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後日談、のような話


目がさめると医務室の天井を見上げていた。どうやら今回もなんとか人型のままで、五体満足らしい…まず、そこに安堵し次に俺の手を握る二つの温もりがあった。片方はプラチナブロンドのエルフ、もう片方は俺のよく知る。最も信頼するメイド、ジェシカさんだ。

「…はぁ…」

「ふひひ…なかなかいいご身分じゃないか、英雄さん?」

ああ、そういえばここは医務室だったなぁとぼんやり思い出し、隣を見る。そこには片足を失った少女が皮肉げな笑みを浮かべていた。


「ええ、幸い2日目で魔力が回復したので外傷もないですし、怪我も身体的な機能障害も治った筈です。」


俺が運び込まれた日、治癒術師は真っ青になっていたというがソレもそうだろう。今回は廃人コースフルセットに前よりもひどい骨折や筋肉の断裂、ついでに手足に軽度の火傷があったそうだ。


具体的にいうと手足が捻れて軒並み反対方向を向いており、あらゆる器官が原型と機能はある程度とどめているが軒並み内出血や損傷を起こし、心肺に至っては右手の残存魔力が無ければ死んでいたそうだ。そこに刃を振るった右手を中心に火傷が広がっている。


うん、まぁね?俺も把握はしている。というか前回使った時よりもだいぶひどい事にはなっていた。意識を持って居られるうちにある程度調べたが(1秒以下調べ)どうやら肉体の成長によって向上した強化倍率と魔力循環による肉体の元の性能の向上が問題なようで、現在俺ができるあらゆる保護装置のうち最も重要な魔力障壁と内臓の固定という命綱がほぼ機能していないというのが判明した。少なくともつぎ込む魔力を増やしても最早意味がないようだ。



……いや、ひどくない?毎日真面目に訓練してたらソレが俺の命削ってるとか理不尽過ぎない?たしかに全魔力とその後の肉体損壊を代償に一時的に俺が辿り着くべき肉体強化の極致を前借りしているというインチキじみたものだが、いや、逆に考えればこのまま真面目に成長していけばこの魔法に頼ることもなくなると思えば納得出来なくはない、だがなぁ…

「あんまり考え込んでいても怪我は治りませんよ?」

「いやぁ、これからどうしようかなって」

恐らく。というかほぼ確実にだがこの魔法を使う事を考えるならば長らく手をつけていなかった魔力障壁という魔法もどきの洗練と強化、刺青などを使った人体への強化魔法付与の実験、武器防具やそもそも別方面からのアプローチなどが必要だ。

また、俺自身カルテを見せられて漸く実感したが、無意識下に追いやっていたとしても肉体強化やその出力調整、魔力障壁の展開などの多重で多様な処理は脳への負荷が大きい、今俺が体がほぼ治ったのに医務室に押し込められているのも脳をはじめとする神経系と感覚器官全般の機能低下と不全が原因だ。


そう、実は俺目覚めてかれこれ一週間は医務室に寝かされている。目覚めるまでで一週間、目覚めて一週間で既に二週間経っているがスタンピートは予兆こそあれどまだ起こっていなかった。ちなみに例のギルド長の依頼は別の人の受け持ちになったそうだ。…ちょっと悔しい、が、あそこで街が吹っ飛ぶのも困ったし、ギルド長に発破をかけて結界を貰わないとあの時点の魔力量とソレ以前に邪視への抵抗ができなかった。


…というかそもそもなんであの時の俺はあんな臭いセリフを吐いた挙句英雄気取りであの竜に向かって自爆特攻したんだろうか、というかあのオラオラ系乙女ゲー攻略対象みたいな台詞のせいかギルド長(幻影ver)の頬赤らめる姿を毎日拝む事になって地味にきついし、なんで幻影被ってくんだよ、本体で来てよ、プラチナブロンドエルフの頬を赤らめる姿を毎日見られるなら癒されまくってその挙句に全部完治しそうな気がするのに…え?しない?知ってる。

「はぁ…」

「また溜め息ついてんな、竜殺しさん?」

「その地味に来る日替わり二つ名呼びやめてくんない?」

とりあえず今日も魔力障壁も肉体強化も発動しないようにしながら震える手足とぼやける視界と地味に味を感じ取りにくくなっている味覚が治るまで隣の彼女と喋る以外、やる事は無いのだった。



〜〜ギルド長〜〜



今日も彼の様子を見に行った。相変わらず幻影の姿は気に入らないようだがたまに見せる年相応の弾けるような笑みと私に迫った時のような不機嫌な顔が最高だった。

…あ…アババババば!?

「あああああああ!あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜!!!」

「ギルド長、いつまであの時のこと思い出して発狂してるんですか、というかいい加減顔をちゃんと見せに行ったらどうですか?もう正体は見せてるんでしょう?」

ば!馬鹿を言うんじゃ無い!断じて!断じて私はあんな子供に対して恋慕など抱いてないし!ちょっと凛々しいなとか思っているだけだし!そんな胸ぐら掴まれて耳元で囁かれるだけで堕ちるとか艶本じゃ無いんだから、ありえないし!というか発狂してないし恥じらっているわけじゃ無いし、ちょっと奇声が上げたくなっただけだし!?

「ソレはソレで問題ですよ…色ボケてないで下さい、孤児院の方に動きがありました。やっぱり奴らです。」


…百年の恋も冷める勢い、というか頭から氷水をかけられたようだ。相変わらず仕事が早い、流石は元上級冒険者だ。

書類を置いて去っていく茶色い髪をまとめた受付嬢を見送ってから資料を見る。実際には彼女が直接集めた情報では無いが冒険者が集めてきた痕跡から事実をより分け纏め上げるのは多大な苦労のかかる事だ。

「ふむ…」

儀式の術式は洗脳か、少なくとも古代魔法文明における召喚や使役に関する精神作用のある魔術である様だ。初級冒険者とはいえ魔法学園における最先端、術式魔法解析や魔法文明時代の魔法の研究者まで呼んで調査させた結果なのだ。事実魔道具によって写し取られた図像はいつだったか里で見た大精霊の召喚陣や異界の魔獣を使役する魔導書の原本で見た物と似ている。この辺は調査書をそのまま載せてある。やはりまだ魔術、魔法文明の話題は得意じゃ無いらしいね…いや、それよりも色々と対策を打たないとなぁ、もう一二週間くらいスタンピートが起きなければ警戒を解除して帰ってくる中級冒険者の皆を受け入れる準備もしないとなぁ…



『さっさと決めやがれっ!』

「んぴぃ!?」

思案中に突然彼の声で罵倒されへんな声が出てしまった。だがどこを見ても彼はいないし、そもそもこんな事をするのは…

『んぴぃ!』

『『んぴぃ!んぴぃ!』』

「あああ!もう!なんなのさみんなしてー!」

エルフの耳には精霊の声が聞こえる。彼らは世界に遍く魔力の管理者であり、調停者、しかしその多くは悪戯好きのお調子者達だ。

『イキオクレに春がきたー』

『『やーい、イキオクレー』』

…彼らは人々の無意識を飛び回り、様々な事を聞いて、様々な形で私に教えてくれるのだが…

『ショタコン女ー』

『『ドマゾー』』

「うがあああ!!」

執務室中に魔法を放ちまくる。このっ!余計なことばっかり覚えて来てっ!しかもなんでそれを的確に使ってくるんだっ!くの!このぉ!

幸い彼らにも実体はある。この新開発した土属性魔力の性質を存分に生かした『トリモチ魔法』を使えば折檻も可能だっ!よけんな!あたらねぇだるぉ!


そんな風に部屋をべたべたにしながら暴れていると突然扉が開かれてさっきの彼女が入ってきた。あ、待って今あけないでっ!タイミングがっ!?

「ギルド長!大へぶっ!?」

「あ…」

めちゃくちゃに怒られた。



〜〜ジェシカ〜〜



「ほぉ…じゃあ小僧があの竜を吹っ飛ばしたのか、たいしたもんじゃねぇか!がはは!」

「いえ、まぁそうなんですが…」

「わかってる。あの黒竜の素材とワイバーンの素材であいつの武器を強化しろってんだろ?まぁできなくはねぇんだがなぁ…」

私はまたあの懐かしい武器屋に来ていた。

「ええ、この爪と骨、皮もありますが…」

今回の事で確信しましたが、やはり彼には彼の体を最低限でも保護できる装備がないといけません、魔力障壁は永らく改良と変更を加えて魔力消費を最初の頃より1割削減したと言ってはいましたが、どう考えても今の彼の出力に対して貧弱すぎます。

そして私と彼が信頼でき、知る限り鍛治と錬金術の専門家は彼らしかいません、しかし快活な普段の表情からすると即決しそうなものですが…

「いや、そういう意味じゃあねぇんだ。…っち、すまんな嬢ちゃん、ここの設備じゃあドラゴンウェポン、いわゆる竜素材の武器は作れねぇんだ。」

「え?」

モールさんに続いてスミスさんが申し訳なさそうにいう。

「仕方ないんだよ、竜の素材には特殊な触媒を使った励起とそれによって力を取り戻した竜種の魔力障壁を突き破るか工具が必要なんだ。そして、残念ながらその技術はあるし、きちんと作ったこともあるけど修行先での話、言っちゃあ悪いけどここら辺で取れる素材にも上限があるからね、店を建てる時に設備投資を減らす為相応のものになっているんだ。」

「ああ、一応今の状態で切り張りして後から励起するって手もあるんだが…あの坊主の装備ってなると生半可じゃああいつの力でぶっ壊れちまう。正直言ってあいつの全力が嬢ちゃんの言うようなデタラメなソレなら今の防具も作り直さないといけないくらいだ。」

「…わかりました。ありがとうございます。」

二人はいつもの人の良さそうな笑顔を悔しそうに歪めていましたが、仕方がないことです。聞けば竜種の加工設備はそれだけで下手な貴族の財産が消し飛んでしまう様な額だそうです。

「おう、ワイバーン装備はキチッと作るからよ、ソレで今回は勘弁してくれ!」

「ま、素材を直接譲ってもらったし、採算がとれる範囲で頑張るから期待しててね?」

「ええ、お願いします」

…しかし得る物もありました。今まで知らなかったですがモール親方さん達は共和国出身で修行もそこでしてきたそうです。そして共和国南方には竜の巣があり、その近くには竜素材や温泉産業が活発な街があり、そこでならこの竜素材も加工できるそうです。紹介状もいただいたので今までのように行く宛も、頼るものもなく逃亡するよりも気分は楽になったと思います。


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