後日譚は終わらない
申し訳ない、私用で投稿が遅れました。これから先も定期的には出せませんが、ちょっとずつ頑張っていきたいと思います(きちゅい)
「と、言うわけなんです。」
「へぇ…じゃぁ、此処にはいつまで居るつもりなの?」
「共和国は今戦争状態でもありませんし、温泉町は貴族などが多いものの旅行先としては人気なのでこの街を出て3日ほどの『アール』の街から大きめの馬車を使った定期便と貴族用の空輸便があります。空輸は流石に高いですが定期便なら今回の報酬で十分乗れるでしょう。グラジオの不調が快復すればいつでも出発できるよう用意はしておきます。」
「ああ、じゃぁ頼むよ、俺も頑張って治すから」
「ええ、体に気をつけてくださいね?」
さて…うん…
「どうしよう」
「しらねぇよバカ、あそこでキチッと言うべきだったろ!」
バシバシと隣から叩かれる。まぁ、ソレもそうである。今日ですでに6日、俺はすでに去っていったジェシカさん言おうとして言えていない事があった。
『端的に言うとね、君の右目はもう手遅れだ。あんな自爆めいた魔法の反動で視えているだけありがたいと思ってくれ、味覚も前までの3分の1くらいに機能が落ち込むだろう。』
そう、今回の魔法によって発生した怪我や神経系の機能は見た目上快復しているしなんら変わりないように動いてはいるのだが、前回に比べてあまりにも大きすぎた怪我は魔力による肉体の復元性を上回ってしまったのだ。
前回の反省を生かし魔力障壁用の魔力を多めに見積もっていたため失明などはなかったし失調もボヤけや震えで済んだかと思ったんだが…見込みが甘かった。そもそも思考加速状態での魔力運用は凄まじい負荷がかかるとわかっていたんだが、魔力循環による強化と負荷が計算よりもかなり高くなってしまったせいで肉体の損壊や魔力路の焼けつきがひどくなってしまった。
更に意識的に復元性を使用していたのもあった。焼けつきがひどくなるならそこを重点的に直せばいいと、実際今回は焼けつきは軽度で済んだのだがその分の復元力が眼と味覚を司る一部の神経の分足りなくなってしまった。
魔力障壁を張れば味覚も視覚も内側に満ちる現実改変力で修正できる範囲ではあるが、ソレでも障害が残ったことは事実、それにこれから先も今の俺で叶わない相手と戦うならば必ず使うことになるだろうこの魔法を封印することはできない、そうなれば仲間である彼女にもきちんと話をするのが筋ではあるのだが…
「いや…なんというか、その…」
「はぁ…これだから餓鬼は、何シスターに悪戯がバレたバカみたいな顔してんだ。」
うん、まぁ、あれだ。いわゆる『怒られるのが嫌』的な心理だ。女々しいが誰でも怒られるのは嫌だ。勿論、おれも嫌だ。
しかしまぁ、彼女、あの状態からよくもまぁこんな人を怒鳴れるほど回復したものだと思う。聞けば今はリハビリをさせて貰っているらしい、冒険者ギルドとしても彼女を善意のみで保護し続けられないし、彼女にとっても不健全だ。加護の力で保護補正されている為に歩行は問題ないレベルで可能らしいが、この先どう生きるにしろ手に職をつけなければダメだろう。
「はぁ…」
…よくもまぁ、本当に回復したものだ。俺は何故か儚げになった彼女の背中を見送り、ため息とともに言い訳を考えることにした。
〜〜スリの少女〜〜
「それで、君はそこで何を見たんだい?」
彼は比較的安定してきた私にそう問いかけてきた。対価は片足で行き場がない私に当面の寝るところと仕事の紹介、教会とその周辺の狂信組織の手がかりをつかめるならそれくらいは簡単だと言う彼だったが、ギルド長としてはいささか優しすぎる気がした。
「私がジークに連れられて孤児院に行った時、周りには魔獣がいっぱいいて、そこら中に血の海ができてた」
出来るだけ鮮明に話さなければいけない、だが思い出したくはない……だが、話さなければ、このことを誰かに伝えなければ私を逃してあいつらに捕まったジークが、私がいないばかりに守れず。私がいたから殺された仲間に…仲間の仇を討て無い…
せり上がってくるドロドロとしたものを押し込みながら口を開く。
「アイツらはあの魔方陣の事を『コドクの陣』って言ってた。発動するのは今回が初めてじゃ無い、何年も前から教会に所属する加護持ちを『勇者』にする為に準備してきたと孤児を切り刻みながら…」
話始めればあんなに辛かったのも、苦しかったのも、口が強張っていたのも嘘みたいに口が回った。
そうしていくと私はまた彼らが生きているのでは無いかと思っていた事に気がついた。あんな地獄を見てきたのに、あんなに惨たらしく。私の目の前で一人一人人間の形を失っていったのに、どうしようもないわたしには彼らがいなくなってしまったと言うのが認められなかった。
認めてしまえば本当にいなくなってしまったように感じて、あの温もりが嘘だった様に思えてしまって、壊れてしまいそうだった。
〜〜ギルド長〜〜
「最悪だ最悪だ最悪だ!クソがっ!」
椅子を蹴り倒し破壊する。すでに彼女はいない、いたたまれなくなったフリをした私が医務室に帰したからだ。
「…まぁ、そりゃあそうなりますよね、判りますよ…」
「こんな理不尽があっていいいのか!またわたしの目の前であの忌まわしい馬鹿どもが暴走してるのかっ!」
土魔法を使いまるで巻き戻されたかの様に復元された椅子を何度も何度も繰り返し壊す。ひどい話だがエルフであり、感情の起伏というものが乏しいわたしが、短期間にこうも何度も揺さぶられるなんて…しかも良い方向ではない、とびきりのひどい方向だ。
「洗脳系の術式反応、陽性です。」
「知っているとも、彼女から、だろう?」
この街に数年前からスリとして紛れ込んでいた。それは知っていた。だがそれと同時に行方不明の子供が発生する様にもなっていた。
情報として処理はしていた。だが前回のスタンピートから町の範囲が狭まったのもあり孤児が増え、保護施設である孤児院も森に飲まれ、領主などというマトモなものがないこの街で引き取り手としてあるには私たちギルドはあまりにも大きすぎた。
「蠱毒の陣、初歩的な呪術であり教会がもう何百年も前に封印したという最初の術式魔法、その効果は…」
「『同種族間での魔力受け取り効率の超向上、および記憶、能力などの継承』…おそらくスタンピートの短期間化はこの術式の余波でしょう。森の竜は今回の黒竜との争いに敗れ落ち延びた先で喰い合いをする魔物の中から最も強い魔力を持つ物を食らうのが目的…結局は前の教会の残党共の所為って事です。」
そう、彼女のいう『仲間』は彼女自身が殺した。或いは殺させられた孤児や子供の事、そして最悪なのが定期的にあの孤児院にいる事で彼女の認識や記憶の矛盾は操作されているという事…奴らの目的である『勇者の再誕』そのために…
「く…そぉ!」
…今の彼女の状態はお世辞にもよくない、恐らく洗脳術式による自己肯定によってのみ今の彼女は自我を保てている。だが、それを更新するための孤児院という名の祭壇は既に魔法的な効力を失い、彼女自身に植え付けられた術式もほころび、個人に入れるにはあまりにも多い殺してきた子供の記憶や思念が逆流し始めている。
「…『ジーク』という名の調査も済んでいます。現在の教会にて保護されていた勇者候補にして加護持ちでした。現在は行方不明で、最終的な発見報告は前回のスタンピート前にあの孤児院に行った時が最後、加護は…『韋駄天』です。」
…よく聞いていれば彼女の話は矛盾がある。そもそもあの孤児院に普通の孤児が集まれるだろうか?グラジオ君が森を探査した時にわかっているがスタンピートが起きてからもう10年も放置されており、マトモな寝食の場とは言えず。そもそも城壁から近いとは言え子供が隠れて住むには突破すべき関門が多すぎる。その最たるものは魔物だ。勿論、ザワつきが強くなり始めた5年ほど前より以前からいたなら話は別だ。平時に近かったとは言え彼女一人で数人の足手まといを運べるほど甘くはない、しかも言うに事欠いて一年前に見つけただと?それこそありえない、なにせ、一年前といえば今とほぼ変わらない様な異常状態だ。それもこれも過去の遺物どもが暗躍し始めたのが影響しているのだろうが、それにしてもあそこで数人、数十人の子供で暮らすのは不可能なのだ。
「ああ…やってられない」
「ええ、全くです。…それで、彼女をどうするおつもりですか?」
……わたしは…ギルド長として、決断するしかなかった。




