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17:意外と知られてる

 勉強も1時間を過ぎた頃。少し休憩するか、と誰かが言ってジャンケンタイムになった。自販機のジュースの買い出しを決めるものだ。講義棟から自販機までは遠いからみんな負けないよう気合を入れている。

「おーし、いくぞ。じゃーんけーんほい」

 部長の音頭でみんな一斉にグーなりチョキなりパーなり出す。こんな大人数でやるから流石に一発で決まらない。何回あいこになるのだろうか……と思いながら出した2回目のパー。

 見事に私、花澄ちゃん、松本くんの3人だけが負けた。

「まじかよ……」

「メモ帳どこかな。流石にこの人数の暗記は無理……」

 松本くんは肩を落とし花澄ちゃんは鞄を探り始める。私はというと少し外に出て気分転換したかってから負けてよかった、なんて思っていた。


「いってきます」

 講義棟を出ると少しだけ寒い風が吹き抜けた。まだ6時過ぎとはいえ暗い。それでも先月よりは日は長くなっている。

 第3棟は静寂に包まれていた。テスト前休みだからだろう。明かりがついているのは2階にある美術室とその真上にある教室だけ。美術部と書道部だけが活動しているようだった。

「美術部、やってるねえ」

「ぶふぉっ」

 思わず吹き出してしまった。隣を見ると2人ともおかしそうに笑っている。

「奏衣ちゃんいきなりどうしたの」

「なな、何でもないよ。ただ、書道部も活動してるのに何で美術部だけ言ったのかなー、て」

「俺の友達に宮永みやながって奴が美術部にいるから言っただけ。それとも……」


 それとも? と思い彼を見ると私の顔は瞬時にゆでだこになった。

 も・も・い・あ・す・ま、と松本くんは声には出さず口だけ動かしたのだ。

「……ばれてた?」

「ばればれだよ」

「史歩ちゃんにしか、気づかれてないと思ってたのに……」

 前に史歩ちゃんに「見たらすぐわかる」と言われたけど本当にわかるのか、わかりやすいのか私!


 花澄ちゃんと松本くんはいつから知ってたのだろうか。顔を伺うと生暖かい目で私を見ていた。

「い、いつから知ってたの?」

「去年の冬くらいかなー。廊下で百井とすれ違った時なんか挨拶してたじゃん。そん時顔緩んでたから」

「確信を持ったのは4月の終わりだよねー。突然メールで遅れるってきてから1時間もあとに戻ってくるんだもん。あの時いじってた人、部長以外みんな気づいてるんじゃないかな、恋愛絡みってこと」

「うええ……」

 穴があったら入りたい。まじか、まじか。うつむいてしまった私に花澄ちゃんはどこか弾んだ声で話しかけてきた。

「奏衣ちゃん、こんど恋話しよ」

「いいけど……って、こいばな?」

 花澄ちゃんは松本くんのことが、と思ったけど今ここに松本くんいるからそんな堂々と言うわけないしそもそも2人付き合ってなかった。だめだ、思考が鈍くなってる。

「うん。というか演劇部の女子みんなでやろーよ。たまに先輩方話してるの聞こえるし」

「う、うん……」

 みんな、恋をしてるのかな。




 自販機に着くと思わずため息を漏らしてしまう。今から大量購入するのか。自販機は紙パック専用のを除けば2台あるので、私と松本くんがそれぞれの台で購入して花澄ちゃんにパスすることにした。

「えーっと、メモは……って、これみんな500mlペットボトル……」

 まあ1人4本持てばいいだけなんだけど、やっぱり多いなあと思う。

 メモを見ながら次々購入していく。ガコン、ガコンと落ちてくるペットボトルは冷たかった。

「花澄ちゃん、何買う?」

「私はピンクグレープフルーツの。荘太くんは?」

「俺はこっちの自販のレモン炭酸水」

 じゃあこの自販機で買うのはそのジュースと私用の緑茶だけか。そう思い小銭を入れボタンを押す。落ちてきた薄紫と近いとも言えるその色に、思わずため息をついた。


「……ねえ2人とも。4組の転校生、どう思う?」

「へ? 突然どうしたの……って、ああ」

「確かによく一緒にいるところ見るなー」

 具体的な言葉を省いた私の問いかけを2人はすぐに理解してくれた。

 認識操作がされていても、やはりよく一緒にいるというのは周知の事実なのか。

「うーん……。百井って女子の友達少ないからそういうの目立つだけで、特にあまーい雰囲気はなかったぞ?」

「そうそう。私去年同じクラスだったけど、女子と話してるところあんまり見たことないかも。美術部の子とは普通みたいだけど……」

 そう言いながら2人は顔を見合わせる。それから何かヒソヒソ相談を始めたけれど、何と言っているのかわからない。

「たぶん……大丈夫じゃないかな?」

「花澄ちゃん、その根拠はどこから……」

「内緒だよ。んなことより早く戻ろうぜ。みんな待ってる」

 手に持っていたペットボトルの冷たさが少し落ち着いていた。

 先を行く2人の背を見ながら、そうなのかなあとため息を零した。


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