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19:宣誓

 笠倉さんは徒歩で通える距離に住んでいるそうだ。

 電子辞書を貸してもらった時の態度を思い出し、恐る恐るどこに住んでいるのか尋ねると普通に答えてくれた。百井くんの前だからかもしれないけれど。ちなみに辞書は授業が終わってすぐ持って行った。でもいなかったので席を聞き机の上に置いてきたのだった。

 彼女は百井くんの家の方角とも私の家の方角とも違う、中間の方角に住んでいるそうだ。わかりやすく言えば十字路があったら私は右、百井くんは左、笠倉さんはまっすぐ、ということだ。


「笠倉さん部活どうだった?」

「はい、すごく楽しかったです! 絵なんてあまり描いたことがなかったから新鮮でした」

 道を3列で歩くわけにはいかないから自然と前2人、後ろ1人で歩いてたんだけどあれ、私ぼっちポジションにいる……?

「笠倉さん、美術部で決めるの……?」

 頑張って聞いてみたけど少し声が震えてしまった。彼女はうーんと考える身振りをしてから「もう少し考えてみます」とはにかんだ。後ろを歩いている私の方を見て。だけど百井くんにもその笑った顔が見える角度でもあって。

 どうやったらそんな計算高くなれるの……。教えてほしいくらいだよ。多分実行できないけど。


  「そういや来週からテストなんだよね。初日から化学基礎とか嫌だなあ」

 美術部とは関係ない私に気遣ってくれたのだろうか、百井くんが話題転換してくれた。勘違いかもしれないけれど、いやおそらく勘違いなんだろうけれど、嬉しかった。

「そうだね。私も化学基礎不安だよ」

 不安とか言いながら声は弾んでしまっている。どうか変だとは思われませんように。

「うんうん。英語は好きなんだけどな。あ、確か光賀さんは国語得意だったよね。俺国語系も苦手だから教えてほしいわ」

「……よく覚えてたね!」

「うん、なんか覚えてた」

 言ったことあったっけ、と頭をフル回転させたら文化祭の準備の時言った気がする。気がするだけで本当にその時言ったのかわからないけれど多分そうだろう。

「笠倉さんは?」

「……あっ、えっと、私は」

 まさか私から話が振られるなんて思ってもみなかったのか、笠倉さんは驚いていた。それから顔を少し赤らめ、テヘヘというように笑う。

「私も古典が苦手です……英語はまだ出来るんですけどね」

 てっきり英語が苦手だから百井くんに教えてほしい、と話を持っていくものだと思っていたから、今度は私が驚いた。


 どうにか3人で仲良く下校でき、いつも百井くんと別れる道まで来てしまった。

 百井くんはここで左に行き、私と笠倉さんはまっすぐ進む。まっすぐ行って3つ目くらいの分岐点で私は右に曲がり彼女はまっすぐ行くそうだ。ちなみにここから1つ目の分岐点で私は事故った。

「じゃあ2人とも気をつけてね」

「うん、ありがとう」

「ありがとうございました。また明日」


 百井くんの姿が見えなくなるまで私たちはその場で立っていた。それから笠倉さんはこちらを見て……顔をしかめた。

「なんで私に話振ってくれたんですか。振らなかったら2人だけで話せたでしょうに。私だったら、あなたに話を振りたくない」

 確かにそうだろう。私が話しかけなかったら、百井くんが話題を変えなかったらきっと笠倉さんはそうしただろう。

 でもそれは少し違う気がした。

「……だって3人で帰ってるんだよ。3人で話したいって思うのは間違ってるかな?」

「……っ」

 笠倉さんは一瞬目を見開いて、それから私から顔を背けずんずん歩き始めた。

「ま、待ってよ笠倉さん」

「……あなたは変です。だって、だってそんなの」

 そんなの、のあとに彼女は何か呟いた。けれども私まで届かず、何を言ったのかわからない。


 彼女の足はとても早く、走ってるわけでもないのになかなか追いつけない。

 ようやく追いついて、笠倉さん、と声をかけると彼女は急に立ち止まり私のほうへ振り返った。

「……光賀、奏衣!」

 腹の底から出したような大きな声で彼女は私の名前をキツイ口調で叫んだ。その顔は真っ赤で、何かをこらえているように見えた。だけど、それが何かわからない。

「私は……百井くんが好きなんです! だからもう彼にいい顔しないで! そうでないと私……あなたに何をするかわかりません!」




 思ってもみなかった行動に体が固まってしまった隙に、そう言い捨てた笠倉さんは走って行った。気がついたら彼女と別れる分岐点まで来ていて、これ以上追いかけるのはやめておこうと思った。

「……ロサ」

 中を開けないまま、私はロケットをギュッと握った。

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