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4:戦いの始まり

 朝家を出ると友人の戸村とむら史歩しほちゃんが家の前にいた。私は兄2人とマンションに住んでいるのだが、外ではなく廊下に彼女はいた。鍵を持ったマンションの住人か、住人の部屋のインターホンを押して開けてもらわないと入れないはずなのに、と思ったけどきっと勝実お兄ちゃんが開けたんだろう。確か仲よかったはずだし。


 私の家はいわゆる転勤族で、中学に上がるまではいろんな都道府県を巡った。単身赴任なんて砂糖吐くほどの関係だった両親の頭にはなかった。

 私が中学生になる前、海斗が新しくマンションを借りた。大学の寮生活が嫌になったとかで。そこは一人暮らしをするには広すぎて、弟妹を呼んでくれた。その頃は両親は海外に行くことになるかもしれない、と話していたため私と勝実お兄ちゃんは喜んで海斗の申し出に飛びついた。ちなみに私が高校に入った年に両親は海外に行ってしまった。

 なのでここ数年は安定して学校に通えているし友達もできた。史歩ちゃんも、中学の時に仲良くなった親友だ。


「史歩ちゃん、どうしたの」

「別に。用事があって寄っただけ。それより身体大丈夫なの?」

 用事ってなんだろう、と思ったが聞かないでおいた。多分これは。

「心配してくれたの?」

 照れ隠しでは、と思ったけど史歩ちゃんに限ってそれは……なんて思ったら頭を軽くチョップされた。

「当たり前でしょ。歩けなくなったらとか、記憶なくしてたらとか、心配したんだから……」

 どうして彼女が事故のことを知ってるのか聞いてみると、一昨日私の家を訪ねて来た時勝実お兄ちゃんと会って聞いたらしい。貸してたノートをわざわざ届けに来てくれたみたいだ。

「ありがとう史歩ちゃん。お詫びに昼休みにジュースおごるよ」

「そんなのいいのに……。ま、ありがと」



 授業は滞りなく進みあっという間に昼休みになった。私はいつも自分で作った弁当だけど史歩ちゃんはいつも食堂でパンを買ってきて食べる。

「史歩ちゃん何がいい?」

「うーん、じゃあレモンティー」

「了解。じゃあ買ってくるね」

 そう言って私たちは別れた。自販機は食堂を出てすぐにあるので史歩ちゃんがパンを買ってる間に私がジュースを買ってくることにしたのだ。

 レモンティーと私の分のパックのコーヒー牛乳を買い史歩ちゃんのところに戻ろうとした時。突然後ろから名前を呼ばれた。

「あれ、食堂前で光賀さんに会うの珍しい」

 ももも、百井くん?

 振り返ると百井くんと栗生くりゅうつかさくんが立っていた。

「2つ買ってるってことは……もしかして光賀、パシリにされてんの?」

「ち、違うよ。友達の分」

 栗生くんは去年文化祭実行委員だった1人で百井くんの友達だ。だから少し話せる……けど彼はサッカー部なためあまり準備に参加しておらず、いまいち彼のことをわかってない。

「そうなんだ」

「あ、史歩ちゃん来た」

 史歩ちゃんが食堂から出てきたのが見えた。おーいと手を振るとあからさまに嫌な顔をされた。同時に栗生くんも嫌な顔をして。どうしたの、と思ったのが顔に出たのだろう。史歩ちゃんは手でごめん、とポーズを取るとそのまま行ってしまった。

「ごめん光賀さん。司と戸村さん仲悪いんだ」

「え、そうなの」

 百井くんがかがんで耳打ちしてくれた。へー、仲わるいんだ……って距離、距離!


 ぐうーぎゅるぎゅるぎゅるぎゅー


 ……へ?

 盛大なお腹の音が鳴り響いた。顔を見合わせる百井くんと栗生くん。そして同時にこちらを見て……きて……。

「わ、私じゃないよ」

 慌てて言うがそう思われても仕方がない気がした。だって、私の胸元くらいからそんなおっきな音がしたんだもの。

 ……胸元?

「光賀どんだけ腹減ってんだよ」

 栗生くんが笑い出し私の顔はどんどん赤くなってゆく。ちらりと百井くんの顔を伺うと苦笑いを浮かべていた。ああ、恥ずかしい、恥ずかしい!

「じゃ、じゃあね」

 遅い足を必死に動かしその場から全速力で逃げ出した。



 教室に戻り史歩ちゃんにジュースを渡すと、急いで第3棟のトイレに駆け込んだ。美術室や化学室など移動教室で使う教室ばかりがある第3棟は昼休みは人気が少ないからだ。

 個室に入りブラウスの下に入れていたロケットを出す。カチッと中を開け息を吸い込んだ。

「ロサ、聞こえてたら返事して。ロサの仕業でしょうさっきの!」

 確かに私はお昼まだ食べてなかったけどお腹そんなに空いてなかった。それにお腹の近くから音がするのはわかるけど胸元からした。それって、つまり……。

「……なによ、うるさいわねえ」

 ロサの声が聞こえた。やっぱりこれは通信できるんだ。

「答えてよロサ。さっきのお腹の音、あなたの仕業でしょ?」

 3秒ほどの沈黙が流れたあと、面倒くさそうな答えが返ってきた。

「そーよ。好きな人の前でお腹の音なんてなったら恥ずかしいでしょ?」

「そんな幼稚なのが恋の障害なの?」

 呆れたが怒りは冷めない。幼稚でも悪質だよ!

「というかロサ、ロケット開けたら通信できるんじゃない……教えてよ」

「本当はもっとからかってから教えるつもりだったのよ。まさか一発目であたしの仕業って気づくなんて」

「いや気付くよ……」

 もしかして、ずっとこんな感じで邪魔されるの?

 顔に出てたのかまた心を読まれたのか。帰ってきたロサの声は穏やかだった。欠伸を噛み殺した感じは抜けてないが。

「4月の試練は地味に行くことになったの。まだ百井遊馬くんについての情報もないからね」

 今はまだ4月の19日だ。今月中は大きな行動を起こさないようでホッとするも、あと10日近くはある。さっきのお腹の音みたいに恥ずかしいことになるのは嫌だ。

「今度からロケット開けたら通信できるようにするけど、あたしは100パーセントあんたの味方じゃないからね。それだけ覚えてなさい」

 なんだかお姉ちゃんみたいだ……なんて、女神相手に失礼かな。私はありがとうと言うと蓋を閉じた。

 ぐうう、と今度は本当にお腹がなる。早く教室に戻ってお昼食べよう。



 それから1週間、ロサと私の戦いが始まった。

 廊下で百井くんとすれ違う時にお腹の音やおならの音を出してくるから私は一人で教室移動をしないようにした。大勢に紛れたら気付かれにくくなることを祈って。結果、彼を見かけても挨拶出来なくなったけど恥をかくよりは断然ましだ。


 それにロケット以外からも攻撃を仕掛けてくる。ロサ曰く、人間に認知されるには手続きをして身体を支給してもらわなければいけないらしい。が、ロサ自身には許されない行為らしい。理由は教えてもらえなかったが女神にもいろいろあるのだろう。

 でも、認識されなくても音を立てたり物を少し動かすことはできるらしい。ポルターガイストか。

 だから、時々私の声マネをして百井くんの名前を呼んでからかっているようだ。そんなのピンポンダッシュじゃない、なんて怒ったがあくまで空耳程度と言われたら言い返せない。これはもう、意識してもらう手助けってポジティブに捉えるべきなのか……と思ってたらたまたまお互い一人で廊下で会った時に言われた。人を呼んではいなくなる遊びが流行ってるのか、って不思議そうに言う彼を見て申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



「もう……」

 家にいる時が一番ホッとする。今日は土曜日。休みだ。

「かーなえ。今日俺出かけるんだけど、宅配来るからその時は頼むな」

 珍しく遅めの起床の勝実お兄ちゃんが早くから起きてるな、と思ったら出かけるのか。私とは違うふんわりとした黒髪がいつもより整ってる。

「もしかしてデート?」

 なんてからかってみる。まさかね、なんて思ったんだけど――顔はみるみる赤くなっていってる。

「……海斗には絶対言うなよ」

 そう言い残して出て行ってしまった。

 まさか、海斗には昔彼女がいて勝実お兄ちゃんには現在彼女がいるとは……彼氏だったらどうしよう。

「言っとくけど、同性愛はあたし的には認めないからね。恋愛って所詮子孫作りなんでしょ」

 無意識のうちにロケットの蓋を開けていたようだ。ロサのその声には少し呆れが混じっているように思えた。

「異世界には、同性愛はないの?」

「あるわよ。でも、神の間ではないからねえ。そもそも神には生殖活動が必要ないのだから。自分の治める世界の住人が異性愛者でも同性愛者でも構わないけど、理解できないわね」

 そういえば、恋を感じることはできないって言っていたっけ。

「ロサ、私証明してみせるから。同性愛……は無理かもしれないけど、頑張って神に恋を伝えれるように頑張る」

 いらないものだとしても、ロサにも誰かを好きになる感情を知ってほしい。それが苦しいものでも。

 ロサは少し驚いたようだった。けれどもすぐにいつもの調子に戻る。

「……じゃあ週明けからまた別の仕掛けするからね」

「……もう!」

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