まるで転がるように
「ま、作るのにさほど時間はかからねぇ、造りもいたって普通の斧かそれよりも大雑把な方がいいだろうから明日の夕方には出来てるだろうよ、金は今でも後でもいい!」
「ぶっちゃけくたびれ儲けって感じだけどね〜」
「ありがとうございます!申し訳ない!」
兎にも角にも作ってくれるのだ。感謝するほかあるまい…いつになるかはわからないが、この先俺が一級品だと思える素材を手に入れたら彼らを頼ろう。
そう思っていると流石にそこまで広くないこのお店の中なら判る俺の魔力感知が二つの波動をキャッチすると同時にドタンバタンと何かがもみ合う様な音が聴こえてきた。作業を開始したモールさんの槌の音があるのにこんなに盛大に音が聞こえるのは流石におかしい、女性二人のキャットファイト的なアレで無いかもしれない、そうなれば俺を狙った暗殺者だと思うのだが…
「いや、多分二人に喧嘩だねぇ、いやー懐かしいなぁ〜」
「えぇ…本気で言ってるんですかスミスさん?」
「ああ、勿論さ!けど店の中でやられるのは困るからね、止めに行こうか?」
幸い何が割れたり、砕けるような音はして居ないのだが明らかに殴打的なサムシングの音が響いている。およそ人類が殴り合ったとは思えない、というかジェシカさんとリンさんだぞ?あんな細腕のどこからこんな音が…
「はは…忘れてないかい?彼女らは名門出の魔法使いそれも両方とも土属性魔法使いだよ?」
彼女らを運び込んだ部屋の扉を開けるとそこには…
「「ガルルル…」」
「や、野生に帰っている」
「いやぁ、何にもない空き倉庫があってよかったぁー」
身体強化によって両腕を金属化した女性2名が魔力循環によって強化された肉体性能と土属性魔力の性質を利用した高速機動でガチ喧嘩している姿があった。
「負けられない戦いが!」
「ここにあるんです!」
この世のものとは思えない、というと言い過ぎだがおよそ人体同士が発したとは思えない殴打音は金属化した拳同士がぶつかる音だったようで一安心だが…
「いや、安心する要素ないわ」
「はいはい、二人ともそこまでだよー」
俺が一人でノリツッコミしている間にスミスさんは腰のホルダーから試験管を一本出してキャップを開ける。そして少量の魔力をその金属に与えるとその体積と形状が急激に変化、一瞬で二人を拘束する金属の鎖が部屋の側面中から彼女らに向かって放たれた。…そこはかとない鎖の動きの荒々しさ、ふと横を見ると彼の顔にちょっと青筋が立っていた。
鎖で簀巻きにされた状態で正座させられた二人は青筋の立っている彼を見てスッと冷静になったようだ。…というか起き抜けになんで喧嘩する流れになったんだこの二人、てかジェシカさん実は学園時代はやんちゃだったんですかね?
「申し訳ありませんでした…」
「ごめんなさい…」
「いいですか、この店の中だったので僕に怒られるくらいですみましたけど、街中であの規模の戦闘を起こしたら犯罪ですからね、犯罪…なんか、魔法使いの人ってそういうところがガバガバで嫌なんですよね、というかそもそも二人とももういい歳なんだからこんな子供みたいな喧嘩しないでください、ていうか婚期逃したとか年齢とかそういうことで喧嘩するんだったらもうちょっと真面目に良い人を探して下さい、流石に昔は十代だったというのもあって見逃して居ましたが、本当にもう成人して何年経ってるんですか?分かってます?喧嘩が強くても結婚できないんですよ?」
矢継ぎ早に放たれる正論とお説教、というかやめてあげて下さい、二人とも良い年とかそこらへんで凄い凹んでるんで、そこらへんにしておいてあげたほうが…
「ははっ、グラジオ君、良いことを教えてあげましょう。…くだらないプライドは、折っておくに限りますよ?」
「アッハイ」
優しげ、というかモールさんと一緒にいると相対的に柔和な表情と丁寧な言葉を使うスミスさんは若作りな容姿もあってなかなかに人当たりに良さそうな感じがするが…訂正しておこう。この人、ドSだ。
「ま、今日はグラジオ君が見ているんでこれくらいにしておきましょう。リン君は暫く店掃除をして居て下さい、ジェシカ君は…何か商品を買って下さいね?」
「「はい!」」
笑顔は攻撃的な表情であると何かで読んだことはあるが、それは多分笑顔を向けられた人が何か負い目があるからだと、勢いよく返事する女性2名から感じた。
赤面してもじもじするお姉さん、と、いうとなんだかエロティックだが、事実エロい!
「あの、ですね、別にあれが素というわけでは無くてですね?」
「うん、そうだね」
「あれはその…旧友と久し振りに出会ったが故に起きたハイテンションの産物で…」
「うん」
「…信じてませんね?」
ソンナコトナイヨ?
揶揄うのはそこらへんにして俺の装備の受注が終わったので次はジェシカさんの装備だ。今更だが、魔法発動には主に二つの補助器具がある。一つは杖の役割を持つ発動補助器、もう一つはアミュレットや魔導合金などの触媒だ。スミスさんがさっき使ったのが触媒なのだが…まぁ、凄まじい性能だ。そしてお値段も凄まじい…
「俺の装備セットで金貨一枚なんだけど…」
「魔法使いは出費がかさみますからね…」
この店に置いてある最低レベルの魔導液体金属触媒、使用限界二十回の使い捨てタイプで銀貨60枚、武器も消耗品だが触媒は本当の本当に消耗品なのでそれで銀貨60枚はもはや笑ってしまうレベルである。
「だけどさっき見たあの触媒でしょ、これ」
「ええ、そうですねこれがあれば魔力消費が100分の一で金属にまつわる物質召喚や高品質な武器生成などが行えます。正直言って魔力に乏しい私のようなタイプの土属性魔法使いにとっては必需品です。」
「…もう諦めて身元と魔力の検査をしてもらって装備品だけでもギルドから出してもらう?」
「いえ、倉庫を使えるのは中級冒険者からですし、私の昔使っていた冒険者証は失効しています。あれがあれば色々と過程を省けなくはないですが…」
「ま、ギャンブルすぎるね」
そう、なんだかんだ言ってやはり俺たちは未だ逃亡者である。せめて隣国に行くまではできるだけ生存を隠蔽する努力をしなければいけない、公的に死んでいることになっていれば教会の石碑が生存を示していても死亡認定が出る。というのも謎の神隠しや魔法実験の失敗で異界に飛ばされたりしても生存を示したりする場合があり、完璧とは良いがたいのだ。
ギルドも中立を謳ってはいるがある程度繋がりは持っている物だ。そうでなければ販路が得られないし、利益を出すための取引には相手が必要不可欠だ。
「うーん、金貨一枚の魔法発動の補助機はどうかな?」
「悪くはないんですけどね…やはり性能的に触媒の方が良いと思います。発動補助器は回数制限はないですし汎用性もありますがそれだけに軽減率も威力向上も期待できる範囲がかなり小さいです。それに、言い方は悪いですが中途半端な物があっても効果はあまり期待できません、それこそ特化した物を状況に合わせて付け替えるくらいじゃないと…」
とまぁ、色々と話し合った末に最低ランクの鉄合金液体魔導金属とそれを携行する為の革のベルトを購入し店を出た。
随分と財布が軽くなったが装備品が少しでも充実したのは前進だ。ジェシカさんのは気休め程度になってしまったが、俺のは継戦能力も戦闘力も上がる。これでスタンピートを乗り越えるのも、孤児院がらみのよくわからない陰謀もなんとかできると良いなぁ…そう思いながら大通りに出ると妙に騒がしい、というか人の波が王都の方へと向かってうねり、怒号が飛び交っている。
「これは…」
「一体何が?」
そういうと背後から無駄に爽やかな全然聞きたくない声が答えを押してくれやがった。
「ワイバーンだよ、しかも群のね?」
「ギルド長!なんでここに!?」
「ははっ!それは良いから彼女に武器を下げるように言ってくれよ?」
いや、背後から突然声をかけられれば誰でもそれくらいする。こんな物騒な街じゃ尚更だ。俺はそのまま話を聞こうとしたが…それは近くまで飛んできた火球によって遮られ、その間に彼の姿は近くも家の屋根の上に行っていた。
「ま、君らも冒険者ならわかっていると思うけど、戦えるならもんの方にきてくれ、残念ながらこの街は防壁と簡易な結界はあるけど、上空からの襲撃はそもそも想定していなかったのでね、少し結界を貼ってくるよ!」
そう言い残して彼は颯爽と街の中心の方へ向かっていく。俺と彼女は一瞬顔を見合わせたがすぐに門の方へと向かっていった。すでに戦いは始まっている。これを皮切りにスタンピートが始まるのが思いつく限り最悪なパターンだが…まぁ、
「すでに最悪か」
この周辺には居ないはずの劣等竜、あの性悪そうなギルド長なら竜種の周辺に群れる性質があるやつらが来るのは予測していただろうが、どうなるかな?




