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ラン!ラン!ラン!


「クシシッ!なかなかいいじゃないか銀貨20枚あればいろいろできる!」

荷物は大きいが足取りは軽い、やはり出てきたばかりのヤツはカモだ。それに私から荷物を盗まれるような奴は冒険者だろうが傭兵だろうが大成しない、大成しなけりゃ追ってくるような事もない、物語の勇者様の様に追っかけてきて私を救ってれるならばそれはそれで良いだけれど仕事は順調な方がいい…それがたとえ犯罪であるなら尚更だ。

「っと、流石に追ってくるか、ちょっと見覚えがあると思ったらあれだね、例の人じゃん」

「クッソ、厄日って続くもんだっけ!?」

ちらりと振り返り顔を見れば酒場であの際どい格好のメイドが配っていた手配書の顔、ま、私には関係ない、今日も今日とて神様って言う名の誰かからもらったコレでセコセコ走るだけだ。

『大地と空の間を駆ける健脚を』

心の中でそう唱える。それだけで私は自由になれる。地面も壁もすごく短い間だけど空中すらも全て全て私の足が届く限りそこは私だけの世界だ。

私の祝福は『天と地の間を駆ける脚』魔力と足が動く限り、私を捕らえられるものは「すごい笑顔のとこ悪いけど荷物は返してもらう」…は?え?

荷物がパッと手元から抜ける。

いや、待って、私は壁を大人でも出せない様な速度で走って移動したはず、冒険者に成り立ての、しかもこんな子供がどうして私の横にいるの!?



〜〜〜〜


いやー、びっくりした。まさか彼が『韋駄天』の加護持ちだったとは、走る速度が早いなとは思っていたけど、まさか肉体強化と魔力循環で漸く追いつけるほど早いなんて…いや、正確には追いついたんじゃないんだけどね?

「なんで!?」

「追いついたか不思議か?」

俺は彼に罪を問うつもりはないが、あいにくと彼の方はそうではないらしい今朝の冒険者崩れよりもいいナイフを慣れた手つきで突きつけてくる。が、さすがにド素人、ナイフよりも鋭くて早いモノを繰り出す体術使いとか、早くないのに早く見せる暗殺系メイドとかに鍛えられてきた俺をナメンナヨ?


韋駄天の加護はその汎用性、強力さに対し加護の中でほぼ唯一呪いめいたデメリットがないことで有名だ。あの勇者くんの様な狂戦士化や不死身めいた再生能力の様な人を超える様な加護ではないが、やはりデメリットが無く。強力と言うのがいちばんの売りだ。

「う!うー!!なんで当たらないんだよ!」

「さて、如何してだろうね?」

鋭く。速い斬撃、韋駄天の持ち主である以上に肉体の瞬発性と柔軟性がある。有り体に言って才能があるタイプだ。

ま、そうは言っても直線的な素人剣法、如何に早くともズレるだけで簡単に空振る。

問題は振り抜いただけでカマイタチ的なサムシングが発生するのは頂けない、地面や壁面をえぐり取るそれらにヒヤヒヤしながらナイフを弾き飛ばす。

「あっ!?」


韋駄天の加護は風や天空の神が与える加護である。その効果は大まかに二つ。『加速』と『歩行』への異常な補正だ。

加速は走るだけでなく加護を理解し、適切に魔力を運用することで肉体の動きはおろか、古代史に残る様な偉大な勇者はこの加護を用いて時間すら操ったと言う。というか実際に現代に生きる韋駄天の加護の持ち主が物体を加速させることに成功している。

歩行は文字通り歩くこと全般、というよりも足を動かし体を前に進めるという行為に対する補正であり、空を歩いたり壁に対して垂直に吸い付いたり…元冒険者であり現代最高峰の三つの加護を持つ人物は海を渡るなど魔力やそれ以外のなにかを代価に歩くこと全てにおいて凄まじい恩恵をもたらす。

一見俺が追いつける様な余地のない無駄のない構成だが、それは加護の力が最大限に発揮できていればの話だ。

「っ!」

「危ない危ない」

まず、彼が未熟なこと、それに加えて曲がり角や壁を走る際速度が緩むこと…直線や単調な軌道を描いて駆け抜けるならまだしもこんな狭い路地で最高速を維持したまま走るなんているのは無理な話であるし、全力を出した状態で壁に当たれば自分が挽肉になる様な加護だ。故に俺は加護が全開の彼を追い抜いたのではないし、俺の身体能力は特化型の加護持ちに追随出来るようなものではない、故に俺は彼が壁を駆け上がろうとする一瞬そこに追いつける様に小細工を弄したのだ。

「っくぅ、もういい!」

俺にナイフが当たらないのに痺れを切らしたのか、それとも何か他の理由があるのかわからないが彼は捨て台詞めいた物を吐いてボール的な物を投げて三段跳びで屋根上へと飛び出していった。勿論、追いかけても良かったがボールから噴き出した煙で視界が閉ざされ、その一瞬で完全に彼を見失った。

まぁ、仕方あるまい、本当は少しこの街の裏側について聞きたかったのだが無傷で捕まえることができなかったのは単純な俺の技量不足だ。というか、生存法ばかり修行してきた故か0か100しかない現状を本格的にどうにかしないとまずいかもしれない、俺は袋を担ぎ直し銀貨や鎧の音が聞こえるのを確認して………?

何か嫌な予感がする。最初はあったはずの紙と布が擦れる様な音がない、俺は袋を逆さまにする。

折れたダガー、鎧、銀貨袋…

「あ、スクロール盗られた」

一番得体が知れない上に封ぜられた魔法によってはこの街の一部が消失したりする様な事もある。話によれば魔法のスクロールは二種類あり現代の技術で編まれたものともう一つ、古代遺跡などから出る神代や古代のスクロール、ないとは思うがもしも危険なものだったりなにがしかの遺物だったならば…血の気が引く。

「まずいかも知れない…」

だがしかし、今から彼を追いかけようにも手はない、逃がした魚は大きいし危険だが…とりあえず自分に火の粉がかからないことを祈ろう。


〜〜〜〜


「はぁ…はぁぁ…来て、ないよね?」

久しぶりに全力で走ったかも知れない、私は加速によって失われた空気を大きく呼吸をして取り込み、弾む胸を押さえつける。銀貨や鎧は惜しかったしできれば銀貨の一枚でも抜き取ってやりたかったが取れたのは魔力が篭った羊皮紙、スクロールならば街の裏にいるブローカーに売れるだろうが中身が分からなければ意味がない…

「収穫ゼロか…」

まぁでも気にすることはない、つい1年前に見つけた町外れの森に呑み込まれかけた廃墟は今日もきちんと住処として機能しているし、裏路地でみんなで吹き付ける風や降りしきる雨に濡れて凍えることもない、それにみんなが食べる分の備蓄はまだある。焦ってはいけない、稼ぎ頭は私なのだ。あの化け物みたいなやつがいる限り捕まるリスクはあるだろうけど、見つからない様うまくすればまだいける。それにあいつも純粋な速度で私について来れているわけではない、そう、焦らなければ…

「おねぇちゃん!」

「っ!ジーク!なんで此処に!?」

「それよりもみんなが!みんながっ!」

焦ってはいけない、だが…背筋が粟立つ様な嫌な予感がした。

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