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冒険者となる為に〜戦闘試験〜


闘技場の様な場所は思ったより殺伐とした雰囲気ではなく。木剣や蝋でヤイバを潰された槍などさまざまな練習用の武具を使い訓練をする冒険者の一団がいてもどこか前世のジムの様な、ある種緊張しているのに緩んだ様な空気が流れていた。

そこに若々しさも初々しさもある若者が流れ込んで来れば、より一層空気の軽さはまして行った。そしてまだ試験官がきていないのもそれが狙いなのだろう。俺は自分に使えそうな得物を見ながら同じ動きをする少し歳を食った冒険者候補達に混じって静かに過ごしていた。


誰かが入ってきた。

それがわかったのはいきなり空気が淀んだから、別にその人が臭いとか、相応物理的なものでは無い、明らかな殺意、敵意、まとめて害意の仕業である。

ザリザリと砂を蹴って歩いてきた長身の男は狙い通りに竦んでしまった若者たちを見て溜息を吐きながらその威圧を解いた。

「っは!」

「おいおい、ジェシカ大丈夫か?」

「え、ええ…よくもまあグラジオは涼しい顔で居れますね…」

ジェシカさんだけでは無い、赤髪くんや多くの村人だっただろう若者は膝をつき、人によっては気を失っていた。平然としているのはザックやおそらく騎士や戦士候補として学園や訓練を受けてきたのであろう人々

それに俺と同じ様に備えていた人たちだ。

「…はぁ…中級冒険者、ああ、最近マジ表記になったんだっけ?C級冒険者のアルブレドだ。よろしく?」

彼は少し気だるそうに言う。長身ではあるがデイダラさんほどでは無い、というか中肉中背にすら見えるその身体つきは道端で見れば本当に冒険者なのか怪しさすら覚えるだろう。

だが俺たちにはもう疑いようが無い、あの殺意、凄みが出せる人間が堅気な訳がないのだ。

「えーッと、とりあえず気絶しちゃった人たちは失格でーす。救護の人たちお願いしますね〜」

パンパンと手を叩くと白魔術と呼ばれる薬学や医術、そして教会や一部の人間にしか使えない神の術式『治癒魔法』の使い手であることを示す白衣を纏った人々がちょっと面倒くさそうに出てくる。彼らがテキパキと失格者たちを運んでいく。

「では、戦闘試験を開始しますので〜皆さん、訓練用の武器を持って最初配られた魔字と番号の組み合わせ通りに並んでくださいね〜」

白衣の人たちが人を運ぶのを背景に彼が号令をかける。ギルド職員の促しもあったが、ほとんどの人は逃げる様に武具を選びに行った。

俺は言われると同時に身の丈を超える巨大な斧を発見したのでそいつに決めた。



あー、面倒臭いなぁ、みんな学術試験はいいっぽいんだからこんなことしなくてもいいと思うんだけどなぁー

「サボらないでくださいねアルブレドさん」

「はいはい…」

俺は頭を掻きながらあくびをし伸びをする。横をすり抜けていく様に白衣の集団に紛れてきたギルドの受付嬢さんにひやりとしながらとりあえず持たされた紙に合格候補者を書き込んでいく。

「ふーん、結構多いなぁ」

俺の時はもっと少なかった物だ。明らかに弛緩しきったした空間、そこへ放り込まれる一匹の猛獣、俺たち中級冒険者が試験官に選ばれるのは純粋な威圧のみで気絶する奴らが続出の上級冒険者共に新しい冒険者の卵どもを潰させない為だ。

ま、これで気をやってしまう様ならこの稼業は向いていないし、目の前で死んでいく仲間ややばい化け物を目の前に餌になるだけだ。

俺の目が捉え、そして筆が止まったのは一人の子供だった。

「…I45、ね、面談通過で学術試験は…わお、満点ですかぁ…」

頭の出来はいい、いや、頭の出来もいい…か、一瞬こちらの視線に気づいてこちらを向くが俺の肌に少しぞわりとした怖気が走る。初級の狩場に上級が紛れ込んできた餓鬼の時分を思い出す。あの身にまとう異常な魔力、それによって生み出されそれらを覆い隠す魔力障壁、上級魔獣かなんかかオイ…魔力循環も高速域で肉体強化が得意な無属性、それで俺は見逃さなかったぜ?お前、今その大の大人5人がかりで持ち上げる様な戦斧を片手で上げやがったな?

「…赤髪の子や騎士候補もやばいけど、あの子はちょっと…厳しいかも」

肉体強化と魔力循環で大概の奴らは蹴散らせるが、あの子達はやばい、中級冒険者として持ちうる手札を何枚か切らざる得ないだろう。というか負けると後から色々言われたり、依頼料が下がったりあいつらにおちょくられる。今面倒臭いか後からちまちまちまちま面倒臭いなら、今なんとかすべきだろう。

ま、正直やれるか不安なんだけどネ!



試験が始まった。

俺はわざと引きずる様に持っているが、周りの冒険者候補は騙せても彼は騙せなかったらしい、どうやら最初うっかり持ち上げたのを見られただろうか?まぁ、いい、おそらく目の前で見るのと想定するのとはズレが生まれる。そこに漬け込めばいい…

いや、勝たなくてもいいんだけどね?

「っぐあ!?」

「はいはい、ワキが甘いね、けどまぁ大丈夫でしょ」

クレイモアの様な両手剣を手に挑んだ村人Aは片手剣と盾を巧みに使う彼の前にあっさりと破れ、片手剣を手にした村人Bはあまりに隔絶した技量に瞬殺されたが、防御やとっさの判断、手癖足癖、あらゆる手段を講じて少しでも長く生き残った彼らは合格となった。だが、あまりにも弱すぎたり、酷いという人は容赦なく落とされていく。


ややあって、最初に変化があったのはザックの番の時だった。

ザックは大盾に半両手剣の様な長大な剣を持つ重戦士スタイル。明らかに構えや動きが今までの村人達とは違う。

「っしゃ!いくぜ!」

「お手柔らかにね〜」

その瞬間明らかに今まであった模擬戦的なヌルさが吹き飛んだ。

ザックの初手はシールドでのバッシュ、アルブレドの初手は…

「な!」

「おそいねぇ!」

明らかに先ほどとは違った動き、魔力循環と肉体強化相乗の暴威だ。だが彼は笑う。

「くは!いいねぇ!俺もいい加減動き足りなかったんだよ!」

半両手剣、大盾の動きを完全に止め、それを引き戻しアルブレドの剣を逸らす。苦笑いを浮かべる彼が盾の裏から投げナイフを放つが片手でクレイモアを振るうザックに撃ち落とされる。全身鎧を着たザックが軽装のアルブレドに追いつくのにはカラクリがある。フットワークだ。

重装戦士はやはりどう肉体性能をあげても軽装の方も同じ能力を持っていれば速力で勝るのは軽装の方だ。それを埋めるため、そしてその差を潰し圧倒するための技術として足運び、最小最短でさながら拳闘士の様に、足先から腰まであらゆる部分を連動させ地に足をつけたまま、しかし一息に大回りして死角に回らなければならない相手に対して仕掛けてくるタイミング少し前にそちらへ向き死角を消す。

剣を振る速度が劣ろうと落ち着いて防御し、長大な剣のリーチで削る。

おそらく槍が得てなのだろうが好みのが無かったのだろう。そして騎士の恐ろしいのは…

「ハッはぁ!」

「っく!」

剣が伸びる。正確には赤く燃え上がる炎が剣にまとわりつき、そのリーチを伸ばし、当たっていなくてもその熱で動きを制限する。

「いや〜やっぱ辛いねぇ」

「クハハハ!よくやるじゃねえかおっさん!」

騎士とは剣と魔法を高次元で操る戦士、この存在があるおかげでエレメントの騎士団は数少ないものの精強であった。


さてさて、打ち合いというより攻めと受けの応酬は続くが見た目はどちらも無傷、だが…

「っく…」

「まぁ、そろそろきつくなるよねぇ」

防御に粗が目立ち始めたその一瞬、鎧の間に剣が入り鈍い打撃音、更にそこから痺れた左手を打ち盾が飛ぶ。最後に右手で持っていたクレイモアでの攻撃をしようとするが、おそらく一息に起きた攻めに動転したのか、それともキレてしまったのか、猪突猛進気味になった瞬間手首のスナップが効いた一撃がザックの意識を刈り取った。

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