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幕間:狂った勇者はかくかたりき


グラジオとジェシカの騒ぎがあってその日の夜



速さだけが取り柄のわたしから足を奪うなんて酷い神様だ。

「ねぇ、そうは思わない?」

「ガッ…アガッ…!」

切り飛ばした腕の断面に砂利を擦り込むとギルド職員はガクガクと痙攣する。

「ねぇ、酷いじゃ無いかギルド長さん、あんなに親切にしてくれてたのは嘘だったのかなぁ?」

「…間に合わなかったか…」

返り血で赤く染まった身体は羽がついているかの様に軽く。持っている短剣はペンの様に自在に動く。いつもの様に鼻歌を唄えば受けた傷は塞がり、代わりに路地いっぱいに広がった血が目減りする。

「『生贄術』膨大な数の魂を捧げる事であらゆる奇跡を代行できる教会の禁呪、アイカちゃんソレは誰の記憶かな?」

「えへへ…勿論、私達を産んだ司祭様、私達がシスターと呼んでいた誰かだよ!」

私は自分でもよくわからないことを口走って狂った様に叫びながら加速した。

「…最近無能を晒してばかりだ。対応が後手に回りすぎだ。異端審問も騎士団も君も竜も彼も、どうしてこう問題っていうのは立て続けに起こるんだろうか?」

彼女は加速した私を路地一面に広がった血から生んだ槍で串刺して止めてエルフらしい、長命種らしい薄い感情の起伏を見せる。

「あっっはぁ…痛い!イタイキモチイイイイ!」

「ごめんね?」

串刺しにされた私は加速で無理やり四肢をもいで飛び出し生贄術でソレらを再生して、今度は空中に立った。彼女の魔力の届く範囲の僅か外、私はそこで朗々と語り出した。

「酷い、酷いよ本当に酷い!私自身驚いているよ!此処まで残酷に冷酷にそして申し訳なさそうに私を殺そうとする人に会うなんて!」

ああ、ほんと私は何を言っているんだろう。

「一番最初に私を殺そうとしたのは教会の主教さん、だけど彼は残酷で残忍で神の罰を代行する狂喜に呑まれていた。酔いしれたまま私たちに殺された。」

そんなはずは無い、私は教会で産まれたがそんな記憶はない、誰からも命を狙われる様な事はしてないし、みんなと仲良く暮らしていただけだ。だけど戦争とスタンピートで…

「二番目に私を殺そうとしたのは私達の姿を見つけてしまった騎士団兵、彼はとっても強くてとっても強くて何度も首を落とされた。子供の姿に惑わされずにただ冷静に、ただ冷徹に、氷の様な理性で持って私達を殺し尽くし…そこを見た別の人に邪魔されてもろとも殺された。彼はとっても惜しかったけど私たちはあそこで止まれるならばそこで止まっていいとも思えた。」

そんな…そんな記憶はない、馬鹿みたいだ。そんな妄想をぶちまけて一体何になるんだ。私のスリを見つけて追い回されたのは覚えているが…え?『見つけて』?

私が後ろを振り返るとそこには冷たくなった騎士がいた。

「そして最も新しいタイプが君らだよ、私達を哀れんで、憐みと慈しみを持って狂気も、冷徹さもなく私達を殺し尽くそうとした。まるで悪気はないみたいな顔でいきなりブッ刺してくるなんてイヤらしいにも程があるじゃないか、洗脳?蠱毒の陣?へぇ、そりゃあまたけったいな、でもソレ私たちのせいじゃないのよね、私達はあくまで私を守る為に存在する私達、私達を殺すならばソレはもはや憐みでなくただの殺意じゃん?」

私は体をくねらせて、頬を上気させていつか見た劇のワンシーンの様な見事な道化を演じている。『劇』?え、いつ見たんだっけ…教会にいる時だっけ?頭が痛い、痛む。疼く、どうしようもなく何かが欲しい、暖かくて、優しくて、ソレで赤い何かが…

「きっと私達を殺すのは『愛』しかない!そう、だから私達は…」

「『愛で持って君たちを蹂躙しようと思う!』だろう?そんな王都で流行った大量猟奇殺人鬼の台詞を言ったって私にとって君らは脅威では無いんだよ?」

気づかないうちに近づいてきていた彼女はそう言って私の頭を吹き飛ばした。



〜〜ギルド長〜〜



…気分は良くない、空中から自由落下する首なし死体を見下ろしながらひさしぶりに葉巻を咥える。

「…あの猟奇殺人鬼も入っているって事は、何処かでソレを殺したって言うことだ。」

きっとソレは最初に殺された司祭なんだろう。葉巻の煙が肺を満たし凪いだ精神は思考を加速させる。

恐らく。彼女はまだ死んでいない、吹き飛んだ頭から蒸気が吹き出しミチミチとイヤな音を立てながら少しづつ再生している。だが問題はそこではなく報酬で動かした下級冒険者が死んだことでもなく。彼女によって殺されたと言う結果が問題だ。

「洗脳術式が外れ人格が分離し彼女の体を使ってまるで群の様に動く魂の集合体、蠱毒の陣の使用例は過去に二度あるけれど…明らかに効果が変わってる」

周囲の血を蒸発させながらその血に濡れて笑みを浮かべる。最早人ではない、アレではまるで…

「ヴァンパイア、吸血鬼、不死身の化け物にして完全無欠の神の敵、そうだよエルフのお姉さん私達はそう言うものに成り果てたんだ。」

私はそう言って笑うその化け物を氷漬けにして石の棺桶に閉じ込める。だが正体不明の術式反応とソレに付随する膨大な熱量の発生により氷はともかく石棺も消しとんだ。

「っ!」

熱風が吹き荒れる。風精が逸らしてくれるがそれでも目の前に溶岩流でも流れているかの様な熱気だ。

「うーん、いいねぇ、下っ端冒険者でもいいもの持ってるじゃん?」

術式魔法…それも使い勝手が良いタイプ、恐らく魔力を直接別のエネルギーに変換するタイプ、だが…彼女の属性は風、だったはずだ。決して熱を操るタイプの術式魔法がつかえる火属性ではない!

「いえ、そう、そうなのね…」

「アハハハハ!」

彼女は彼女の中にある複数の魂から魔力を生み出しているのだ。それは最早蠱毒の陣だけの効果ではない、もう一つか二つの禁呪を施された人工真祖とも言うべき人という物が堕ちれる最低最悪の人外だ。あのクソ忌々しい勇者教団とも言うべき阿呆どもの産物は今まさに開花してしまった。

きっと彼女自身の自我も崩壊しきれず。廃人になることもできずにあの体に留められているのだろう。魂に直接作用する魔法文明崩壊の原因とも言われる魔術、神学と決別出来ず。科学と魔法を神と言う虚像に都合良く解釈して滅んだ文明の遺物がよりにもよって彼らの言う神の加護を掠め取り、あまつさえそれを使った教団の目指す勇者の対極たる魔王にまで堕ちたのはどんな皮肉だ。

火精の力で熱を散らし魔力操作で術式を崩壊させる。

「アッは!」

「遅い」

散らした熱を媒介して火精による火柱が加速前の彼女を焼き、土精で叩き潰し、水精が血流を逆流させ、風精が切り刻む。

だが中の魂を消費して殺されるたびに再生する。私は魔力的に余裕がある状態ではあるがこの環境では、この街の中ではこれ以上の速度で彼女を殺す事はできない、一体何人を一体どれだけの命を貯め込んでいるのだろうか、もしやあのスタンピートの最中ですら生き血を啜っていたのだろうか、既に数十回は死んでいると言うのにその顔がようやく苦痛に歪んだ程度だ。



〜〜アイカと呼ばれた少女だった物〜〜



殺されて蘇って、殺されて蘇って、それでも私は何も感じなくて、いったいどうして、いったいどうなっているんだろう?

「グッ、ゴボっ!?アガっ!」

「此処で殺しきれないと…」

段々と分かってきた。彼女は私を助けようとしてくれているのだろう。さっきまで後ろにいた誰かもついさっきいなくなった。今もまだ蠢く何かが私を見ているけれど心なしか体が軽い、鉛の様だったのがちょっとマシになった程度だけれど…

だけど私の体はそこから抜け出し、加護を使って走り始めた。

「へ、はあ、ダメだよ私達はまだ死ねない、まだまだ死にたくない、まだまだまだ殺したりない、だから今日はもうおしまい、お姉さんを殺せなかったのは残念だけどこのままじゃ私たちが殺されちゃう!」

ああ、ダメ、逃げないで、動かないで私の体!今思い出したの、あたしは死ななくちゃいけないんだ。ジークもシスターも主教様も騎士様も冒険者さん達もみんなみんな私が殺してしまったんだ!なんでとか、どうしてとかそんな甘い事は言ってもどうしようもない、事実として私は彼らを殺して彼らにとって大切な全てを奪ったのだ。

だから…

「私を愛してくれない貴女には殺されてあげないよ?」

誰か私を殺して!

そう願う私の心に反して体は加護を使って加速し続け、精霊の光を纏って跳ぶ彼女のが遠くなっていく。壁を易々と飛び越え、森に入って仕舞えばもうこちらのものと言わんばかりに駆ける体、襲ってきた魔獣や動物を手当たり次第に鏖殺しながら次の街を目指す。ああ、ああどうかこの体の進む先に私を止められる人がいます様に、神様お願いします…


だが、チャンスは意外にも早く訪れた。

空を飛ぶ何かからありえない速度で飛来した雷光が体を貫いたのだ。

「ひぎゅっ!?」

「ほう…素晴らしいな、只人を才能や適正関係なく此処まで強化できるものなのか…」

あまりにもあっさりと、体が反応も認識すら許されずに制圧された。

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