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技術、力、速さ、巧みさ、気品、優雅さ、省エネさ、そして何より〜…っ!時間が足りないっ!!


緑の微風とでも言うべきか、気持ちの良い光と風のなか俺は目を覚ました。焚いていた火は何とか燃えている。傷は…やはりまだ塞がっていない、だが薬草と布、そして彼女の魔法によってとりあえずの処置を施されている。

動くと痛むがそろそろ動かないと森に飲まれる頃合いだろう。俺は自分の上にまで這ってきたツタの様にも草の様にも見える菌糸を剥がし、空を舞う胞子が風によって運ばれていくのを眺めながら伸びをした。

朝である。



ジェシカさんの上に載っていた菌糸を退け、俺たちの生存圏であるこの円形の空間内を焚き火から火を移した棒で炙る。昨日は出来なかったがここら辺の地面を貫手で掘り返し根っこの様に見える菌糸をできるだけ取り除いて踏み固める。

「もう何日かいるんだったら屋根もいるかなぁ…」

独り言を言いながら下草と根を取り除いた空間を作り出していく。こう言う時に異世界的な何でもあり魔法を使いたくなるが、この世界では農耕や整地に魔法を使うのが難しい、障害物や岩盤を吹っ飛ばすなら楽なのだが地面を掘り返す魔法はイメージがし辛いのと土に対してどの様な動きが加えられるのかが正確に把握出来無いのだ。だが魔石を動力に金属板が回転する工具や土木作業器具、農耕機的なものはある。理由は簡単、極めて単純だからだ。

草刈りをしつつ朝食になりそうな物を集め日に枯れ木を足す。パチパチと爆ぜるが可愛い物だ。


魔法は単純な方が良い、魔法は自分にかける方が効率が良い、魔法は詳細なイメージがあった方が良い、この世界の魔法の基礎はこうである。ジェシカさんは『現象を扱える一部はそうじゃ無いですけどね』とよく言っていたが…まぁ、それはそのうち聞けるだろう。とりあえずイモムシの香草焼きベリーソースを添えてを仕上げつつ彼女を起こした。

さぁ、地獄の始まりだ。




俺は四つ這いで身体中の水分という水分が抜けて行っているんじゃ無いかと思うくらい汗をかいていた。いや、かいていたじゃない、かいている。かきまくっている。

「グラジオラス様〜もうちょっとですよ?」

「な…にが……だ!」

まずジェシカさんが着手したのは俺の魔力路と魔力炉のアンバランスさ、勿論普通は魔力炉は変わらないし、変わるとしたら変形して使い物にならないか破裂してそのまま死ぬか位である。ある意味魔力炉の頑丈さと言うのは俺の才能かもしれない…でだ、魔力炉は鍛えられないが魔力路は鍛えられる。それは最大放出量だったり、一度に流れる魔力量だったりするが今の俺はと言うと…超淀んでいる。あり得ないほどに淀んでいる。理由は簡単で魔力炉が強化され魔石からの魔力供給もあるのに放出量も動かせる魔力量もなにも変わっていないからだ。とりあえずこれがキチンとしたバランスに戻るか操作技術そのものが大幅に向上するかしなければ普通は魔法など使えるはずも無い、その筈なのだが…

「相変わらず無茶苦茶な幸運ですがグラジオ様の魔力性質は力の制御に特化しています。無意識にそれが使われていたせいでそんな状態でも魔法が使えたのです。」

「ッグ……それは…結構な、ことだっ!」

まぁそんなこんなで今俺は魔力放出量を強化する為死ぬ気で魔力を動かし放出している。魔力障壁の内側の濃度が凄いことになっているが今度は逆にこの押し出した魔力を体に納めて循環させる。こうする事で放出量と同時に使える魔力量を増やしていくと言う寸法なのだが…


まず、俺の放出力がそもそも低すぎる為放り出すのにそもそも凄まじい精神力がいる。そして放り出した魔力が大気に巻き込まれないように意識し続けるのも辛い、何より一度ほぼ制御を振り切って放出した魔力をもう一度制御下に戻して魔力路に押し込むと言うのが神経をすり減らすような苦行なのだ。

喩えるならジャグリングだろう。天高く飛ばしたボール球は重力によって引き戻される以外の様々な要因で動き回るがそれを予測して他の物をジャグリングしながらそれをながれに組み込まなければならない、問題は失敗すると激しい苦痛とともに失神すると言うこと投げる腕に相当する魔力路がボロボロなことぐらいだ。ま、骨折した腕でジャグリングをする程度の苦痛とでも思ってくれ(涙)


これを常時する事で魔力の放出力と魔力路の強化をする。以前言ったが魔力の保持力と放出力はトレードオフ、どちらかを鍛えれば片方は衰える。だが俺の場合このアホみたいな魔力量と魔力障壁内ならばある程度魔力を保持できるという特異な性質上完全なトレードオフではない、だがいい事ばかりではない、実際俺が放出力を鍛えようとすれば保持力が異常なまでに抵抗してくるのだ。

「っぐぅう!?」

身を裂かれるような痛み、と言えば陳腐かもしれないが実際何度も引き裂かれている俺からすると冗談ではすまない痛みだ。




〜〜ジェシカ〜〜



珠のような汗を流しながら魔力を放出する彼を見ながら私は改めて自らの魔力を確認していた。

「…」

軍属、竜騎士の言葉、様々な情報が私を取り巻くが一つ確かなことがある。

私はどこかで記憶を失くしているようだ。


そう思うのにはいくつか理由がある。まず一つ、私の記憶は過不足なく20と数年分ある。これは間違いのだがその中で私が軍に勤めていたという記憶が一切ないのだ。あのいけすかない、私のグラジオラス様に色目を使うギルド長が恐れを抱いていたので利用したが実際は首を傾げていた。

そして二つ、先に言ったことと矛盾するが私が軍に務めていたという記憶はないが竜騎士に殺されかけたときにまるで走馬灯のように駆け巡った私の記憶の中にまるで別人の記憶が存在していたという事、それによって今まで金属や石、土よくて水や空気にしか効かなかった結合が肉体に作用できるようになり、もう一つ不可解なことができるようになった。それに対して自分自身に疑問が湧かないどころか何か不足しているとさえ感じるのだ。

「理論上は出来るはず、だったんですけどね…」

「……っ!?」

考えに耽っているといつのまにかグラジオ様が倒れていた。魔力切れだろう。放出と同時にその魔力を取り込む訓練もしているので回復も徐々に早まっている。

『ヒッヒッヒ、アンタ、ほんとにバカだネェ…いや、バカ正直なだけかしら?』

「…はぁ、くたばれクソが」

彼に訓練をするがそれは私の認識する限り私が受けた訓練だ。あのいけすかない、最悪なまでに捻くれた。人を人とも思わない魔道の外道、大沼の魔女と名乗ったあの年増にしごかれた時と同じ物を施している。時間をかけずに強くなれる。その代わりに地獄のような苦痛と激しい痛み、短時間でという文句の通り一週間で劇的に変わりはするがその実人間の活動限界を超えて24時間ぶっ通しでの修行だ。…私はソレに耐え抜いたとは言えなかった。だがグラジオ様は違う。こんな無茶な訓練を三年間ずっと続け、今も私が出したメニューを迷う事なく行なっている。


果たして、私はいつあの年増にあったのか、私はそんな訓練を受けた記憶がありながらなぜこんなにも弱いのか、私の欠けた記憶と私の知らない記憶の意味とはなんなのか…私は苦笑した。

グラジオ様と一緒に放り出されて彼を支えると言いながら私は私の過去を追っている。冒険者だった記憶とメイドになった経緯、果たしてそこにどれほどの正当性があるのか、メイルリーンは水属性魔法と魔術の大家でありながら最も深くエレメント王国の根幹に喰い込む血筋、何をされていても不思議ではない、いや、寧ろなぜ私は今の今までそこに疑問を持たなかったんだ?

そう思うと私の中にある何かが軋むような音がした。

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