冒険者と空飛ぶ蜥蜴 2
『ココニイルナァ…』
「なっ!この竜!喋って!?」
「GYOOOO!?」
竜とは絶対的な強者だ。
俺は魔力障壁に回す魔力を増やしつつ大気の魔力を掠め取って出来るだけ状態を万全に近づける。最早ワイバーンも冒険者も関係ない、ソレが一瞥するだけでどれも等しく全てを物言わぬ白い結晶へと変えられていく。
「グラジオくん!大丈夫!?」
「グラジオ様!」
「あぁ…ま、なんとかね…」
背骨は優先して治した。内臓系は優先度を決めて出来るだけ状態を回復していく。俺自身の残存魔力は半分ほど、とっさに魔力障壁に2割振り込んで、1割で無理やり障壁に衝撃の強化をし自分で後ろに吹っ飛んでなかったら俺はミンチになっていただろう。
此処で、全魔力を失うのは避けたかった。ソレで分の悪い賭けに出たと思われるだろうがソレは事実とは異なる。
俺の処理速度、魔力操作ではソレが限界だったのだ。通常状態の俺が満足に支配できる魔力は全体の半分ほど、お世辞にも良い魔法使いとは言えないが、あまり頭の出来は良く無いのだ。
「あ゛あ゛!ゴッふ!」
喀血、まぁ、内臓が損傷しているのだこれくらいは問題ない、多分な?
「グラジオ様!薬草です。とりあえず噛んでください!」
「ありがとう。…はぁ…ギルド長、いるんだろう?」
俺がそういうと目の前に居た茶髪の受付嬢の姿がぼやけ、胡散臭いエルフスマイルが出てきた。
「ふふ…参考までに聞いておくよ、なんでわかったんだい?」
「左手で短剣を振る時、右腕を庇う動作に不自然さがあったし、明らかに魔力量が違う」
「なるほど…参考にしよう。それで、何用かな?」
焦っては居ない、しかし急いでいないわけでは無い、撤退する冒険者達に結界を付与して時間を稼いでいるようだが、まぁ、あまり長いこと話すことはできないだろう。
「ふぅ…勝算はあるんですか?」
ま、このエルフがそう簡単にくたばるとは思えないが、人類種が単体で到達し得る最高レベルでもまともに相手できるのは上級魔獣まで、あの竜は…確実にその上をいく本物の幻想種だ。
彼の顔は相変わらず貼り付けたような笑みだが…
「まぁ、五分かな!」
「まともに発動できてでしょう?」
輪郭がブレる。やはりその姿はなんらかの幻影なのだろう。そしてソレがエルフの持つ精霊魔法という奴なんだとすれば、今のこの場においてソレは最も最悪な魔法だろう。
「…はぁ、やはりよく勉強しているよ、君は、そうだよ懸念通りこの森にいた比較的平和に暮らしてきた精霊は殆どが何処かに散ってしまっている。召喚しようにも結界の維持にも魔力を割かないといけないからね、正直言って仕留められるかどうかは怪しいものだ。」
…俺は思考と脳力の強化を開始する。ちょっと嫌な耳鳴りがするが構うものか、要はぶっ壊れる前に済めばいいのだ。
「いい話があるんですけど、あの竜をぶっ殺せる手段に覚えがあります」
ジェシカさんが何か言いたそうだが…これはチャンスだ。あの竜をぶっ殺す為にあの魔眼が最悪に厄介なのだ。ついでで彼に恩を売れれば金も装備もましになるだろう。
「…別に君が何かをしなくてもいいはずだ。英雄気取りは嫌いなんだよ?僕は「じゃぁ、この街であの竜に致命傷を与えられそうな知り合いはいるんですか?あなたじゃあ無理でしょう?」…はぁ…」
幻影が吹き消える。おそらく。魔力の節約だろう。だが…その姿は…
「たしかにこのまま挑めば僕は十中八九死ぬだろうし、街も壊滅して王都にこれが行くだろう。だが、竜騎士がなんとかしてくれるさ、それまで耐え忍んで逃げればいい、そうじゃない?」
「ははっ!援軍はないんじゃない、出せないんだ。わかるだろう?」
町中の中級冒険者が出払うような事態、竜騎士も魔法貴族も恐らくどっかの国とどんぱちヨロシクしているんだろう。ギルドは相応の対価でその依頼を受け、王国は慢心した。すると白金の彼女は苦い顔をする。
「…賢しい子供だ。だがそんな体で何ができるよ、禁呪でも使うつもりかい!」
「うっせえな!手を貸せって言ってんだよ、ほら見ろ俺はもうこんなに元気だぜ?」
俺は飛び起きて彼女の胸ぐらを掴み、引き寄せる。目を見開く彼女に向かって悪態交じりに言い放とう。
「一瞬でいい、あの魔眼に耐えられる強度の結界を俺に貼ってくれ、ソレで終わらせてみせる。」
「なっ!」
〜〜〜〜
『いいから結界を貼りやがれうじうじエルフ!衝撃はこっちでなんとかする!』
なぜだろう。あの日見た彼に今目の前にいるあまりにも小さな彼がダブってしまう。
そもそも彼は今どうやって立っている。あの竜の一撃を生身で耐えたのか?いや、耐えたとしても明らかに重症だったはず。あんな傷を一瞬で治せるようなほど彼の魔力は多く感じられない、魔力障壁で覆っているとしたって…
「何考えてんだ。ギルド長、この街の冒険者ギルドを背負ってる奴がガキ一人とギルドどっちが大事かわかりませんってわけじゃねえだろう?」
「そ!…それはっ!」
一体何をするつもりだこの元貴族は、そもそも本当に魔法の才能が無い5歳児なのか?戦闘力は異常かもしれないがソレ以外に何かおかしなところなんて…!
「さっさと決めやがれ!」
「っ〜!」
すまない!すまない!私は…!彼を包む結界を張った。脅しに屈したのだ。たしかに彼のいう通り私じゃあアレを仕留められないし王都は今まるでガラ空きだ。
だが…彼に一体何ができるだろうか、何をしようとしてるのだろうか、あの男のように自信に満ちて熱意のある彼の顔には翳りなどない、だが、もし彼と同じなら…
「障壁、解除!」
その瞬間、私は笑っただろう。
まるでおとぎ話に出てくる英雄のような馬鹿げた魔力が広がり、一点に収束した。
〜〜〜〜
「30秒だ」




