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クマァァァ!


「フゥゥゥ…」

魔力障壁を変質、思考速度を強化、循環のギアを上げる。

奴はレイジベア、怒熊だ。ツノは魔力の収束をするための杖の様な役割であり、魔法は使わないが指向性のあるハウリングに角を利用して魔力を付加し外敵を吹き飛ばし、人種を超える速度で行われる魔力循環と強靭な心肺機能から生まれる狂戦士の様な連撃と破壊の嵐はまさに『怒り』というものに他ならないだろう。

特殊な状況下であるがゆえかいつか図鑑で見た時よりも赤黒いそれは強靭な肉体も合わさりたった一撃で地形を変形させたのだった。

「やばいねぇ…この子はちょっと遠くに置いとかないとまずいな」

拳を構えた状態から構えを解き、あの熊の手に魔力が溜まるのを見ながら子供を抱えて城壁の方に走ったが…凄まじい、先ほどまでいた場所はすり鉢状にへこんでおりまるで隕石でも落ちてきたのかと見紛うばかりだ。

相手の破壊力を見誤った。無防備な状態の子供があそこに巻き込まれていればミンチどころか死体が残るかどうかも怪しいレベルだ。

「仕切り直しと行こうか!」

熊は真っ直ぐにこちらを向いて再度吠えようと口を開ける。俺は一瞬だけ足回りの強化を暴走状態にして加速、瞬間的に足が砕けるが即座に回復、その状態で顎下からアッパーをかましてカチあげる。相手の魔力障壁と自分の魔力障壁で干渉しあい突き抜けた拳に伝わるのは骨の砕ける感触、だがまだ止まらないだろう。頭のあたりを横薙ぎに振られた剛腕をしゃがんで避け、そのまま超近接戦に持ち込む。


一瞬一瞬で部分的に強化する分には全身を壊し続ける様な場合と違い魔力消費も苦痛も少なくお得だ。問題は自分で自分の骨を折るという決断ができるかどうかにかかっている。勿論最初はできなかった。あの時は初めてだったというのもあって後先考えずにやれたが、後先がわかった2回目以降は自らの手で自らを壊すという恐怖が付いて回った。

だが、そう呑気なことも言ってられなかったのが俺の悲しいところ、屋敷で奴隷の様に働いていた時耳にしたメイドたちの噂、まぁ大方の予想通り俺は10歳を待たずしてこの家を追放されるというアレである。非常にやりたくなかったがいつのまにか幼女とかしたアナスタシアに無属性魔法による強化の実験資料(ブラフ入り)を叩きつけて裏を取った。これが俺様3歳いまから2年前の話だ。

そっからもう死ぬ気で、それこそ精神構造を作り変える様な勢いで訓練と学習に打ち込み、一年かけて恐怖を緩和、そこから半年でこの瞬間的強化、皮肉込みで『イグニッション・ブレイク』と呼んでいるがこの技術を習得した。


「っつ!」

「Gaa!」

武器がない以上魔獣への有効な攻撃はこれしかない、粉骨砕身(物理)で殴りかかる。…こうなってくるとやはり文明の利器は偉大だ。鋭利に研ぎ澄まされたヤイバは簡単にこいつらの障壁を突き抜けるだろうし、せめて俺も籠手ぐらいあれば強化で鋭性と硬化を付与するだけで随分変わる。

「うだらぁ!」

「gu!gooooo!」

魔力残量は8割、右腕はほぼ消費なし、泥まみれになりながら避けて殴ってを繰り返して戦い続ければ俺より先に倒れるのは目の前の熊野郎だろうが…それでは日がくれてしまう。ならば…

(出すか?魔石刃)

流星めいた勢いの拳が降り注ぎ、血なまぐさい噛みつきが地面スレスレから這い上がってくる状況で、俺はまだ冷静な思考を持てていた。

強化されているのもそうだが、脳裏で描く軌跡通りに肉体を動かせる様調整してきた。考えた通りに動ければ戦闘中の思考は少しだけ楽になる。武術において基本とされる型、それ通りに技を放つことで放つ技を取捨選択するだけである程度戦えるのと同じ様に、やるべき動きのパターンを決め、それ通りに体を動かせる様になればそこから先は選び間違わなければいいだけの話である。

(ま、そうは言っても全然なんだけどね)

動きの完全掌握などまだまだ先の話だ。俺がやっているのは魔力障壁を使って擬似的に理想的な動きを再現する裏技、純粋な技量ではないがこと実践において使わないという選択肢は存在しない!

だが魔石刃は違う。出した後数秒の魔力の大量消費による感覚麻痺、現状8割程度の魔力を3割ほどにまで落ち込ませる燃費の悪さ、仕留めそこねればそこで終わる諸刃の剣だ。

…いや、ダメだな、出せない、現状の運動量を保持したまま魔石が伸びるほどの魔力放出を可能とするほど俺の頭は良い訳ではない、だが別の案が浮上した。

強化を施し一気に距離を詰める!


メゴォ!と生物が生物を叩いたとは思えない衝撃音とそれによってもたらされた破壊が宙に浮いたレイジベアの中を駆け巡る。


昨日やった魔力暴走、強化された脳によって魔石刃より少ない魔力で奴の中身をミキサーにかけた俺は強化を解除、数秒程度の強化ならば頭痛は無いようだ。だが…

「うん、ひどいなこれは」

いつのまにか街の壁の方にかなり押し込まれていた上に水場から此処までほぼ一直線にクレーターとなぎ倒された木の幹が転がっている。自分で言うのもなんだが、やはりピーター氏は頭がおかしい、なにせ徒手空拳で魔獣と戦ってもその手足はやすやすと魔力障壁を抜き、首を斬りとばす。

「…うん、修行だな、修行が足りないんだ。キット!」

…とりあえずこの熊と子供を抱えて帰ろう。森の調査としては落第だが、色々とおかしな点はあった。それを報告すれば少しは金になるだろう。

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