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命短し歩けや愚者よ


「うーん」

俺は悩んでいた。非常に悩んでいた。

「この先を真っ直ぐなので悩むことはないのでは?」

「ああ、いや、そうじゃないんだ」

たしかに森を抜けて街道沿いに歩いて行くだけで街に着く。それはいい、そこはいいんだが…

「ねぇ、ジェシカさんもしも身体を特定の機能に特化させるとすればどうする?」

「え?そうですね…とりあえず魔法でしょうね、私の研究室の教授は土属性魔法を使った近接魔法師の究極系として常に肉体の構造を変化させながら戦うという構想を持ってましたし、現に私も腕を金属に置換したりしてますから…あとはやっぱり訓練ですかね?」

…いや、そうじゃないな、もしも俺が思っているような事が騎士団長に起きていたのだとすれば…

「突然変異、意図して特化したのではなく。偶然ああなった?」

「何がです?というか本当に何を考えているんですか?」

生物科学、特に進化生物学において進化とは遺伝子中の中立的な変異、つまり毒にも薬にもならない様な変化が蓄積した結果であり、それは自然選択によって選ばれている。この場合自然選択とは環境との適応を向上させるための物だ。そして騎士団長は自らの魔力と雷の様な動きという環境にどうにかして自分の肉体を順応させた。

たしかに彼女のいう様に訓練や一過性の魔法による肉体の適応化は馬鹿にならないし、訓練の方は体質すら変える可能性もある。だが、それらは普通に考えてあんな物ではない、加えて動物と違い人間は魔力によって変異が起きない、格闘技漫画の様に訓練すれば訓練するだけ人間は進化したりしないし普通に考えて魔力を浴びたり魔力によって強化するだけで肉体を根本から支える全てが急激に変革したりしないのだ。

ならばどうやったのか、今でも鮮明に思い描けるストームウルフ、あの狼の身体を思い浮かべる。

奴は魔獣になる事であの肉体を手に入れたわけではない、その証拠に奴らには魔石がなかった。動物としてあのまま魔力にさらされていれば取り込んだ魔力が閾値を超えて体内の魔力炉が結晶化し仮想臓器から実態を持つ臓器へと変貌したはずだがあれはまだそんな状態にはなっていたなかった。だが、奴の体は既にアース様の自分が感電しない仕組みや電撃によって肉体が焼けない様に保護するゴム状皮膜、臓器の位置や筋肉のつき方が明らかに変わっていた。魔力による一過性のものではない、明らかに死後も残る形で肉体の機能、器官が変化していた。

…そう、前言に反するが奴らは確実に進化していた。そして恐らくその進化は騎士団長か可能性は低いがあの龍の持つ魔力の性質に由来するだろう。なぜかって?それは…騎士団長は電気を纏っていたが電気を直接飛ばしてくる様なことはなかったからだ。結局彼の電気の限界は剣先に収束する事で多少リーチが伸びるか伸びないか位だ。あの時ビームのようだと感じたがよく良く考えると背後に向かっていった雷を見ていないし、破壊音もなかった。アレは雷光を纏った突きが高速で迫ってきた残像がそう見えただけなのだ。恐らく属性魔力は龍のもの、故に奴らは雷を纏いソレそのものになっていた。

「ま、そうは言っても観察とそこからの推測でしかない…か」

だが、他にも考えるべきことはある。あの龍だ。竜騎士はメイルリーンと言っていた。そうなるとやはり…

「きゃああああ!!」

思考を裂く悲鳴、突然に聞こえてきたソレは明らかに女性、しかも年端もいかない子供特有の甲高い物だ。俺は一気に戦闘態勢に移行した。



強化された目が街からまだ少し遠い場所で横転する馬車を確認、ジェシカさんは何も言わずに土属性魔法の高速移動を開始、俺も自分に掛かる力を操作して吹き飛ぶ。

空中で体勢を整えながら状況を確認する。敵は人間、確実に訓練されているがソレらしい制服は無くあくまでも強盗らしい欲に塗れたきくに耐えない会話が聞こえる。それに対して馬車を守ろうとする側は奇襲によって完全に瓦解、冒険者風の死体がいくつかと重傷者が2名、無事な剣士と魔法使い、重傷者の片方はエルフ、騎士は人間だろう。悲鳴を上げた少女は騎士に縋り付いている。

「人数は六人、茂みに援軍の可能性あり、かな?」

「さらにいえば全員魔法使いですね、魔力の残滓があります。」

…やはり彼女には敵わない、吹き飛んだ事で彼女を追い越した筈だが二度目の跳躍を開始する瞬間に追いつかれた様だ。

「グラジオ様は盗賊を、私は手持ちの薬草で手当てをします。」

「わかった。じゃ、少し派手に行こう!」

俺はポケットから乱暴に取り出した石ころを魔術で強化、馬車の左右にある茂みに投擲しながら青い顔をしたエルフの女性に下品な笑みを浮かべながら近く男の前に着地した。

「っ!」

「すまないね、俺は躊躇したり出来ない質なんだ」

驚きはあれどその動揺を最小限にして武技を繰り出そうとした男にピッタリと押しつけた手から落下の衝撃と加速を全て放出する。

「ぶ…」

上半身の防具が吹き飛び男も勢い良く上に打ち上げられたのを確認、茂みが爆発するのと同時に指で石を弾き近くにいた三人の盗賊の剣を砕く。勿論、石の勢いだけじゃ砕けない、石に込められた魔力が弾ける勢いで折れたのだ。

だが、主武装の長剣が無くなったのを冷静に確認した相手は短剣や魔法触媒での武器錬成を行い再始動、ヘイトは完全に俺に向いた様で矢と魔法が雨霰と降り注ぐ。

「ぜあっ!」

あまりにも綺麗に音を消して先行してきたのは短剣使い、振り抜かれた短剣の初撃を避けるが続け様の蹴りで障壁に密着されブーツの先から出たナイフで腕を浅く斬られる。

視界が少し歪む。毒、幻覚剤の類だろうか?どちらにしても耐性のない毒物に一瞬目眩を覚えるが、受けたエネルギーを制御し反転、突然足に受けた衝撃に体軸がズレたのを確認する事なくタックルする様に踏み込んで密着、からのエネルギーロス0の順手突き!

「ぶ…っ!?」

一瞬浮き上がってくの字になった相手は膝から崩れ落ちる。次は錬成武器使い、見えている範囲のもう一人は冒険者風の剣士くんが足止めしている。

「危ない!」

恐らく剣士くんと一緒にいた魔法使いの声だろう。が、すでに遅い後ろから魔力反応が多数発生、瞬時に俺の視界は断続的な爆炎で埋め尽くされる。が…

「中級下位魔術、オーソドックスな爆炎ね?」

魔力障壁の前では無力、物理攻撃にはそこまで強くない障壁だがその本質は魔力による現象遮断、つまりは魔法防御である。発生したエネルギーを集約し魔法に乗じて接近してきた敵にテキトーにぶつける。

「ガッ!アッアアアア!?」

「ッ!撤退だ!引くぞ!」

あくまで純粋なエネルギー、熱や衝撃が無色透明なまま敵を焼き飛ばす。視界の歪みはまだまだあるが魔術を使ってきた連中が撤退を開始したようで各々身体強化を発動し散り散りに逃げていく。追撃はした方がいいんだろうが…遠距離攻撃手段が投石くらいしかないし、今から追いかけても身体強化と魔力循環を重複させた魔法使いに追いつくのは難しい、とりあえずこんな物だろう。どうにかこうにか相手を刺し殺した剣士くんが膝から崩れるが俺に薬師としてのスキルはほぼないし、治癒も自分のしか出来ない、自衛の為生き残るために応急手当てくらいは出来るがジェシカさんの邪魔をしても仕方がないだろう。殴る以外の能がほぼ無いのを実感しつつも息のある奴らをまとめて縛り上げるために息絶えた馬や死体から布やら紐やらの装身具を外して使うことにする。




〜〜剣士くん〜〜



「すげぇ…」

一挙手一投足で簡単に盗賊モドキが吹き飛んでいく。そしてそれが撒き散らす石の礫は面白い様に相手の武器や手足を粉砕していく。それはまさに流星だった。

そしてそれに選ばれた俺たちはこの上なく幸運だった様だ。



ことの始まりは俺たち駆け出し冒険者の鬼門、護衛依頼を受けたことにあるだろう。幸い俺たちの村からそう遠く無い街への護衛だ。楽な仕事のはずだった。それにケチがつき始めたのは依頼人の護衛である騎士の高圧的な態度や、あきらかにこの村にそぐわない高貴さとやらを振りまく依頼人…普通俺たち駆け出しの護衛なんて上のランクの冒険者が一人二人ついた上でケチな商人をえっちらおっちらゴブリンやらから守ることだ。まかり間違っても貴族様の護衛なんてのは入らない、ギルドはこの件に関して調査をしてくれるとは言ったが形式上書類を受領した段階で破棄すると金が必要になる。

護衛依頼は信用と時間のかかる商売だ。今までの様な討伐や採取と違い銀貨が何枚飛ぶかもわからない違約金は払えなかった。


「ッグ…」

「アルス!」

ま、色々ありながら出発すればこのザマだ。大方この令嬢は生贄、俺たちはその添え物が良いとこだろう。町と村の中間であの妙に高圧的な騎士が指笛を鳴らしたとたんに矢と魔法が馬車と馬を破壊、明らかに統率のとれた盗賊モドキが現れ戦闘になった。

奴らは圧倒的だった。そりゃあそうだろう。一応稽古をつけてもらってはいるが明らかに統制が取れた兵士、しかも一人一人が普通以上の技量を持っていれば当たり前だ。茂みからも気配を感じるしコレはもうダメかなと諦めたその時にそれは落ちてきた。


「じゃ、少し派手に行こうか?」


そう言って動き出したその子供を止められる奴はいなかった。見てるこっちは目の前の敵でていっぱいだって言うのに息をする様に先手を打って相手を撃滅する。見た目は子供だがそこには俺が目指すべき冒険者らしさが詰まっていた。



〜〜〜〜



「ジェシカさん、どんな感じ?」

周囲の音や魔力の動きに気を払いつつも俺とは違う意味で、もしくはより生産的な戦いをしていた彼女に声をかける。勿論、どうとは聞いたが処置は終わっているし、呼吸音も落ち着いている。

「ええ、一先ずは乗り切りました。問題は…」

「治癒術師がいないことかな」

「正確に言えば今治癒術をつける状態にないということですね、おまけに重傷者なので動かすのも危険です」

少女が安心した表情をして倒れているが残念ながら騎士も治癒術師っぽい冒険者も魔力が異常に少ない状態で怪我を負っている。

「はぁ…ま、もう何日か足止めされても変わらんか?」

「いえ、早急に車輪を治して運んでしまった方がいいでしょう。此処にいても事態は良くならないでしょう」

なるほどね、とりあえず俺は馬車の破損部を見て軸が壊れていないのを確認してから車輪の修復に取り掛かる。そう時間はかからないだろうし、まだ日も高い今日のうちに街へ入れるだろう。

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