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12:三流でも役者は役者

 ゴールデンウィーク最終日の今日。

 私はどちらかというと田舎のほうにあるショッピングセンターにひとり放置されていた。

 ……どうしてこうなった。



 ◇◆◇

 午前は部活だった。と言っても今日は衣装の確認と簡単な台本読みだけだったので昼前には終わり、家に帰ってきたのは1時半くらいだった。

 昨日の残りのハンバーグを温めようと電子レンジの前にいると今日も休日の海斗とエンカウント。そして昼ごはんを食べ終わるとすぐに外に連れ出され、着いた場所は花屋さんだった。



「海斗……私課題あるんですけど」

「いいじゃないか、2時間だけおにーちゃんに付き合ってくれよ」

「課題あるんですけど」

 海斗は聞いてくれない。あまり構ってあげなかったのが仇になったか……。

「なんでこの花屋さんなの」

 家の近くにはないが、駅の近くには花屋さんがある。それなのにわざわざ車で30分もかけてこの花屋さんに来たのには理由があるのだろうか。

「この花屋さんはアヤメが有名なんだ」

 確かにアヤメの花は多い。でもどうして?

「んじゃ、奏衣はしばらく近くにあるショッピングセンターまで送るから、そこで1時間ほど時間を潰しておきなさい」

「は?」

 なにそれどういうこと。

 しかしあっという間に海斗は会計を終え車は走り出した。奇行にもほどがあるよバカ兄……!


 ◇◆◇

 そうして今に至る。普段あまり来ない場所だからどんな店があるかもわからない。帰ってすぐに着替えてたから制服ではないけれど、着の身着のままになりかけたので財布と携帯だけはなんとか持ってきた。昨日遊びに行った時のままなので財布の中身は二千円ほどだ。

「本屋さんに行ってから飲食店で時間潰そうかな……」

 案内板を見ると、有名ファーストフードのチェーン店や有名コーヒー店のチェーン店があるようだ。本屋さんで何か本を買い、そこで時間を潰そう。


 そういや大学生らしき人たちとよくすれ違うな、と思いようやく気づく。

「ここ、海斗の通ってた大学の近くだ」

 今住んでるとこから通うには近いとは言い難い。けれども3人住むにはこの辺のワンルームマンションでは無理なので仕方がないのだろう。

「……ちょっとは感謝だな」

 多分本人に会ったら忘れちゃいそうだけど。


 ぶらぶらと歩き本屋さんを探す。意外と見つからないものだ。

「うーん……もう普通に飲食店に入ってゆっくりしたほうがいいかも」

 でもお昼普通に家で食べたし、そんなに食べれないから長居するのもなあ……。いや、本を読んで時間を潰すのも申し訳ない気がするけど……。


「……して!」


「……ん?」

 少し遠くから女の人の声が聞こえた。なんか揉めてるような雰囲気……。

 声の方へ足を走らせると、フードを深く被った少女がチャラそうな男の人2人に囲まれていた。

「やめてください……!」

「えー? 別に少しくらいいーじゃんかー」

 カツアゲ?

 ナンパ?

 初めて遭遇した。当事者でもないのに足が震える。助けを呼ぶべきか。

 ――いや、そんなんじゃダメだ。


「いっちゃん! ごめん遅くなっちゃった」

「……え?」

 男の人たちがポカンとし、女の子は不思議そうな声をだす。私は彼女の元へ駆け寄った。

 笑顔を崩すな。声を震わせるな。歩みを止めるな。

 大丈夫、大丈夫。私は演じられる。

「おにーさんたちごめんね、私彼女と用事があるの。それでは!」


 私は彼女の腕を掴み全速力で走る。運動神経は悪くないつもりだ。すごく速いわけではないが不意をついて走り逃げるのなら、たぶんいけるはず。

 男の人たちは呆気にとられたようだがすぐに諦めたようだった。このまま追いかけてくるなら女性下着売り場までダッシュだったが近くのトイレに逃げ込めたら大丈夫そうだ。

 女の子がヒールなのに私の急な走りについてきてくれたのも救いだった。


「ごめんね、急に走っちゃって……。あの、確認だけどさっきの人たち知り合いとかじゃないよね……?」

 お互いの呼吸が整った頃、私から彼女に声をかけた。

「えっと……はい、違います。知らない、人たちです」

 深く被ったフードは走ったのに何も乱れておらず、うつむきがちな彼女の顔は見えなかった。

「あの……ありがとうございました!」

 そう言うと彼女は……あっという間に私の前から走り去る。

「……そりゃ、急に知らない女の子に腕掴まれて走り出されるのも怖いよね……」

 良かれと思ってしたことだけど。もう少し別の方法があったのだろうか。


「あんたにしてはやるじゃない。とっさに設定作って助けるだなんて」

 走った時に開いてしまったロケットからロサの声が聞こえる。

「あはは……でもあの子、怖がらせちゃったみたいだからダメだよ」

「でも、そういうところは異世界でメイン張っていくには必要よ」

「転移しないってば!」

 そういう視点で褒められても嬉しくないよ。そう言いながら私はロケットを閉じた。



「……怖がっては、いないと思うのだけれど」

 閉じる寸前にそんな声が聞こえた気がしたが、館内放送がそれを遮った。

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