⑨
アルフェードさんたちの仲間入りをした翌日、ヴェルゼピナさんの治療のお陰ですっかり元気になったわたしは、ファングさんに艦を案内してもらうことにした。
何日もベッドに横になっていたおかげで、立ち上がるだけでも凄く身体が重く感じる。
でも、今は身体を動かしていないと怖いことをたくさん考えてしまって、だめだった。
たぶん、考えることができないくらいいそがしい方が、いい。
「慌てなくて良いですよ、折角調子が良くなってきたのですからまた怪我でもされたら困ります」
ファングさんて、淡々としていてちょっぴり冷たい感じがするけど、優しいひとっぽい。
わたしはヴェルゼピナさんが用意してくれた上下長袖長ズボンに着替えて(サイズが大きいから裾を折って着ているんだけど、それでもおっきい!)護身用にもらった短剣を腰布に引っ掛けて脇に挿した格好だ。
ファングさんはわたしの服装を見るなり、複雑そうな顔をしていう。
「服のサイズが合いませんね。アルフェード様にお願いして、次の寄港地で新調しましょう」
「ありがとうございます」
わたしは幾重にも裾を折った腕を眺める。うん。やっぱりとても大きい。ぶかぶかで大変動きにくいので、そう言ってもらえると助かるなぁ。
そんなことを思いながら、わたしはファングさんの案内で艦中をみて回ることになった。
部屋を出て、薄暗い廊下にでた。私はファングさんの後をついていく。歩く速さをわたしに合わせてくれているみたい。
廊下には所々小さなオレンジ色の光る石が置かれていた。
一定の間隔で小さな丸い窓が空いていて、青い空と、真っ白な雲が見える。
艦の底からは、小さくゴウン、ゴウン、お腹にと響くような音がした。
……窓から空だけが見えるって、なんか変じゃない?もしかして、この艦て、浮いてるの?
ずっと部屋にこもって寝ていたから気付いてなかったけれど、小さな揺れと機械が動いているような変な音は続いていた。
わたしは気になって近くにあった丸い窓を背伸びしてのぞいてみる。
あたり一面には青い空と、真っ白な雲。
「うそ……」
空を飛ぶ艦なんて、聞いたことがない。
わたしは混乱した頭で、恐る恐るファングさんに質問する。
「この艦、空を飛んでいるんですか?」
すると、彼は気付いていなかったのか、という様子で話し始める。
「この艦は、飛行挺といいます。飛石を動力としています」
わたしはファングさんに、よくわからんと言った表情を投げ掛ける。ヒコウテイ?ヒセキ?何だろう。
ファングさんはそんなわたしの顔を見ると、微妙な顔を向け、はぁ。と大きくため息をつく。
「あなたには、もしかしたらこの世界のことも、一から説明しなければならないんでしょうかねぇ」
と、遠い目をして言った。
うぅ、なんだすみません。とりあえずわたしは
「よろしくお願いします」
とだけしおらしく言った。
〇〇〇
ファングさんの説明をまとめると、
この世界には、生命エネルギーを特別な力に変える『魔力』っていうものを持っている人がいて、使うことのできる力は人によって異なるらしい。
大体の人は、例えば水を操って雨を降らせたり、強い風を止めたりっていう身近にある自然の力を操作することができる。でも、魔力を持っていても、複数の力を使うことができる人はほとんどいないんだって。
いろんな力を使おうとすると、力に負けて、頭がおかしくなっちゃうみたい。
そもそも『魔力』っていうものが使える人もそんなに多くなくて、勉強しても使える人と全く使えない人がいる。努力の力だけじゃ、どうにもならないってことだね。
それで、力がない人でも一時的に使うことができるようになったり、誰でも同じことができる様に開発されたのが『飛石』なんだって。
『飛石』っていうのは、それを使えばだれでも風を操って空を飛ぶことができるようになるアイテムのこと。
飛石のもとは、まっさらで、何の力も加わっていない『魔原石』っていうものに、風を使って空を飛ぶ力を入れたものってこと。
「我々が自身の魔力を使うことなくこの艦を空に浮かべることができるのは、魔力を注いだ飛石を利用しているから、ということになります」
わたしは、分かったようなわかっていないような感じでうん、と頷く。
ファングさんはやれやれ、といった感じでわたしの頭にポンと手をのせ、
「よく解らないことを解った、とは言わない方がいいですよ。繰り返し何度も見聞きしていきながら理解すればいいのです。大事なのは、解らないまま放って置かないことです」
といった。
うん、やっぱりまだよくわかんないからまた教えてもらおう。
「いろんなこと、すぐには覚えられないかもしれないけれど、がんばります。また教えてください」
わたしはぺこりと彼に頭を下げた。
ファングさんはそんなわたしをクスリと笑って
「素直でよろしいですね」
と言った。
読んでくださってありがとうございます。
大変うれしく思います(*^▽^*)