⑥
わたしの脳内ではイケメン+美女の妄想が、止まりません。
でも、おばあさんは……美魔女のイメージではないかなぁ。
そのあと、おばあさんがアルと呼ばれる男の人と、ぶつくさ言い合いながら優しい手つきでわたしの上体を起こすと、温かい薬草茶を渡してくれた。漸く自分の全身を確認できる姿勢になると、いつの間にか真っ白い服に着替えていて、膝や腕には包帯が巻いてあった。
「身体が温まるから、まずはこれを飲みなさい。熱いから気を付けるんだよ」
「ありがとう」
ふー、ふー、と息を吹き掛けて冷ましながらゆっくりと口に含むと、お腹の中からじんわりと優しさが広がった。お薬は美味しくないけど、この薬草茶は苦味が少なくてとても飲みやすい。
わたしがひと心地つくのを三人は待ってくれた。
お茶が空になったところで、アルと呼ばれた人は話始めた。
「俺はアルフェード。この飛行挺の艦長をしている。この口うるさいババアはヴェルゼピナ。そんで、扉のところに突っ立ってんのはファング。あいつは嬢ちゃんを艦に連れてくるときについてったヤツな」
合いの手でおばあさんが「誰がババアだ、誰が!」と怒りを露にしている。
わたしを連れてくるときに……って言うことは、あのときわたしを抱えてくてたひと?
わたしは視線をファングさんに向けると、彼は自分の胸に手を当てて恭しくお辞儀をした。
「あのときは乱暴な真似をしてしまってすみません。ですが、こちらも急いでいたもので」
少年から青年に変わる前の、少しトーンが高い声。あのときはフードを被っていたから分からなかったけど、金色のさらさらした髪に、薄紫の瞳がとてもきれいだと思った。肌の色は白く、童話に出てくる王子さまみたい。
目が覚めてすぐは、まだ、夢と現実の間をふわふわしている気分だった。あの夜が嘘みたいに。
「あ、あの……」
じわり、じわりとあの夜を思い出していく。目が、皮膚が、耳が、全身で訴える。あれは本当にあったんだと。悪魔が来た、呪いの夜を。身体が小刻みに震えだす。
言葉を発しようとして、いいよどんでしまうわたしの肩を大きな手のひらでアルさんは優しく包んだ。
まっすぐできれいな青い瞳と目があった
「嬢ちゃん、辛いことは思い出さなくていい。お前さんが、話ができるようになったら少しずつ、教えてくれ。ただな……」
そう彼は言うと、顎に手をあてて、少し考えるような仕草をしてから
「いつまでも、アレだ。「嬢ちゃん」じゃあ、レディに対して失礼だろう?だから、よかったら名前を教えてくれないか?」
とろけるような優しい笑みに心臓がとくん、と鳴った気がした。
わたしは唾をこくん、と飲み込む。
「……ら」
「ん?」
小さい声で聞き取れなかったみたい。もう一度、大きな声で。
「ソラって言います」
そう言うと、アルさんはわたしを抱き抱えて頭をガシガシ乱暴に撫でながら、
「そうか、嬢ちゃんはソラって言うのか、いい名前じゃねぇか」
豪快に笑うのだった。
「何が『レディに対して失礼』だ、お前は女なら見境ないのかね!?その手をお離し!」
すかさずおばあさん……ヴェルゼピナさんは、アルさんの頭をデスクの上に乱雑に積まれていた本でぶっ叩いた。
また二人の言いあいが始まった。部屋の扉に立ったままのファングさんは呆れたようすで、でも面倒だから放っておくという感じで、二人のやり取りを放っておくのだった。
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