、中等科の生徒だろう。 

 力試しに出ること自体はともかく、女の子なのに、制服で――つまりはスカートのまま――対戦の場に出るというのはどういうことなのだろうか。たしかに、相手が男子生徒――純情な男子生徒であれば、いい目くらましにもなるかもしれないけれど。

 この競技場、正確にはシエナとユーリエ、それに中等科の女子生徒ふたりの向かい合うステージは、円形のステージの上に、大小さまざまな大きさの鉄板で柵が下からせりあがってくる。迷路、とまではゆかないまでも、ちょっとした防壁程度にはなっているようだ。

 ところどころに設置されたカメラで、客席側からは選手の様子は丸見えだけれど、さすがにそのモニターを、当事者が確認しながら進むということは不可能だろう。探知系の魔法を使えば話は別だけれど。

 しかし、それは相手も使っているということであり、互いに、直接向き合ってはいなくても、位置は把握できている。

 魔法師でなかったら、こういう、完全に互いの姿が見えなくなるような遮蔽物は使われなかったのだろう。いや、それはそれで面白いとも思うけれど。

 この様子では、一気に駆けて距離を詰め、そのまま接近戦が即始まる、みたいな展開にはならないだろう。

 そう思っていたのだけれど。


「よっと」


 シエナはさっとその身を翻し、柵の上へと着地する。

 

「さあて、どこにいるのかしら」


 開始前には正対していた相手は今や迷路の柱の影。

 モニターにシエナの楽しげな表情が映し出される。先輩である相手に対し、自分は逃げも隠れもしないという挑発だ……だろう。

 とはいえ、さすがに飛び上がったりまではしない。射撃魔法の対象として、良い的だ。

 そして、シエナを追いかけるように、ユーリエまでもが、柵の上へとその姿を見せる。

 

「あら、ユーリエ。いいの、上がってきても」


「もちろん。上から一方的に攻撃されるほうが不利だから」


 頭を押さえられるというのは、戦況から言えば、かなり厳しい。

 迷路(に似た)構造になっている以上、奇襲しやすいのは、その姿を隠しやすい、下にいるほうだろうけれど、ふたりは魔法師で、その理屈は通用しない。


「そうこなくっちゃ」


 ふたりはそのまま、柱の上で背中合わせになり、構える。

 相手は格上だけれど、負けるつもりなど全くないらしい。

 直後、ふたりの乗っている柱の真下から、大きな破砕音がしたかと思うと、ぐらついた柱が一気に倒れる。


「えっ」


「ちょっと」


 まさか、柱、つまりステージごと壊されるとは思っていなかったのだろう。

 飛行の魔法を使用するのもままならず、ふたりはそのまま落下する。 


「ユーリエ」


「シエナ」


 寸でのところで直撃は免れ、ギリギリで浮遊できたものの、当然。


「こんにちは、可愛いお客さん」


 そこで待っているのは柱を倒壊させた張本人たる、中等科生の女子生徒だ。

 この試合の決着は、降参か、気絶、つまり続行不可能と審判が認めるか、あるいは、控室で渡された花の花びらを全て散らされるか。

 出場選手は、その花を、身体の正面の見えるところにつける必要がある。もちろん、本気で気絶させに、あるいは降参させにくることもあるけれど、その花びらだけを散らすのにもたしかな技量は必要なので――あるいは落としどころと言ってもいいだろう――ある程度以上には理にかなっていると言える。

 そもそも胸元、つまり、心臓近くに攻撃を受ければ、普通は戦闘続行不可能、あるいは、運が悪ければ、死亡だってありえるのだから。


「引き離されないようにね、ユーリエ。一対一じゃあ、勝ち目は薄いわ。負ける気はないけれど」


「わかってるよ、シエナ」


 普通に考えれば、まともにやれば、初等科生が中等科生に勝てるはずもない。

 まあ、リュシィやシエナは、一対一なら、相手の実力次第では、勝てるかもしれないけれど、二対二となると、厳しいだろう。

 だからこそ、連携が重要になってくる。


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