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ペンは剣よりも強し


知っている北方訛りなどの数少ない依頼書は5分ほどで、未だに慣れないエルフとゴブリン系の楔の様な文字やオークや獣人の大雑把な字は15分程、一番俺が処理をしたのは魔法使いや学園の教授などからの魔法言語で書かれた物でこれは数秒で程度でなんとかなる。カリカリと筆が走る音だけが鳴り、ただただ黙々と作業を続ける。彼女の方はと言えば大したもので大概の文字、言語を数秒で片付けることが出来ていた。恐らくペースが出来てきたのだろう。昔、中学から商業高校に行き会計士になった奴の電卓捌きを見た時に似ている。

さらに驚きなのは左右の手で違う依頼書を処理している事だ。恐らく短剣使いだったのだろう。手数を生み出すために左右の手を繊細に動かす双剣士は今やペンを握って書類を処理することが本業とばかりに動いていた。


結局、今日は俺の役立てるところはほとんどなく。処理した書類数は100枚行くか行かないか位だった。彼女が訳せない魔道文明系の依頼書を主に訳したので役にはたったと思いたいものだ。それでもこの部屋の紙の山は未だ高いのが現状である。

というか圧縮言語めいた魔法文明語でしかも前期のもので書かれた依頼書の山はもはや嫌がらせだ。魔法使いは読めるだろうが、前期魔法文明語は非常に短く済む代わりに言語として致命的に他者への伝達力というのが弱い、恐らく成り立ちとしては研究者たちのメモ的なものが始まりだったのだろうが、それを面倒くさいからといって現代で、しかも依頼書に使うのはどうなのだろうか…いや、魔法使いは基本的に極まれば極まるほど研究以外のことへの興味関心がない、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。

「そうは言っても、依頼を読めるものがいなければ意味がないんだがね」

「そりゃあそうですとも、そのために私がひどい目にあうんですけどね?」

独り言に反応するのはいいがハイライトの入った目で喋ってほしい…



そんなこんなでもう昼だ。

流石に昼飯は食うだろう。相変わらずハイライトの入ってない目で漠然と依頼書を翻訳、整理、依頼へと再編集していく彼女はホラーだが、扉の外から何かの外れる音がした。それに草食獣の様に目ざとく反応し、肉食獣の様なしなやかさで持って扉に肉薄した彼女は、それと同時に開け放たれた扉に顔をぶつけることとなった。

「っ〜!?」

「おや、当たってしまったかな?」

入ってきたのはキセルを咥えたギルド長、煙が出ていないことを見ればただ口寂しいのだろう。書類という紙媒体は当然ながら火に弱い、それに配慮してくるという事は何かここに用事があるという事だ。

「お、いたいたグラジオ君、どうだいこの仕事は?」

「え、あ、はい、なかなかやりがいがあると思います」

彼は何故か楽しげに俺に問う。というか何故俺なのだ。お陰で吃ってしまった。別段そう言う性格でも喋りが特別下手なわけでもないが、強大な魔力と明らかな強者の雰囲気は慣れない、感知能力が低ければ気づかないのかもしれないが、それはそれで問題だろう。

「まぁ、気の毒だったね他の仕事は手が足りてるし、かと言って外の労働は君の外見では些か…ね?」

「ええ、流石のギルドも幼児同然の見た目の俺が働いてるのは非常識すぎると判断したのは不運だったかもしれませんが、こちらの方が稼ぎも良さそうですし、何より色々な文字が見れますからね」

ギルド長は実質的な上司、いくら根無し草の集団で、ギルドのための一定の功績以外は基本自由主義、個人主義の冒険者といえど上から嫌われればどうなるかわからない、というか個人的にエルフという排他的な種族の集落から飛び出した彼には興味がある。印象は悪くしない様に、しかしそこはかとなく言語に興味がある風に、実際興味はあるがエルフの口語はなかなかに難関と聞く。ここで腰を据えて学ぶ事が出来ればいいのだが、半月どころか出来れば一月の間に出ていく予定の俺は学べないだろう。

「それは良かった。…それはそれでいいんだが、実は君に折り入って頼みがあるんだ。ランク的には指名依頼を入れるのはルール違反だが…それも承知で頼みがあるんだ。勿論断ってくれても構わない、受けたい場合は今夜ギルドのエントランスで待っているよ」

「…ほへ?」

全く予想外、というかあまりにも一方的な通達が俺に帰ってきた。返答は聞いていない様で俺がこの間抜けな返しをするより先に立ち去っていた。

鼻の頭をさすりながらちょっとした恨み言を言う受付嬢はなかなかにホラーだったが、彼はそれ以上のインパクトと疑念を残した。何故俺なのか、というかそもそも彼は何を頼むつもりなのか、ギルドからの指名依頼ならば受付係を通して収集されるはずだが何故そうしなかったのか…

規則違反だからだろうか?いや、規則とは大原則であって固定化されたものではない、柔軟な対応は各ギルドの裁量に寄る。それとも内密にしたいからだろうか?だがそれなら集合場所にエントランスは選ばないし、受付嬢さんもいるここで喋る意味はない、むしろここで喋るべきではなかった。

「…なんなんだ…」

そもそもここにきてまだ二日目、なんの因果でこんな風になっているのか知りたいが、考えても考えても答えは出ない、俺以外の適任がないのだとかそういう思い上がりはない、俺が代え難い人材であると認識されるには未だ早すぎるしそもそもそんな大層なものではない、何か裏がある。何かきっとロクでもない事情かどうでも良い理由があるのだろう。

「はぁ…」

だからそう。ため息が出ても仕方ないだろう。そしてこういう時はちょっとした諦めとともにきっとこう表現する他ないのだろう。『そういう星の元に生まれてしまった』のだろう、とね?

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