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パートアルバイト職員『俺』


「いやー負けた負けた!」

「…はぁ…汗だくで倒れているわたくしたちが勝っていると思う人はなかなかいないでしょうね…」

結局、魔法使い相手に一発も被弾せずに戦うのは難しく。足を取られたあの後、無理やり引き抜いて横っ飛びしなんとか回避し、後2か3メートルくらいまで行ったところで挟み込まれ被弾してしまった。

「な、なんとか勝った…グフっ」

「アンジェリカ、普通はここまで攻め込まれたら負けですわ」

だが相手も相当消耗したようで感じられる魔力がアンジェリカさんの方はかなり少なくなっていた。シルヴィアさんはそれなり残っているが、それでもやはり半分以上を失い肩で息をしている。俺の方は体力の消耗はそれなりだが、沼から出た時に無理やり肉体強化で抜いたので左脚が少しふわふわしている。折れても抜けてもいないだろうが、全力での踏み込みはしばらくできないだろうし、魔力もそれなりに消耗させられた。


問題は、今回は前衛後衛両方相手をすることがなかったが、この先、前にザックのような大楯を構えた戦士がいて、遊撃手、魔法使い、治癒の後方部隊がきちんと機能するような相手と戦うことがあれば自分は間違いなくやられるだろうという事だ。


…俺が目指す最強はあらゆる理不尽、つまり数、力、言葉、あらゆる媒体で襲い来る俺に対しての害意、俺の手の届く範囲の悪意を根こそぎ撃ち砕くような力だ。


俺は模擬戦場の入り口から後ろを見た。

ザックとバッシュは治癒術師に湿布を貼られていて、アンジェリカとシルヴィアは魔力の低下で頭を抑えている。

だが、それは今回たまたま彼らがバラバラに仕掛けてきたからだ。彼ら個人個人の技量は明らかに常軌を逸しており、連携を取ればパーティーとして中級冒険者入りは確実になる。三年前に俺を、俺と『家族』を容易く殺そうとしたあの化け物二匹を倒せるレベルと言うことであり、恐らく彼らが今あのトンボと恐竜に出会っても、苦労はするだろうが倒せないことはないだろう。

そしてそれを単独でうち倒せるようになってようやく、そこがやっとスタートになるのだ。残念ながらと言うべきか、幸いと言うべきか、俺の全スペックを肉体の損壊覚悟で使うならば、ただ単に降ってわいた上級レベルの化け物単独を『殺す』だけなら出来てしまう。


だが、アレらの魔法は未来手に入れられるかもしれない『一瞬』の前借りだ。才能のない、凡人である俺の最初の目標は目標は竜殺しでも、天災の様な怪物を殺すことでもなでも無い、コツコツと積み上げるべき積み木の基礎をコンクリートで作る様な気持ちで行くべきだ。…使えば敵も俺も死ぬ様な魔法はジョーカーのまま切らずに済めばそれ以上はなく。そもそもそうあるべきなのだ。捨て身の必殺技といえば厨二心が擽られるが、実際そんな物を強敵と出会うたびに撃つなど愚の骨頂である。


誰に言うでもなく俺はそう決め、悠々と、しかし満足げに歩き、食堂に辿り着き…寝惚けているのかトーストを咥えて肌けた寝巻きを今にも公衆の面前でストリップしようとするジェシカさんを見るや否やできるだけ使わないと決めた暴走肉体強化寸前の肉体強化を使用して部屋に押し込んだ。

…とりあえず、今日はノーカンである。痛むからだと頭を抑え、模擬戦の時よりもはるかに消耗した体で、俺は慌てて食堂へ戻った。



「それでは、資料室に行きながら色々と確認させてもらいますね?」

「はい」

朝食を食べ終わった俺は頬を赤らめたジェシカさんを慰め、そのあと手筈通りに、というか事前に知らされていた時間にギルドのエントランスで待っていた受付嬢さんと合流しただけだ。

今日の彼女は栗色の髪をお団子の様にしメガネをかけて昨日とは違いハイヒールの様な靴を履いていた。

かつかつと木製の床と踵の当たる音が規則的に聞こえる。ちなみに俺の靴はごくごく一般的な革の靴、勿論ジェシカさんに手直ししてもらった物だ。下水道にぶち込まれた時は儀式に出発する前に無理やり着せられた貴族らしい、有り体に言えば金持ちチックな服装だったのだが、そのあとメイドに変装する際一気に装備を変え、あの暗殺者だった肉塊の血糊がついた部分は切れ端に加工され死亡偽装工作につかった。


自分の薄い底の靴に少し悲しい気持ちになりながら、金の使い道を改めようか考えていると規則的な音が止まった。そこは廊下の途中にある大きな両開きの扉があり、『資料室ーA』と魔字によって機械的に名付けられた部屋名の掛札があった。

彼女は懐から鍵束を取り出し、部屋の魔字と同じ文様が刻まれた鍵を鍵穴に入れ、扉を開けた。

「はい、此処が資料室A、今日のグラジオさんの仕事場です。」

「 …おぉ?」

そこにはファイル分けされた大量の書類、辞書や辞典が並べられた棚とペンとインクの載ったデスクが四つ、そして…床が見えないほどにうず高く積まれ所々崩れたさまざまな形、紙に書かれた書類がデスクを囲い、棚を押しつぶさんとしていた。

不意に鍵の閉まる音が聞こえる。

「うふふふ…」

「え?え!?」

受付嬢さんが閉めたようだ。いや、そんなのはわかっている、問題はなぜしめたのか、だ。内側にいる彼女はちょっと薄気味の悪い声で笑いながらぬるーっと俺に接近してくると…

「…春は給料もいいけど書類の量が多いんです。これを見たらわかると思いますけどお手伝いさんがいない時はこれを私たち受付嬢が片付けているんです。鍵をかけるのは逃亡防止、そして…」

ガコン、何か重い物が扉に取り付けられた。うん、いや、うん…

「えへへへ…よろしくお願いしますねグラジオくん…」

そうだね、デスマーチだね、そりゃあそうだ。ギルドは幅広くさまざまな場所から依頼を受け付け、それを割り振る場所、冒険者が日に数千、場合によっては数万の依頼を片付けるが掲示板から依頼がなくなることはなく。その数は次の日には補充されている。

そう、補充されているのだ。

光のない瞳、いわゆる『レイプ目』でこちらを見つめる彼女の目元に、薄く化粧をすることでごまかされていた隈が見えた。


やはり、楽な仕事というのはないのだろう。だが俺は目の前の依頼書を手にとってみて少しニヤつく。

(やはりだ。エレメントの公用語は大陸共通語だが、このギルドの対応する範囲にはエルフと獣人の集落もある!)

そこにあったのは森の言葉、エルフやゴブリンなどによって使われる独特の文法の言語が記されていた。俺は早速辞書を片手に翻訳を開始する。

いやはや、幼児とは素晴らしい、子供の頃ほど学ぶことが楽しいのは大人と比べて習得までの時間が短いからだろう。木の葉の様な手触りの緑の紙を訳し終わったのは30分後、俺が作業を始めて彼女も始めた様だが、その速度は俺の10倍、さぁ…楽しいお勉強の時間だ。

忙しかったんです許してください、なんでもはしない(きっぱり)

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