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10:演劇部と不安

 ゴールデンウィーク2日目は丸一日部活。ちなみに明日もだ。

 先輩方は合宿という形にしたかったらしいけど学校に寝泊まりする許可は貰えなかった。夏休みこそは、と意気込んでるけど先輩、受験勉強してください。


 演劇部の引退は10月末にある文化祭だ。2年生が主体となっての初めての講演はそのすぐあとにある県大会。この大会で優勝すれば来年の夏にある全国大会に出場できるのだ。でも私たちの高校は無理だろう。何と言っても10年連続出場、去年の全国大会で準優勝だった高校がうちの県にいるから。

 県大会でせめて何か賞をとる。これが私たち2年のなかでの目標だ。


 夏休みも講演がある。今月のテストが終わったらすぐある定期演劇会が終われば夏休みの講演の準備と、秋の大きな2つの講演の準備に入る。割とハードなスケジュールだ。

 ……って今は今月の定期演劇会に集中しないと。



 役者の役割をもう一度確認する。

 今回主役を演じる部長の大原おおはら慶信よしのぶ先輩。周りがよく見えている人で、人を動かすのが的確だ。いつもは出番の少ない役や裏方で周囲の状況を常に見ている……けれども演技がむちゃくちゃ上手い。

 次は主人公の後輩に当たるヒロインを演じる副部長の手島てしま李津りつ先輩。ベリーショートで身長もあるため男役として出ることもある――けど、やたら女子に受けまくったのが嫌だったらしく、最近は女性役しかしない。ちょっともったいないと思う。

 主人公の友人役を吉田よしだまとこ先輩が、ヒロインの友人を小峠ことうげ美代みよ先輩が演じる。あとの脇役は2人で、Aが私、Bを1年生の津田つだ葉留佳はるかちゃんが演じる。それから……。

「ミツカナ、そろそろ台本読みするわよ」

 私のことをミツカナ呼びする中海なかうみ芹香せりか先輩。今回は主人公の上司的ポジションの役である、美少女生徒会長を演じることになってる……男性だ。


 私と中海先輩の付き合いは長い。中学の時私と中海先輩は他校だったがお互い吹奏楽部に入っていて、合同演奏会で初めて出会った。その時私は中1、先輩は中3。楽器は違えどもよくしてもらった。

 当時は髪が少し長い程度の普通の美男子だったが、高校で再開した時はしんそこ驚いた。劇的ビフォーアフターにもほどがある。

 中海先輩は髪を胸元くらいまで伸ばし、口調も女らしくなっていた。オカマになったのかと焦ったけどそんなこともなく。きっかけはある舞台に出ていた女優さんらしいが詳しいことは聞いてない。

 彼女は……じゃなくて彼は、完全に演劇に目覚めていた。実際に海外の劇団に弟子入りのようなものをし、去年の3年生の夏に海外を飛び回って学んでいた。

 しかし、うちの高校は家計の関係以外でのバイト、副業は基本禁止。学校に黙って弟子入りしてたため校長の怒りが落ち留年することに。今年2回目の高校3年生として学校に残っている。

 1人で濃いんだよキャラが、なんて思わず呟いた部長に笑顔でこめかみをグリグリしてたから誰ももう何も言わないが。



 台本読みが始まる。今回舞台裏の人もいつ音を入れるか、いつ道具を持ってくるかの確認をするため全員で丸く座って行う。

『先輩、お願いします!』

『そう言われてもな……聞いてみないとわかんねえよ』

 さすが副部長と部長。私は動きながらでないとうまく役としての声が出ないから頑張らないと、といつも思う。

『いいんじゃないかしら』

 ゾッとするような美しい響き。中海先輩の声は中性的と分類されるが、さっきのは艶やかな少女を想像させた。

「……ミツカナ、次あんたのセリフよ」

「え、あ。すみません!」

 いけない。つい聞き惚れてしまった。私は今は脇役A。集中しなくちゃ。

『会長が言うなら……そうすべきですね』



 そろそろ昼休憩にしようと部長が言った。昼休憩はいつも1時間ほどとっているので校外にある店に買いに行くことも食べに行くこともできる。今日はお弁当を作る気になれなかったので昼食を持ってきておらず、2年生3人でコンビニまで行くことにした。

 1年生と3年生に何か買ってきて欲しいものがあるか聞き、財布を持って学校を出る。どの部活もお昼の時間のようで、先ほどまでの運動部の熱気はなかった。


「部員、もう少し欲しいかもなあ」

 唐突に松本くんが呟いた。1年生は4人も入ってくれたのに、と思ったけれどもすぐに彼の言いたいことに気づく。

「2年生、3人じゃ少し心細いもんね……」

 正直私たちがしっかりした先輩になれる自信はない。それほどまでに部長や副部長、そして演劇のために留年した中海先輩に頼りきったところがある。私たちは3人ともグイグイ引っ張るタイプではない。

 それに県大会。去年と同じ7人で演ることになってるとは言え、先輩方とのレベルの差は段違いだ。恥ずかしい結果にはしたくない。

「せめてあと2人欲しいかなあ。三人寄れば文殊の知恵……なんて言うけど、私たち3人で1人分って感じだもんね」

 花澄ちゃんの言葉に頷くしかできなかった。

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