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幕間:超越者


魔道具から発生する一定間隔の音、ソレが彼の命の証明だ。

「一通りの処置と手術がかんりょうしました。まさかもう一度あんなボロクズの様になった人間を治すことになるとは…思いませんでしたがね?」

「ありがとうございます!」

私は治癒術師に礼をいうが彼は顔を顰める。

「貴女も良い状態とは言えません、霊魂のみつまり魔力体とはなっていましたがあそこまで強力な思念を持った幻想種に操られていたのです。精神もそうですが肉体も彼ほどではないでしょうが損傷しています。激しく動いてはいけませんよ?」

そう言って痛々しいギプスをはめるジェシカを宥めた術師は精神回復作用のある薬草を調合したタバコを咥え去っていった。



正直言って、今回のこれは災難だったとしか言いようがなく。私も彼もそして同じ空間にいた誰もがどうしようもないほどに不運だった。

『竜種は生き汚く、それでいて殺されて死ぬ様な生半な生物ではない、強く、偉大に見えてもその内面は自己保身欲に塗れた生き物らしい生き物だ。』

そんな言葉はよく聞くが本当の意味でそのように生きる竜種は多くない、この言葉も単純に生物として隔絶した強さや、存在であっても行きたいという欲求は共通であるという故事だった。

「グラジオ様…」

ギプスの下の拳を握る。石膏で固められた外壁に阻まれるが問題は無い、魔力の励起は身体能力の向上だけでなく肉体全体に魔力が回るため現実改変力がそのまま治癒力となる。グラジオラス様のあの不死者めいた回復力はそこからさらに肉体の持つ治癒力を操作しているが故の物だ。

「っ!」

だが、勿論私にその様な再生力はない、忌々しいことに私の魔力量ではせいぜい人より怪我が治るのが早い程度、骨折も場合によっては高速で修復できるが今回は既に施術で全身の骨の回復をされているため魔力が残っていないのだ。鈍く、熱を持った様な痛みが手を覆う。

「はぁ…どうしましょうか」

痛みで少し冷静になれた私の悩みは今の状況からすればいささかズレているのかもしれない、薄情とも言われるかもしれないがお金の話だ。

と、いうのも今のところ彼は人型のボロ雑巾としか言えない様な格好ではあるが、解析結果を信じるならば右腕を中心に広がる魔力が内部の再生を既に始めている。また魔力炉が変形しそうな気もするがそこさえ直れば彼はほぼ不死身のリジェネレーター、教会の秘術も真っ青な再生能力の保持者だ。恐らく彼も自覚して無茶をしているのだろうが、その膨大な魔力量とソレに付随する再生能力、あの二年間家で過ごして生き残れたのはその天賦の才があったが故だ。そこは信頼しても良い、逆に言えば彼の才能のほとんど全てがそこに集約されている。いや、まぁ今はソレよりも今回出してしまった損失の方が問題だろう。

「うぅ…金貨100枚の装備が一瞬で吹き飛ぶなんて想定外すぎます…」

そこである。言うまでもなくあの竜種に乗っ取られていた私の装備は一部を残してほとんど吹き飛んでしまった。残った一部には竜種の魔力という貴重な付与がなされているため完全な損失ではないはずだが、ソレでも残ったのは指輪一つと魔導金属の試験管三本…その他失われた装備を補填できる様なレベルに強化されていれば話は別だが勿論そんな都合の良いことはない、知らず知らずのうちにため息が出ていた。

「どうしたんだい…って言うまでもないか、今回は災難だったね?」

「…貴方ですか、周りに気配もないですしギルド長としての仮面をかぶる必要は無いと思いますよ?」

「…はぁ、そうだね、君は最初からそうだったね、ジェシカ・ランドウォーカー、エレメント国立魔法学園卒業生にして元軍属、元フレイアール家メイド、現逃亡者殿?」

現れたギルド長はどうやら仮面を外すつもりはないらしい、つい昨日までグラジオくんグラジオくんとわんわん泣いていたので既に色々と手遅れだと思うのだが…

「ちょっと話があるの、私の部屋まで来てくれる?」

「…ええ、わかりました」

彼女の周囲に飛び交う様々な色彩の魔力がざわつき、天井や床下から殺意まがいの気配を飛ばされていて尚『頼んでいる』というスタンスを崩さないその厚顔さはなかなかに真似できるものでは無い、私は仕方なく彼らの頼みを受諾した。



〜〜ギルド長〜〜



グラジオくん、グラジオラス・フレイアールのお付きであるジェシカ・ランドウォーカーはある種伝説的な人物である。少なくとも私はそう聞いているし、彼女の経歴を聞けば誰もがそういうだろう。

「ざっくばらんに聞くけれど、彼の右手に埋まった魔石について…知っているところを話して欲しいのだけれど」

「…」

彼女は私の出した紅茶をゆっくりと飲み、あくまでも普段通りにたおやかな所作でカップを置いて微笑んでいた。

「…まず、そうですね、私が今のところランドウォーカーの家名を名乗ることはないのでソレの訂正を、そして彼のあれは故意に埋め込んだものでは無いです。」

そう言った彼女は色々とボカしながらことの経緯を喋る。

…彼女は元軍属、騎士団ではなくあくまで軍属、しかもその中で最も恐ろしい潜入や暗殺のプロだ。まぁ、今のところ彼女のそう言った異常性は失せてしまっている様だし、色々と訳ありな様だが…

「まぁ、良いです。彼の切り札やあなた方が何処からきたのかは詮索しないでおきます」

「そうしていただけると私は助かります。」

「ですが」

「…」

私は昨日今日でたまったストレスを吐き出す様に喋る。

「あの姿、昨日の戦い、もう色々と来てます。特にグラジオ、彼の戦いぶりや最終局面で見せたあの姿…正直に行って仕舞えば教会と騎士団から圧力がかかっています」

「成る程、私には魔獣との合体という禁忌魔術の疑い、彼には教会の禁じる不死等の禁呪…ま、いわゆる異端審問ですか…」

全く持ってその通り、教会の下部組織である異端審問会、教会の持つ最低にして最悪の暴力装置だ。

「バックには貴族ですか?」

「そこらへんは心当たり次第でしょう。そもそも異端審問会は金を受け取って多少の疑いを槍玉にあげて公開処刑を強行する様な組織です。…んで、そうなれば今頃あの忌々しい三角頭巾供が乗り込んでいるはずなのですが…」

「?」

「ええ、疑問はもっともでしょうね、いや私もなんですけど…あの王国最強が異議申し立てをしグラジオと貴方の身柄を要求しているのです」

「…は?」

ええ、ええ、うん、そうでしょうね私もどうかなりそうです。私は無表情で驚愕する彼女を見ながら今も外で巻き起こる騎士団員と異端審問員の戦いを想像しため息をついた。



〜〜〜〜〜



「首尾はどうだ」

抑揚を感じない、人の声であるというのにこの世の何より恐ろしい平坦な声音が鼓膜を打った。

「ハッ!現在教会からの妨害を受けておりますがギルドの方からの干渉はありません、比較的容易に事は運ぶものとかんがえます!」

「考えはいらん、事実のみを述べろ」

「っひ!げ、現在異端審問会との交戦中、対象の身柄の確保はできていません!」

「わかった…貴様は下がれ、私が出る」

「で、ですが…」

「出る。と言ったのだ。ソレとも何か、私がいないと言うだけでこの生温い戦線ですら維持でないと言うのか」

重装鎧の金属音と共に立ち上がった彼は一切の人間性を垣間見せようとしない片目で騎士鎧の男を見た。

「ひ、ひぃぃぃ」

大楯と槍というにはいささか乱暴がすぎる剣槍ともいうべき何かを携え嵐の様な魔力を吹き散らす眼前の怪物に男は恐怖した。彼は知っていた。この騎士団最強の騎士はこの国最高の戦力であると同時に単独で一国の軍事力にも匹敵する兵器である。彼はよく知っていた。ソレは護国の為ならあらゆる狂気、論理、倫理を屈服させただ合理的に機械的に全てを処理する人外であると!

その剣槍が振り上げられた事も認識できない彼が最後に感じたのは相対する男の眼帯の奥、あるはずの何かが輝きソレが自分の何かを抉りとったという予感だけだった。


「ドラグナー卿、あまり新兵を虐めるのはいけませんよ?」

しかしソレはあくまで予感でしかなく。新兵は泡を拭いて倒れただけだ。だが剣槍は振り抜かれている。間違いなく竜騎士には殺意があった。その殺意を冷や汗をかきながら止める男はミシミシと嫌な音を立てる腕と盾に顔を顰めながらあくまで新兵を庇う。

「…そう、だな、不必要と断じるには些かこちらの対応が雑だった。彼が萎縮してしまったのは私自身の不徳か」

竜騎士は自分の責を認め武器を下ろした。彼はあくまで合理の化身、護国の人外、だがソレでもあくまで人でしか無いイラつきもするし、焦りもする。

「わかってくれたようでよかったよドラグナー卿、ソレで君の倅殿の報告にあった彼はどんな具合だい?」

武人では無い、騎士鎧もつけていない事から騎士でも無い、海や湖の様に深い青をした髪の男は魔法の盾を消しながら喋りかけた。

「恐らく超越者、もしくはその前段階、何にせよ今この国には力が必要だ。他国へ行かれる前に確保せねばならない」

赤髪の男は抑揚なく言う。そして何処からか現れた飛竜に跨るとボソリと言った。

「…いい加減、この国も属性などと言う物に踊らされるのはどうかしている」

飛竜が羽ばたけば瞬く間にその人影は見えなくなっていった。残された青い男は吹き飛んだテントと泡を吹いた新兵を騎士に治させながら呟く。

「ああ、全く持ってその通りだよ」

王都から遥か1000km国境付近での出来事だった。

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