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極限を超えて


爆発によって舞い上がった土煙、そこには二つの人影があった。

『…っは!生き汚いのは貴様もではないか?』

「……」

一つは竜人の様な姿へ変貌した女、竜鱗に包まれその手に青白い光を湛え絶大な魔力を撒き散らすソレはある種の神々しさすらあった。


だが、問題はもう片方だった。

生えかけの手足は血こそ出ていないがウゾウゾと蠢くばかり、胴も抉られ首も3分の1ほどまで切れ込みが入っていた。服はすでに布切れと化しおよそ人類として生きていられる様な姿ではない、その姿は…

「アン…デッド?」

そもそもどうやってあの状態から復帰したのか、何故片足だけで傾くことも揺らぐこともましてや明らかに力の入っていないその幽鬼の様な体で立っていられるのか…


『まぁ良い、死ぬまでの時間がほんの少し長引いただけだ。』

そう言って竜がもう一度拳を振るおうとした瞬間、あらゆる無駄が削ぎ落とされたヤイバの様な動作の一瞬の隙に竜人はおよそ生物としてあり得ない動きをした死体もどきの左腕で殴られ、吹き飛んだ。


「は?」

『な…?』

左腕で殴った。

ソレは確かだ。

だが何故だ。どうして彼には左腕が無いんだ?



〜〜グラジオラス〜〜



あらゆる知識、あらゆる技術、今までの全てが一点に集約されたあの時、俺はピクリとも動けない体を動かすのを諦めて体を流れる魔力で持って肉体を動かした。

確証があったわけでは無い、だが無属性が力の方向を操る魔力なのだとすれば、ソレを完璧に引き出せれば指先だけで相手の血流や、大気の方向までを完璧に操れる筈だし、実際はそんなことが出来る筈もない、何せ無属性の魔法はあくまで肉体やその表面部分、触れている物体、魔力で覆っている物のみにのみ作用する物だからだ。

『ッグ!?なんだっ!その動きはっ!』

…だが逆に言えば肉体にのみ限定すればその内外の細部まで制御出来ないこともない、俺は再生を諦め止血のみにとどめ肉体を覆う障壁も負荷のかかる部分のみに限定しその他の受けた衝撃などは全て逸らすか攻撃に転用、そして思考のほぼ全てを魔力によって重力や自転で受けている力を使った肉体の強制操作に使っていた。


拳は握るという動作の難易度ゆえに右手の掌を向けるという動きに、足は初速だけ重力を使ったが後は足で生み出した作用反作用で常に動き続けなければ止まる。受けた衝撃の一部で止まりかけの心臓や呼吸器を動かし、無いはずの左腕付近から収束しきれなかった力を逃し続ける。

確信しているのは今の俺の身体がこのままでは崩壊するという事、そして魔法でも技でも無いもはやただの魔力操作とソレに付随する魔力特性の発現でしか無い俺の動きを奴に見切られることはないという事だ。



〜〜ギルド長〜〜


アレはすでに世界の魔法使いの求める完成形だった。

だが問題はソレを完璧に操れることがただの奇跡でしかないという事だ。

「グラジオくん!」

彼は答えない、そりゃあそうだ。だって口を動かすのは難しい、人体は複雑な化学現象の塊であると同時に超複雑な動作装置の塊でもある。魔道具や魔法で人体を模倣しようとすれば必要な術式や魔道具は人体の体積の何百倍にも膨れ上がる。

今の彼はソレを魔力の操作で、通常時ならばその一切を自動的にこなしてくれるはずの補助無しで動かしているのだ。

「グラジオくんっ!」

いや、その前にまず私はあの現象について考えなければならない、彼の右手から滲み出てきた幻想種の魔力だ。

…いや、見当はついている。恐らく彼の右手には魔石が入っているのだろう。事故か、故意か、何にせよ彼が彼らの様な超越者の一人となり得る可能性があると言うこと、そして、彼と魔石はまだ一体になれていないということ…だが…

ダメだ。私は彼のことがどうも好ましく、心配で、どうにもならないほどに愛おしいのだろう。彼がその死体の様な体で動くたびに心が引き裂かれそうなほどに痛みを感じる。自分の無力を感じる。

頼む…

「勝ってくれっ!」

その願いが叶うかの様に竜人はその体勢を崩した。


〜〜グラジオラス〜〜



「……」

『貴様っ!それでも生き物なのかっ!?』

常時ではあり得ない全関節の完全加速とソレによって生まれたあらゆる衝撃などのロスの完璧な回収、痛覚と呼べるものがほぼ残っていないが故の荒技、何せ神経系もほぼ死んでいるし、おそらくこの蜘蛛の糸を渡る様な神業めいた魔力の高速操作ももうもたない、右足付近から発生した不可視の蹴りによって体勢を崩した奴が壁に叩きつけられた今が最後のチャンスだろう。

…ああ、不思議と静かな気持ちだ。何故だか前世で死んだ時の最後の最後、あの皮肉めいた罵倒を放とうとしたその直後を思い出す無気力感だ。

最早アレほどまでに肥大化した自我やその欲求などどうやって抱いたのかすら解らない、恐らく湧き出している魔力、即ち俺の魂が磨耗しているが故なのだろう。

『っや!やめろ!この女がどうなってもっ…!』

ああ、何かが喚いている。だが確かにそれがいうことはもっともだ。その女性は大切だ。だが…オレノコレガコワスノハオマエダケダ…


バキン


っと、彼女を覆う魔力障壁が砕け、余波で魔道具が砕かれ、そしてドーム状に展開されていた障壁も砕けた。


『が、あああ!ガアアアアア!!駄mだ!オレが我が!コノ竜たるおrが!キエr!』

俺に魔眼はないはずだがハッキリと見えた。奴の魔力を俺の右手の魔石が食い散らかすのを、そして噛み砕かれ粉砕された奴の意識が薄れて世界の流れに飲まれて行くのを…その一瞬を持って俺の体から集中は失われ無意識に展開されていく障壁と蠢く傷口の感触を最後に完全に意識を失った。


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