13:薄紫の少女
結局その後飲食店に入る気力も本屋を探す気力もなく、あの男の人たちに遭う可能性もあったのでショッピングセンターを出て適当に歩いていた。しばらくしてから海斗から電話があり、駐車場に向かった。
ゴールデンウィーク最終日夜は課題に追われた。海斗のせいだ、と呟くも勝美お兄ちゃんに「早くやらなかった奏衣が悪い」と一蹴された。うん、わかってるよ……。
そして6日がやってきた。
はあ……なんとか課題終わったぞ。寝る直前に最後の伏兵・社説書き写しがあることに気づけてよかった。
「おはよー奏衣」
校門に入ってすぐ史歩ちゃんに声をかけられた。私と同じように目にクマができている。同志よ……!
「おはよう史歩ちゃん」
「シャーペン持ってきた?」
「もちろん」
鞄から筆箱を取り出しニッと笑って見せると史歩ちゃんも笑った。
「どうせなら胸ポケットにでも入れてたら。アピールにもなるし、使うことになるかもよ?」
「それはどうかなあ……」
思わず苦笑いを浮かべるも言われるままに入れてみる。別に目立つわけではない。
白いブレザーに白のシャツ、黒のネクタイ、黒のスカートもしくはスラックスという見事にモノトーンな制服。
アクセントにと、胸ポケットにカラフルなヘアピンやペンをつける人は多い。でも私は普段しないので少し違和感。
ビビッドピンクのシャーペンの出番は来るのかな、と軽く消しゴム部分を触ってみた。
「……さっそく出番きたよ」
昼休みのこと。中海先輩に呼び出され部室に行くと大量の定期演劇会のお知らせポスターが。地域の交流としてやるから、近くの商店街などにも貼ってもらうためこんなに多くあるのだ。でもそれを今渡すということは。
「ミツカナ、これ2年の階と下駄箱のとこの掲示板に貼ってきて。よろしく」
そこまではよかったのだけど……。
「先輩……開演時間と開場時間書くの忘れてるじゃん……」
いざ貼ろうと思った時に気づく。そして胸元から静かに主張するビビットピンク。
「書いとくか……」
一応ポスター貼り担当の中海先輩と1年の子にメール送っておこう。メール送信。
「さーて、じゃあ書いて貼りますか……」
「あれ、光賀さんだ」
「はい! ……って百井くん?」
振り返ると百井くんと……女の子が立っていた。
綺麗な人。身長は私よりも10センチくらい高く(私の身長が中学1年生女子の平均くらいしかないわけだが)、すらっとしてて綺麗な薄紫色の髪を、
彼女から見て右側で1本の三つ編みにしてまとめている。目もぱっちりしていて可愛らしく、どこからどう見ても正統派の美少女だ。
……あれ。なんかこの子とどこかで会ったような。なんというか……。
「2回目、の気分」
「ん、なんか言った?」
しまった声に出してた。
「えっと百井くん、そちらの方は」
「ああ、うちのクラスに転校してきた笠倉さん。笠倉さん、この人は光賀さん。面白い人だよ」
笠倉さんか。初めましてと会釈すると向こうも頭を下げてくれた。
「か、笠倉です。百井くん日直なので、校内案内してもらってます」
可愛い声。やっぱりどこかで……というか。
「もしかして、昨日の?」
「……はい」
うそ、すごい偶然!
思わず微笑むとぎこちなさそうに微笑み返してくれたがすぐに目線を下に落とされた。
「それで光賀さん何してるの?」
百井くんに言われようやく現実に帰ってきた心地がした。手に持っている紙とシャーペンの感覚が戻ってくる。
「演劇部のポスター貼ってたの。今月の22日に定期演劇会あるから」
「へー、そうなんだ。1回も行ったことないし行ってみようかな」
「え、ほんと?」
嬉しい。いつもは照明操作なのに今回は珍しく脇役Aとして舞台に出るから気合いが入る。
「そ、それ私も行っていいですか?」
笠倉さんがおそるおそる言う。もちろんいいよ、と笑うと彼女の表情もパアッと明るくなった。
「ありがとうございます。百井くん、一緒に行きましょうね!」
「え、あー。いいよ」
……一緒に?
「あ、そろそろ行かなきゃ校舎回りきれない。じゃあね光賀さん」
百井くんがそう言って手を振る。2人が去っていくのを私は反射で上がった手を機械のように振って見送るしかできなかった。




