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幻想の頂


??の月、?m?日目


どうやら魔石には倒した相手の魔力を吸収し増大する力があるようだ。

…というのは、魔獣や魔物を狩ればわかるし、そもそもすでに現代の科学において証明されている。問題はこれが人間においても同じことが起き、人間も魔獣同様に成長すると言うことだ。



〜〜〜〜



魔石の魔力が逆流する。消費分を超える量だ。いや、まさか…

「増えているのか?」

『死ね!』

魔石が輝くと言う今までにない状態、魔力が明らかに増大していると言う事実、ソレらに気を取られている暇は無いようだ。いやに肌色面積の多い彼女が明らかに人外めいた勢いで突進して来ている。吹き飛んだ地面の抉れ方からしてもあの出力は彼女の体の限界を大きく超えて発生している。いや…

「早っ!」

『キヒィイ!』

反応できないままになんとか形だけは防御した俺を嘲笑うかのように、真っ直ぐと突き出された拳が魔力障壁を粉砕して俺の右脇腹を抉り飛ばす。自身の血飛沫を浴びるのは久しぶりだが、その激痛に抗うことは出来ず叫びと共に遅れて発生した拳の圧で吹き飛ばされる。

「ぐぅ…っがあ!」

『そうだ…地を這う虫如きが、この俺を殺すなどあり得ない、あの様な事は間違いだったのだ!』

ぶつかったのは透明な壁、どうやら外からも侵入を試みている様だが状況は芳しく無い、あのギルド長が顔面蒼白で殴る蹴るの物理的手段を講じているとなると…魔力への干渉や魔術、魔法的な解決は望めそうに無い様だ。

貧血で気分は悪いが湧き上がる怒りと魔力が俺を繋ぎ止める。口から出た血を拭い立ち上がる。

『キヒヒ…なかなかやるでは無いか、その状態で立って見せるなど中々に健気で…笑いが止まらん!』

…最悪なことに、どうやら相手は魂だけなんて言う幽霊的な存在ながら幻想種と言う怪物の存在規格をそのまま発揮できるらしい、だが条件は今のところイーブンだ。さっきの拳で分かったが相手もジェシカさんの身体を魔力障壁で覆い、その内側に潜んで彼女の体を好き勝手している。ならば…

「障壁ごと消しとばしてやるよ…!」

右拳の調律が完了したと同時に駆け出す。相手は俺の右拳を手で払いながら一撃一撃で身体が吹き飛ぶ様な蹴りや拳を出してくる。しかし出してくる技は彼女のものばかり、偶に知らないものも出てくるが…人体の動きの範疇だ。

だが時間はそうかけられない様だ。

「ぐぶ…」

吐血、血涙、撃ち合いと組み合いが連続していくごとに彼女の体から鮮血が溢れ出す。

「ジェシカさんっ!?」

『キヒヒヒィ!竜たる俺の力を代行させているのだ。かような羽虫の肉体、耐えられるはずもなかろう?』

このクソがっ!死霊なら死霊らしくしてろよ!

…ダメだ。熱くなればジェシカさんの体術についていけないくなる。落ち着いて、冷静に、思考を加速させる。

『さぁ!さぁさぁさぁ!どうする!どうするんだこのクソ虫が!貴様に何が出来ると言うんだ!?』

キレたらダメだ。煽られていてもわかる。

落ち着け俺、幻想種と言う世界の頂点に近い生物が肉体という器を失って今の今まで潜伏していた理由はなんだ。俺程度の魔力と右手に埋まっている直径3センチほどの魔石に吸収されていたとして何故そこから出てくるのにこれほど時間をかけた?何故その体で自ら結界を作った?


繰り出された拳が加速し、汗の様に血を流す彼女の姿に何度も思考が吹き飛びそうなほど怒りながら、俺は一つの仮説を立てた。

「…そのクソ虫に殺された挙句、生かされていた気分はどうだ飛び蜥蜴さんよ?」

『ああ゛?』

奴は今肉体という魂の器が無い、言わば容器に入っていない液体だ。

ここでいきなりだが魔力というのは可能性の塊であり、現実を歪める力だ。その本質はオカルトの域を出ないが『魂』だとされている。

ま、そうなると魔石というのは…的なちょっと人道とかエントロピーとかなんか様々なものに引っかかるので今はいい、重要なのは魂はほぼイコールで魔力であり、エネルギーであり非物質であるソレは容器に入らなければ世界の魔力の流れに吸い込まれるという事だ。

「障壁無しじゃあ生きられないなんて不便な奴だ。いや、いっそ哀れだな、あんなにあっさり死んでおいて死んだ後に一生懸命とか笑えるぞ?」

『貴様…』

ならばだ。この巨大な入れ物と奴が無茶をしながらも何故かまだ人の形を保っているジェシカさんを覆う障壁さえ剥がせれば…勝機はある。筈だった。


『…どうやら調子に乗らせてしまった様だな?』

そう奴が呟いた瞬間、大気が震えた。

「なっ!?」

『貴様、この私に、幻想種であり竜種であるこの我に一度でも技を見せればどうなるか、考えなかったのか?』

その両腕の魔力障壁は高速で振動し、身に纏う魔力障壁は厚く。そして明らかに俺のものより洗練された強化魔法がジェシカさんを強化していた。

『死ね』

一瞬にして奴は俺の目の前から搔き消え、空気のこげる様な、オゾン臭めいた独特の生臭さが発生すると俺は訳もわからず宙を舞い、消失した左腕と右足を再生することもままならないままに地面へ叩きつけられた。

『ふむ…なかなかだ。羽虫にしてはなかなか真理へと近づいたものだよ、この剣も、この肉体強化術も、世界の想定の中であるがあくまで想定されているだけであってたどり着ける様な境地ではない、ソレが貴様の様な平凡な者なら尚更である。』

奴は魔石刃の様な青白い剣を持って嗤う。

(まずいまずいまずいまずい!)

加速した思考はすでに答えを出している。あっけなく俺は死ぬだろう。

『だが、この我にかの霊峰の砂粒一つ分でも勝てると思ったならばソレは愚かと言うほかない!』

魔力は尽きていないが身体がいうことを聞かない、駄目なのか、俺はここで死ぬのか?

(いやだ、ダメだ!何のためにあの家から命辛々逃げてきたんだ!第二の生なんていう馬鹿みたいな幸運を全うするためだろ!?)

最強になりたい、この世界の生き物や魔石の全てを知りたい、そんな思いを嘲笑う様に青白い剣が首に近づいてくる。恐怖と後悔と殺意と…大凡今までなかった強烈な感情の連鎖、死という結末を認められない醜さが思考と知覚を極限を超えて加速させる。一瞬でも長く。1秒でも永く。走馬灯めいた勢いで景色が鈍く流れ、今までの全てが脳裏を過ぎった。


そして、剣が振り切られ圧縮された魔力が爆裂した。

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