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過剰負荷、僕は悪くない


「っは!?」

し…ってる天井だ。ギルドの宿泊施設、その天井だ。横を向くまでもなく俺を覗き込んでいたジェシカさんが笑みを浮かべる。

「…お目覚めになりましたか、もうお昼ですが、朝食をもらっておきました。代金は既に私がいくつか依頼をこなしたお金で払ってあります」

「あ、ありがとう?」

「ええ、どういたしまして」

…どうやら、未だに慣れない戦闘という俺にとって特別な時間と魔力調律、殺気や威圧によって俺の精神疲労は頂点を超えていたらしい、それに気がつかないとは…自己管理の甘さが恨めしい…

「いいえ、それは違います」

「…自然に心を読まないでくれない?」

「声に出てますよ…」

口をふさぐ。

「はぁ…あまり無茶しないでください、魂は異界から来ていようと精神も肉体も今はまだ未熟です。体力も昨日の今日で回復しきるほど小さな消費ではなかったのはお分かりでしょう?」

「はい…そうですね」

まぁ、そうである。昨日もギリギリまで模擬戦を続けていたし、今日の朝は馬鹿みたいにわざわざ彼女を守って戦った。しかも運が悪ければ簡単に胴体と頭がお別れする様な相手に対し手札を出し惜しんだ。最終的に彼女が本当にただの暗殺者で、奴隷契約などなくとも他の命令などの履行を余儀なくされていれば死んでいた。

はは…今更ながら運がいいだけの初戦闘だ。振り返ればいくらでも反省点が見つかる。

なぜ俺は水路の流れに彼女を突き落とさずそのまま庇ったのか、水路に叩き込んでおけば流れで逃げられるかもしれないし追いかけるために分断できるかもしれない、少なくとも肉体強化を最大にして後先考えないなら魔法の発動を阻止して20秒以内にかたをつけられた。デイダラさんやピーター氏相手に最大強化状態ならスピードとパワーで優位が取れたのだ。中級冒険者上位程度の相手なら速攻で片付けられただろう。

他にも今考えれば手はいくらでもある。そもそも相手が俺を舐めているのかどうかも判断がつかないまま勢いで『しぎゃくしんに酔っている』と判断を下したが、だいたいの実力者は隙を見つけるために何かを隠蔽する。今回はたまたまそうでなかっただけだ。やはりあの技を使おうと思ったのは早計だったし、やるとしたら相手を調子付かせるために何発か鞭を食らって見て見極めたり、何か別の方法で相手を激昂させればよかった。

「グラ様、震えてますよ?」

「武者震いって奴だよ」

今更ながら俺がどんな博打を打ったかを自覚し、震えが止まらない、やはり一人では冷静になりきれない、色々と動揺する要素が多かったのも事実だが、夢想が暴走して犬死してはたまらない、生き残るのは最低条件であり最大の条件だ。

そもそも殺しを決意したのに結局殺しきれてないのが俺の弱さをありありと示している。なんなんだよ、『排除するには殺すしかないだろう』じゃねえよ、結局魔力欠乏症って言う瀕死には追い込んだがそのあとは俺が関与できない領域になってしまった。いや、させられてしまった。

「くそぉ…」

単純な暴力、それも強さだが俺にはそれを振るう度胸すらないと言うのだろうか?涙がにじむ。俺はそれを乱暴に拭い去り、ベッドから立ち上がった。

「少し、外に出てくる。薬草摘み依頼があれば受けてくるよ」

「…ええ、そうですか…当然私もついていきますからね?」

「ああ、頼りにしてるよ」

切り替えなければ、ライダースーツのようなぴったりとした革鎧に金属板を装飾するようにつけたジェシカさんはまったくもってメイド成分がかけらもない、よくよく考えれば今日の朝は迂闊すぎたのかもしれないなぁ…


〜〜〜〜


私は魔力障壁の実体化を半ば消失させつつも急所に当たる頭や首、心臓などを防護するように纏っているのを見てため息を吐く。

なぜ魔法使いが近接戦闘しないのか、その答えは魔力操作や術式、イメージの具体化や魔力調律などあらゆる魔力の絡む精神活動が思考力、思考量とでも言うべきある一定のキャパシティと処理速度しか持たない人間の脳で持って行われているからです。

そして彼は常に起きても寝てもそのキャパシティを占有する魔力障壁と肉体強化をしているせいで非常にカロリーと精神力を消耗してしまいます。そこに近接戦闘などの高度な思考や判断を強いればそれを仕損じることは必定です。たしかに私も近接魔法師ですが使用する魔法をほとんど動作で持って発動できるレベルま

で暗示したので思考量は比較的少なく済んでいます。まぁ、それでも不利なことに代わりはないのですが…


「この門を出ればいいのかな?」

「ええ、この先に依頼で求められている薬草の生えている森や草原があります」

いえ、それでです。

彼の場合暗示をかけるまでもなく五年の積み重ねのせいか既に魔力障壁と肉体強化については無意識で魔力を操作する程度のことはできるのですが、その出力を意図的に抑えているために今のような疲労状態、精神疲労の蓄積した状態が続いてしまっているのです。

たしかに、常に物理障壁を纏っていると人ごみの中にいるのも一苦労なのですが、そのために合わせて肉体強化の出力も下げなければならないと言うのがネックなのです。彼の肉体強化は現在の肉体の出せる出力を外殻を纏うことで圧倒的に上昇させるという物、日々トレーニングを積み肉体の強化に勤しんではいますが、むしろそのせいで出力が向上し外殻にも相応のコストが必要になっています。

これがある程度の成長点を越えれば、具体的に言えば成人する頃くらいには安定しますが…それは10年も先の話、正直に言えば今の彼は肉体的に強くなればなるほど精神的な疲労が大きくなるという致命的な欠陥を持っている。

魔法や魔術は道理に当てはめて世界を歪める術ではありますが、それによって当然のごとく顕れる歪みは甘んじて受けなければならない、どうしようもできないことですし、暗殺者がいる中で魔力障壁を解くのはどう考えても自殺行為です。


一応、道すがら昨日のハーブティーの材料を集めますが、睡眠導入剤と言うだけであり毒物や薬物に対する耐性が極めて高い彼には既に効き目がないかもしれません、しかしそれでも今ここで潰れてもらっては私の決意は無駄になり、何より彼が私を頼るように私も彼に頼っています。

「まぁ、成るように成るしかないですね…」

「ん?何が?」

「貴方のことですよ」


〜〜〜〜


森は屋敷の敷地であったあの森よりも明るく。人の手による管理の跡が見える。

「樵なんているのかな?」

「…どうでしょう?スラムの方々やタイムの街での燃料用に伐採されているだけではないですか?」

ふぅむ、まぁそうなのかもしれない、正直この世界の樹木、草本は馬鹿みたいに生命力が高い、人間が毎日森を削るような勢いで伐採したとしても大型の草本植物が多く。竹のような勢いで成長する木の様な草と言う化け物めいたものが森の大半を覆っており、本物の木と言うのはそれらが草に見える様な大きさの巨大樹が主である。

まぁ、ただ人が住む場所では多くの場合切り倒されおり、木はそれなりに常識的な成長速度で育つため今のところ間近で見たことはない、だがその切り株の上に土が積もり小高い丘の様になっているのは流石異世界という風情である。

「おぉ…」

細かな薬草を摘みながら森を抜けると一気に明るくなる。森の中にポッカリと穴が空いた様な、そんなレベルでは言い表せないほどの広さ、きっとドーム何個文とか、何百ヘクタールとかそういう単位の話だ。そこには腰ほどの高さの草(まぁ、実はこれが苔類なのだが)、そこから一つ頭を飛び出させた春らしい陽気に咲く花が美しい草原だった。

森の地面から少し高い場所にあるここには決して森は侵食してこれない、少し手前から知覚できるレベルの傾斜があり、一瞬だけ頭の上の方にある葉の形が変わる。そこがこの切り倒された巨木の根元であり、森との境目に映える黄緑の葉を茂らせる立派な樹木が足元で未だに生きる巨木の切り株から生えた若芽なのだ。

「すごいなぁ!」

やはり素晴らしい、虫も、土も、草も、木も、遠巻きに俺たちを観察する動物もその全てが目新しく。その美しさのなんとみずみずしい事か!

花を咲かせている草はこの世界では苔の仲間だが、その多くが薬草であり、植物の多くは大気からも地表からも魔力を吸い込み不思議な性質を持つが、この苔類の仲間は非常に水や土地に影響を受けやすく。それ故に他の植物よりもより奇妙な性質や生態を持つ。


例えばこの白い花、花弁は五つでその根元はぷっくりと膨れており中に雄しべも雌しべも果実も無い、正確に言うならこれ自体が雌しべであり、雄しべは雨が降った時に地面から勢いよく精を吐き出し水に混じって雌しべの膨らみへ到達、しばらくすると雌しべのふくらみが大きくなっていき中の受精した液体があたりにぶちまけられる。

そこからが面白いところだ。ぶちまけられた液体は走性、つまり何かに引き寄せられる用に動く力がある。ぶちまけられたこれらの液体は必ず高い場所に向かっていく。なぜか、日光を得るためだ。そして生存競争に勝ち、他者を足蹴にするために物理的に相手よりも上に乗って相手を枯らし、その養分と日光を独り占めにして成長する。

もちろん、この世界の他の植物も馬鹿では無い、彼らもそれぞれ生存するために有利な特性を備えている。見ていてゾクゾクするほどこの世界の植物は動的で、その原動力は間違いなく魔力である。

魔力とは…一体なんなのだろうか?


「グラ様!観察もいいですが採集を手伝ってください!」

「ああ」

おっと、忘れていた。俺は今依頼でここにいるのだ。決して植物観察に来たわけでは無い、この雌しべの中身は人体や動物などが摂取すると甘味を感じる。だがそれと同時に強烈な睡眠導入作用が発現し量にもよるが数週間ほど寝てしまう。その間に雨が降れば…そいつの身体は周りよりも少し高い場所にある。あとは簡単だ。そいつを丸ごと栄養にしてすくすく育っちゃうわけだ。

だが、沸騰させれば睡眠作用成分は崩壊し糖分が結晶化、貴重な砂糖モドキになるし、薄めて睡眠導入剤、濃縮して配合すれば麻酔にもなる。

「とりあえず…ちょっと金を集めるかそこらへんの物で籠でも作るか〜」

「それがよろしいでしょうね」

俺がぼけっとしている間にちゃっかりカゴを持った彼女はしたり顔で薬草を摘む。

だが俺は知っている。相も変わらずそそっかしい彼女は多分…

「ふふ、グラ様ー、遅いですよー」

「気をつけてね〜そこは…」

「ほぶっ!?」

…うん、まあ、わかってた。そろそろ来るとは思ってた。俺の手前で見事にアシカケソウと呼ばれるアーチ状の草に足を見事にかけた彼女は俺の顔に雌しべの蜜をぶち撒けた。

この草原において最も多い死亡事故は転倒からの蜜との接触、集めていた蜜をひっくり返して足を滑らせ眠ってしまうなどなど、まるで自然界の悪意を凝縮した様な人殺スイッチである。

「あわわ!?」

「はーい、落ち着いて〜、魔力障壁で防いだから大丈夫だよ」

…とりあえず、いくらか心持ちはマシになった。ありがとうドジっ子暗殺者モドキメガネメイドさん…萌は俺の癒しだよ…たまに尊死しそうになるけどね!

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