20:まるで炎
木、金と私は一切百井くんに近づけなかった。と言うのも、見かける度に笠倉さんと一緒にいて、笠倉さんがこちらに気づき睨んでくるからだ。さり気に私から百井くんの姿を見れないように移動までされたらどうにもできない。
一度勇気を出して近づこうとしたけれど、栗生くんに話しかけられて無理だった。私と彼の地歴の選択科目は同じ日本史Bなので資料集を貸してくれという話だった。どうして私が日本史選択だと知っているの、と尋ねたところ「笠倉から聞いた」とのこと。さ、差し金だ!
邪魔されている。転校当初よりもパワーアップしている。
結果何もできないままテスト前の土日を迎えた。今私は化学基礎の問題に取り組んでいた。
「うーん……」
「どうしたのよ、集中しなさいよ」
ロサが声をかけてくる。無意識のうちにロケットを開けるクセがついてしまっている。いかんいかんと閉めようとしたら「ちょっと、閉めないでよ」と怒られた。
「何悩んでるのよ」
「いや、この問題がね」
「化学基礎の話じゃないわよ」
ええ……いや、恋のほうも大事というか私の今後がかかってるわけだけれど、テストのほうも大事でしてねロサさん。半減期の問題分かりますロサさん。難しいんですよロサさん。
「堂々とアタックしなさいよ。なりふり構わずやんなさいよ」
「それが出来たら苦労しないよ……」
「あの子は出来てるのに?」
グサリと突き刺さる。確かに笠倉さんは積極的にアピールしているし、近づこうとする私を邪険に扱おうとしている。今の私には到底できない行動だ。
まるで炎のようだ。激しく燃えるその姿は近づくものを遠ざけ、熱く、熱く焦がれる。
いつか百井くんを取り込み燃え盛るのだろうか。灰になるまで燃え続けるのだろうか。私はそれに触れることを恐れ、ただ燃えて行く様を見ていることしかできないのだろうか……。
でもその行動に何か違和感を感じる自分がいた。
「笠倉さん、少しは私のこと好意的に思ってくれてる気がしてたんだけどなあ」
彼女は定期演劇会を見に来てくれる。たとえ百井くんと一緒にいたいからといって、私も関わるようなところへ行くだろうか。
私に百井くんとのラブラブ度をアピールするためなのかもしれない。だけれど、行っていいのだとわかった時に浮かべたあの明るい表情は、演技には見えなかった。
笠倉さんのことがよくわからない。
「大事なのはあんたがどうしたいか、でしょ」
ロサの一言にハッとする。そうだよね。今月の試練を乗り越えるには笠倉さんをどう攻略するか考える必要があるんだから。
「ありがとうロサ」
「……あと、もうそろそろ日付変わるわよ」
「え、うそほんとだ」
急いで半減期の問題に取り掛かる。難しかったけれどなんとか解き、解答冊子を読んでもう一度定着し直す。
けれども、笠倉さんの攻略方法は思いつけなかった。
何の対策もないままテストの日を迎えてしまった。史歩ちゃんと一緒に登校する。今日は1限目が英語表現で2限目が化学基礎だ。大きな欠伸を手で押さえながら門をくぐると横から声をかけられた。
「あ、おはよう光賀さん。戸村さん」
百井くんだった。……その隣には笠倉さんもいたけど。
「お、おはよう」
「おはよ」
「おはようございます」
史歩ちゃんと話しながらだったから近くにいたのに気づけなかった。そして一応手で押さえているも女子力を欠いた欠伸をしたところを見られたのが恥ずかしい。
隣を伺うと私につられたように笠倉さんも欠伸をした。それもとても可愛らしく。女子力の差を見せつけられた気がして落ち込む――なんて考えてたら目が合った。それはすぐ逸らされ百井くんの方へ向かう。
「あの、百井く――」
ダメだ。百井くんが離れてしまう。ダメ、言わないで――。
「転校生さん、あたし戸村って言うの。よろしくね」
「……へ?」
私と笠倉さんは口をぽかんと開けた。史歩ちゃんどうしたの。
「あのさ、あたしあなたと話してみたかったの。テスト前だけど教室行くまで、時間もらってもいいかな?」
そう言いながら史歩ちゃんは私の背中を軽く3回叩く。その意味に気付いた私は史歩ちゃんの顔を見た。史歩ちゃんは私のほうを見ていなかったが、背中に当てられたままの手が軽く握られたので確信を持った。
笠倉さんは一瞬顔をしかめたがすぐにいつもの笑顔に戻った。
「いいですよ」
「ありがと。じゃあ奏衣、百井またね」
史歩ちゃんが笠倉さんの手を取り先に下駄箱のほうへ行った。笠倉さんは一度こちらを振り返って、名残惜しそうにこちらを見てきた。
残された私たちはというと、とろとろ歩いて下駄箱のほうへ向かうことにした。テスト開始までは余裕があるし、お互い気分転換になったらということでだ。私にとっては緊張でしかないが、久しぶりに二人きりになれて思わず顔が緩んでしまう。
「結局化学基礎無理だったや。光賀さんはどう?」
「私は何とかいけそうかな」
「うわ、羨ましい」
そう言って百井くんは笑った。どうしてだろう、彼の笑顔が私にだけ向けられたということが嬉しくてたまらない。最近は他の誰か、主に笠倉さんに向けられていたから。
……あれ、何でだろう。嬉しかったはずなのに急にもやもやしてきた。
「百井くんって、笠倉さんのことどう思っているの?」
重くならないように、軽い調子で聞いてみる。認識操作されているはずだから、本人に聞いてもこれくらいなら怪しまれないことを祈る。
「笠倉さん? うーんそうだなあ」
百井くんは3秒くらい考えるそぶりをして、それからこちらを見て笑った。
「友達だよ」
ストックがここまでなので、続きはまたいつか




