冒険者と空飛ぶ蜥蜴 1
低空といっても50メートルほど上空の生物に剣は届かない、だがこの世界においてそれくらいの高さは多くの戦闘系冒険者にとって高さたり得ないのだ。
少なくとも、身体能力に関してだけいえばそこそこチートを自負している俺はワイバーンに飛び乗ってクッソ硬い障壁を自分の魔力障壁で中和しながら超振動パンチで殴りまくるという蛮族極まりない戦闘法で3匹ほど仕留めた。
「っと!これで四匹か…」
討伐証明の逆鱗を毟り取ってジェシカさんの近くへ持っていく。流石に戦闘中に剥ぎ取るのは難しいし、幻想種を綺麗に斬り裂けるほど器用に振動を調節できないので彼女に捌いてもらっている。買っててよかった魔導合金君、彼女の土魔法も巧みなんだろうがマジでゴイスーである。
「はい、なんとか戦えているようですね?」
「まぁね、だけどまだ上の方で火球を吐いてちょっかいかけてくるやつがいっぱい居るからね…」
しかしそれもあのマッサルという男がうち飛ばす砲弾でそれなりに落とせている。どうやら一部の風魔法使いも火球をくぐり抜けて奴らの足元で下降気流を発生させる事でどうにか地面へ引きずり降ろそうとしている。
だが…
「いや、ギルド職員さんマジバケモンだわ」
「ええ、彼らだけで壁の周辺に近づいたワイバーンは問答無用で落とされてますね、装備もそうですがかなりの練度です。」
あのおっとり系茶髪受付嬢もそうだ。左手に構えた短剣を振ったかと思うと上空のワイバーンが膾切りにされている。やはり中級以上の冒険者は化け物だ。
「行ってくる!」
「ええ、魔力の濃度が上がっているので横槍に気を付けてくださいね?」
ジェシカさんは少し不満そうだ。いや、まぁそりゃあそうだろう。彼女も元は一端の冒険者、装備が触媒くらいしか無いにもかかわらず。ワイバーンを苦もなくさばいているその土魔法の練度を見ればフル装備でどうなるのか想像もつかない…と言うか多分、彼女も暴れたいのだろう。
…というかフル装備になったらまた訓練をつけてくれるらしいが俺は無事でいられるんだろうか?
〜〜〜〜
戦況はおそらくそんなに悪く無いんだろう。
「バッシュ!飛んできて!」
「わかった!」
アンジェリカさんの声に合わせて跳躍すると風属性の魔力が足にまとわりつき一時的に体重を軽くし跳躍力を上げてくれる。周りの人も皆一様に跳ぶか矢を射るかだ。その中でやはりというべきか、異彩を放っていたのは彼だ。
「調律!」
グラジオ君、彼は自らの肉体を強化し跳躍する事でワイバーンに取り付き、発光する右手でどういう仕掛けか魔力障壁を貫いている。なんていうかあの試験の日からむちゃくちゃだとは思っていたけど、ここまでくると勇者の血が流れてるって言う僕はマトモな身体能力勝負でかてるきがしないよ…人は自分の身長より少し高く跳べるくらいが普通なんだ。本当に何の気なしにやっているけど彼は降りてきてなお見上げるような高さのそれに跳躍のみで取り付いている。これがどれほど可笑しなことか…
そんなことを思いながら僕も羽や胴体を足場に双剣を連続で叩きつけ障壁の禿げた場所から本体へダメージを与えていく。
魔獣の何が厄介かってこの魔力障壁だ。これがあるせいで魔獣は通常の生物よりもうんとダメージを受けにくくなっている。
「だけど!」
幻想種って言うお陰で中級魔獣レベルの強さだとされているワイバーンは防御力だけで言えば下級の魔獣と同程度、つまり…狩れるってことだ。
「なんとか6体目ね…」
「ああ…ザックがいればもうちょっと楽なんだけどね」
「あら、この程度でへばっているの?勇者様?」
僕が首を切り離したワイバーンを一匹作る間にシルヴィアは大気の中の水を操ったり、魔力量に物を言わせてワイバーンを次々と狩っていく。やっぱり魔法は何かと便利そうなんだけどなぁ…ちょっと勉強が、ね?
「うふふ…あのマッサルという輩もなかなかの身体つきですわね…ですがやっぱりグラジオ君はぶっ飛んでますわぁ!」
上を見ればグラジオがワイバーンを足場に次々とジャンプ台にして地上に叩き落としている。なんだかもう絵本か娯楽小説みたいな絵面だ。…魔力循環、まだ魔力を感じることもできてないけど、頑張って習得したらあんな感じになれるかなぁ…
「いやぁ、僕も頑張らないとね!」
〜〜〜〜
「うぉぉぉ!1up!1up!1up!イヤッフー!」
自分だけじゃあ仕留めるのに時間がかかるなら敵を地面に叩きつければいいじゃ無い!という事で超人気テレビゲーム的巫山戯た動きでパーティーの近くにワイバーンを叩き落としていく。勿論、ただ叩き落とすだけでは無い、跳躍によって背骨やら翼やら、運が良ければ頭を叩き潰すようにして出来るだけ飛行能力や生命維持能力を奪いながら叩き落としている。
というか…
「なんか減ってねぇ、なっ!」
「「GYOOOO!」」
そう、減っていない、増えてはいないが全体量がさほど変わっていないように感じる。戦闘開始から既に30分ほど経過している。殲滅速度は未だ衰えていないはずだが…いや、そもそも最初から空を埋めるほどいたわけでも無い、たしかに千かそこらの数だったはずだ。
今ここにいる戦闘系冒険者はおよそ100人ほど、俺は今のところ数十匹単位で下に叩き落としているし、あの大理石像さんもフルスロットルで敵の胴体やら頭やらを撃ち抜いている。メイルリーンの彼女も大気中の水分を操るとか、なんかチートじみた術式魔法で圧縮された水のビームを撃ったりして凄まじい勢いで命を刈り取っている。他のパーティーも四、五人のグループで平均5〜6体は屠っている。正確な数はわからないが少なくとも今この戦場ではワイバーンで地面に足の踏み場がなくなってきているほどだ。
上から見ている限り火葬している魔法使いや素材を回収している奴らも結構死体を運んでいる。
…何かが妙だ。
全体の1割2割くらいは削っているのに目減りしないとか流石におかしい、気のせいかなとか、気のせいならいいなとか思っていてもやはり妙な感覚がある。
「なんだ…?」
…そうか!と、俺が致命的な勘違いに気づいた瞬間、俺はワイバーンだとしても細り過ぎたソレが怯えたのを見た。
次の瞬間、超長距離からの狙撃めいた魔法によって街の門に叩きつけられていた。
「っぶっへあ!」
一瞬背骨と内臓が逝ったが、2割ほどの魔力で自己再生した。口から血反吐を吐き捨て、空を睨む。
竜だ。
わかってしまった。
彼らは集まってきたんじゃ無い、追い立てられてきたんだっ!
『GUOOOO!!!』
強者、絶対的な強者、幻想種の王者が正しくそこに居た。




