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彼と俺と奴の実力差



「でかい斧だ。振り回せるのかい?」

心配する様な口調、だが心配するそぶりはない、俺は仕方なくきちんと斧を担ぎ構える。周りはどよめくが気にしない、目の前の試験官、油断ならない短剣術使いのアルブレヒトをまっすぐと見据える。マトモな術式魔法が使えない俺が、無属性魔力と身体能力で敵を倒すためにはこちらの土俵に相手を引きずりこむか、もしくは限定的にだが俺が有利な場面、タイミングをうまく見つけるしかない…俺はそのために対処すべき相手の情報や知識、相手の持ち物や動きから何を持っているのかを推察する力、いわゆる観察眼という物を養ってきた。

観察は得意だったが、事細かに知りたいことを知れる様な観察法というのはジェシカさんとピーター氏仕込みだ。流石に彼らの様に目の動きや些細な動作から人物像やら思考やらを読めるほどではないが、最低限、戦うに当たって使えそうな情報を多少手に入れるくらいならば出来る様になった。

(両手利き、多分元は左利き、ブーツや籠手、鎧の裏に短剣か同じ様な機能を持つ物を複数所持、投げナイフも有るが…持っているであろう物に対して彼のブーツが地面に沈みすぎだ。何か隠している。)


…対策はいくつか考えることができるが、俺ができるのは…魔力を回して障壁を厚くするだけだ。地面を踏みしめ、身体強化、循環による肉体強化、無属性術式魔法による斧の衝撃力の強化と硬化、笑って飛び出す!

「…いく!」

「くは!」

普通に振り回せば短剣の方がもちろん早い、だが…狡っこいかもしれないが俺の身体能力は並ではない!



学園に所属する騎士候補や魔導師候補は授業の一環として冒険者としての資格を取ることが推奨されている。国家に所属することを確約しているが故に狭まりがちな視野を広げるため、また冒険者としての経験はそのまま野営技術やサバイバル術、もちろん戦闘技術もそうだがなによりも自らを守るという事の経験になる。

…なんて、教官たちはいっていたが俺はここに来るまで正直なめていた。

なにせ俺たちは大陸最強と名高いエレメント騎士団の騎士を目指すため訓練してきたのだ。たかが雑用屋に負けてたまるかと思っていた。だが、そんなチンケなプライドはここに来て二度折れた。

一度目はあの意味不明なガキだ。もちろん、俺が席を間違え、喧嘩を売ったのが原因だが、魔力循環がクソ下手だとはいえ成人した俺を俺の腰ほどまでしかないあのガキが押さえつけるなど常識では考えられない、だが俺はここで漸く俺たちはがまだ騎士『候補』でしかないという事を突きつけられた。

二度目はアルブレヒトとの戦いだ。中級と聞いてすこし油断したが、その殺気と威圧に気を引き締め直した。そのはずだった。

その戦い方は…騎士というのがいかに狭い範囲の戦いしか見ていないか、教えられていないのかを教えられた。俺は教本通りに動いていたが、相手は教本に従いつつもそれを崩していた。手足もそうだが跳ね、飛ぶなど隙が生まれるだけに見えるような動きも軽装ならではの機動力で俺の視線を揺らし、死角からの攻撃を許してしまった。戦いは流れだ。俺はいつのまにか掌で踊らされていただけだった。

俺は…要するにまだ最強の騎士団に入ることができるかもわからない候補でしかなく。この広い世界では強者と呼ばれる地位にないのだ。悔しいし、涙も少し出たかもしれないが…そんな暇があれば学ばなければならない、そう思わされた。


…そして俺は今、もう一度認識を改めなければならない様だ。

「るぉぉぉぉぉおおお!」

「っくぅ!はやいねぇ!」

「まじかよ…」

巨大な、あのガキの身の丈を優に超える様な大きさの戦斧があの柔らかな子供の手と体と腕によってまるで木の棒か何かの様に、まるで重さなどない様に振るわれる。

アルブレヒトの投げナイフも謎の壁の様なものに阻まれ空中で止められる。

アレは…魔力?だがあんな魔力放出をしていれば1秒と持つはずがない、いや、それ以前に魔力放出では投げナイフを止めるなんて芸当はできるはずがない!まさか…アレは魔力障壁か!

「あっは、ちょっと相性悪すぎだねぇ!」

「こちらとしてはギリギリなんだがな!」

戦斧で二刀流短剣の回転速度に追いつく。というのはいうほど簡単なことではない、そもそも戦斧を短剣で弾ける試験官もおかしいが、弾かれることで逸れる筈の斧の軌道を常に微調整しながら嵐の様な連撃を続けるガキもやはりおかしい…いや、はっきり言おう。恐らく奴の技量とあの魔力によって生まれる障壁は初級冒険者を大きく超えている。それでも届かない中級冒険者という存在はつくづく化け物じみている。


…というか、あの二人、汗一つかいていない、俺らも鍛え込んできたはずだが…俺の体力そのものが根本的に足りていないのだろうか?



「きついな…」

「こっちのセリフだよ、キミィ、実はもう傭兵ギルドで中級くらいになってからきたんじゃないの?」

アホ言え、おっさんこそ絶対中級じゃないだろ、仮に中級だったとしても上級一歩手前の化け物じゃないか?

互いに武器を当てあい衝撃で後ろに下がる。構えを防御、習った通りに腰だめのものにする。これが最も防御に適したとはいうが逆に言えば攻めには向かない構えだ。ここからの攻撃は上段からの様な連撃には繋がらない、だが…

「一撃必殺の構え…偉大なる上級冒険者ディオドラ・ランドウォーカーの斧術…いいねぇ、俺もちょっとやる気出てきちゃったね」

「…できれば、この一撃で沈んでくれ…」

俺は力を込め、障壁から肉体強化に魔力を移動しながら循環をさらに高速化していく。まぁ、かなり集中しないとここまで高速化できないので実戦では使えない、だが彼ならば待ってくれるだろうし、この今の俺が出せる最高火力がどこまでのものなのか…試すことができる!

「…準備はいいかなぁ?」

アルブレヒトは無造作に、しかし完璧なタイミングで距離を詰める。俺がこの技をまともに当てられるとすれば…俺に向かってヤイバが…振り下ろされた瞬間しかない!

「『武技:魔人斬り』!」

魔力を斧に纏わせ、命中した一瞬のみ圧縮した魔力を解放することで当たった場所から魔力暴走が発生しそれに斬撃が加わることで爆発ではなく斬撃の渦が発生するごく初歩的な技術だ。

砂煙が発生し重いものが崩れる音がする。


俺は首筋に感じる鋭利な物の気配に溜息を吐きながら両手を上げる。

「降参です」

「…ふぃー、惜しかったねぇ、けどいい練度だった。俺があそこまでいくのに五年はかかったからなぁ」

足元に転がる戦斧の刃、恐らく短剣に魔力を纏わせ無理やり柄を断ち切ったのだろう。

「ま、合格さ、多分すぐに中級だろうね」

そう言って彼はわずかに傷ついた皮鎧の胸あてをみてため息を吐く。

「これ…高いんだぜ?」

「…全力だったんで許してください」

とりあえず…確実に合格だ。



おっさん冒険者なんて呼ばれてからここまで若者にヒヤリとさせられたのは…結構いつもだけど、いや、うん、ひさびさに命の危機すら感じる戦いだった。

「グラジオ…ね」

膨大な魔力、この国では特に顕著な差別を受け、戦闘には不向きと言える無属性、どれを取っても異端だが、その奇妙な合致はいつかみた人類最強を誇る怪物を思い出す。

「エレメント王国は、でかい獲物を逃したねぇ」

中級冒険者にして、上級冒険者パーティーのリーダーを務める冴えない男は流れた汗を拭き取り、去っていく子供の背に期待をする。

彼が望めば、少しくらい手助けしてやってもいいだろう。そう思わせてくれる若手が増えるのは、彼にとって密かな楽しみとなっていた。

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