知らせの価値、命の価値
裏路地は薄暗く。バカな殺し屋に絡まれることも多い、俺はさっさと大通りに出てギルドへ戻った。目の前まで来るとまた罪悪感的な暗い感情が湧いてきたが…まぁ、早々に彼らに会うことはないだろう。そう思って扉を開けた。
「あ!待ってたよグラジオくん、探してたんだ!」
「わぁ、彼がそうなんですね〜」
「ぴょっ」
目の前に今朝の冒険者、俺はあまりに驚いたためか今まで出したこともない様な妙な音が口から飛び出た。なんでこんな所に居るんだ!というかなんで今朝心停止どころかほぼ死んでいた様な彼女も二本足で立っているんだ!?もう快復したっていうのか?
俺の動揺を気にすることなく彼彼女らは俺の元へ駆け寄ってきた。
「彼女を、シャルロッテを助けてくれてありがとう!」
そして真っ直ぐに、あまりに率直かつストレートな感謝が放たれた。
「私からも…ありがとうございます。」
彼女の感謝はもっと切実だった。なにせ生きるか死ぬかの場所を彷徨ったのだ。ここまで真っ直ぐに感謝されれば俺がどうだとか以前の問題だ。受け取らなければ礼を失する。だから俺は笑って言う。
「ああ、こちらこそありがとう」
何だかんだ流されたとはいえ彼女の命が失われなかったと言う事実に俺も感謝した。
「…それでだ。ちょっと話したいことがある。食堂まで来てくれないか?」
だが和気藹々とした雰囲気はここまでで青年の雰囲気が冒険者のそれに切り替わったのと同時に俺も気を引き締めた。
「俺たちは4人パーティーでそれぞれ魔法攻撃、索敵、大楯使いと剣士で構成されてる。まぁ、自分で言うのもなんだけど中級まであと少し、今回の依頼をこなして装備を刷新すれば中級試験に臨めるくらいの力量はあった。」
まぁ、今はもう解散するかどうかの瀬戸際なんだけどね?と自嘲気味に喋るのは青年冒険者、名前はハサム、短めに切りそろえられた黒髪と浅黒い肌に異国情緒あふれる顔、おそらく東方系なのだろう。
「…いいのかなぁ、ハサム、リーダーはまだやる気なんでしょ?」
「情報は共有されるべきだ。特に僕らはもう再起不能に近い、君だって魔力も体もしばらく元には戻らないしリーダーも装備や負傷を快復するのにかなりかかる。」
シャルロッテは青い髪に魔法使いと言うよりは魔女といった風体で、指輪や腕輪などの装飾を人よりも多くつけている。一瞬貴族か何かかと思ったが、そのどれもから魔力を感じるあたり魔法使いとしての能力を補助するための品々である。
だが、彼女はその見た目の真っ当さ通りの懸念を言っており俺もちょっと動転していたが、今正気に戻った。
「いや、色々と教えてもらえるのは嬉しいがシャルロッテさんが言うことが正しいだろう?リーダーがまだやる気なのに森の探索情報を流すなんて…」
俺がそこまで言うと青年が手で制する。
空気が変わる。
「いや、ギルドから懸賞金ももうもらったし、何より…この話はギルド長から今夜中にでも告知される。それだけヤバイってことなんだよ、なにせ…
今の森には竜がいるのさ」
その後、森の現状や遭遇した魔獣など色々と聞いたがほとんど上の空だった。
竜である。
ドラゴンである。
「まじか…」
たしかにこれは異常である。スタンピートだとか自然のもたらす循環だとか、そう言うものを超越した幻想種、そんなものがいればどんな場所でもこうなるだろう。
絶対的な上位者に逆らえる者はいない、ましてや動物や魔獣は獣であるがゆえに敏感だ。
「まじかぁ〜」
だが俺が悩んでいるのはそこではない、その竜とやらが強大であると言うのはわかるし、それが異常の原因かもしれないというのもいいんだ。重要ではない、重要なのはそんなヤバイものが王都近くにあれば魔法貴族や騎士がこぞってやってくるかもしれないという事だ。俺は今のままではガラフやアナスタシアに勝てない、そして彼らにとって俺は汚点、消し飛ばせるなら消しとばしたい塵芥だ。意図的な子殺し、親殺しは神によって禁じられているがうっかりや事故はそこに入らない、大規模魔法に巻き込まれたり、余波で吹き飛んだりする分にはお咎めなしなのだ。
…憂鬱極まりない!
「それでだ。グラジオくん、実は君に折り入って頼みがある。」
青年冒険者くんの話は続いている。何やら俺に頼みがあるらしいが今の俺は今後どうしようかでいっぱいいっぱいなのだ。
「ドラゴン相手に騎士団や王都の貴族は動かない」
「まじで!」
…おっと、うっかり大声をだしてしまった。
「ゴホン…すまない、続けてくれ」
「いや、まぁそういう反応になるよな、わかるよ?」
「まぁねぇ〜」
違うんだ二人とも別に俺は落胆や王都の貴族達の不可解さに声を荒げたわけではないんだ。…って、言っても別にいいことないし、よくよく考えると普通ならそこ以外に驚きはない、勘違いというのは気持ちが悪いが、そのままにしていてもらおう。
それにかなり妙な話であるというのは事実だ。魔法貴族もただの貴族も騎士ですら出てこない、それも竜殺しというだれもが欲しがるような称号を前に、である。
戦時ではあるが王都の暮らしに揺らぎはなく。あらゆる物資において高騰や現象が見られないエレメント魔法王国は素晴らしい国力を持った人類の国家だ。その中でも軍事力は圧倒的で魔法による兵器や宮廷魔導師団、正騎士団はそれぞれが一個につき一つ地形ごと相手を粉砕するような魔法や奥義を持ち正に大陸最強、最大規模の軍団だ。
だがそれ故に正直言って武勲というものの意味は薄い、なにせ戦略とかそんな物関係なく盤面を端から端まで粉砕できる手札でできたデッキを使っているのだ。人類相手に戦って勝てない方が恥である。なのでそれを構成する多くの貴族や魔法貴族に戦働きによる勲章が足りていないのだ。
そこで魔獣や幻想種である。
対人戦や大軍戦ならば無双を誇る聖騎士や宮廷魔導師だが、そんな騎士が束になってようやくという怪物揃い、戦争のために練り上げた技は対人用、対軍用であるために化け物狩りには向いていない、それ故に人間の持ちうるスペックを群れにではなく個に放つ様鍛え上げられた冒険者という存在があるのだが、国家における大事にまで彼らの手を借りていれば騎士や魔法使いの名折れである。
今回のような大規模な魔獣の氾濫や竜種の出現などがあれば我が物顔で出張って来そうなものである。
「じゃ、続きを話そう。君に頼みたいのは遺品の回収だ。」
「…ほう?」
彼がそういった瞬間に彼女が押し黙った。つまりそういう事だろう。
「実は僕らは二つのパーティーで行動していた。僕らがなんとか森を出てこれたのは彼らが身を呈して壁になり、ギルドへこの報告を届けさせるためだ。」
「個人主義の冒険者、それも今いるのはほとんど入りたてだって言うのに…なかなか見所のある奴らだったらしいね」
彼は目を伏せ、また少し目から光るものを落としてそれを隠した。…まじかよ、そんな絵に描いたような良い人ってのがいたのか、驚きだぜ?
「場所は大体わかっているんだけど…そこまで僕やシャルロッテだけじゃあ到達できない、だけど少しでも早く行かないと森に呑まれてしまう…っと、ここまで喋ったけど別に君は特別というわけじゃないんだ。」
「まぁ、そうだろうな」
冒険者同士での頼みごと、探索するついでに遺品を回収してほしいというのはままある事らしい、仲間の捜索や救出というのもある。
「他にも何人かに頼んだんだけど、ね、正直言って今の森は生きて出られれば運がいいという風体さ、君も仲間を見つけて慎重に進んでくれよ?仲間の恩人が次の日には死体になってるなんて、笑い話にもならない…」
「ああ、気をつけるよ」
俺がそう言って去ろうとすると彼は一瞬俺を引き止めて小包を投げて渡して来た。これは…
「今回僕らが手に入れた報酬金の一部さ、ま、シャルロッテの取り分だから僕はいくら入っているのか知らないけどね?」
そう言って彼は小銭入れというにはいささか軽すぎたそれを馬鹿にするようにする。が、そいつは悪手であろう。俺が見るまでもなく、彼の背後には青髪を魔力で逆立てた魔女がいた。
「ふーん?ハサムは?私が命を安く見るような女に見える訳ね?」
「あ、いや、うん、キットガクサンハイッテ「お仕置き、確定ね?」あばばば…」
…中には金貨が一枚、どうやら彼らの功績は魔獣の異常発生の兆候なんかと同じ金貨10枚分で処理されたらしい、まぁ、これだけあれば彼らの装備の刷新や強化はできるだろう。
「…ま、お守りだな、これは」
冒険者、個人主義者の集まりと聞いて警戒しすぎて損はないと思っていたが、案外と善良な人が多いのだろうか?




